医療ガバナンス学会 (2015年5月13日 06:00)
記
「医療事故調査制度」法令解釈指針
1.医療事故の定義について
○ 基本的な考え方
(2)「予期しなかったもの」
<法令解釈指針>
1.すべての死亡症例に対して恒常的に「予期」の有無をチェックしていくことによって、カルテ記載などの充実化、事前説明の適切化を図り、もって、漫然とした医療をなくして予期能力を高めてインフォームドコンセントの充実をも目指す。
2.まずもって、全死亡症例についての「予期」の有無を調べる院内態勢を整えること。
5.支援団体の在り方について
【告示】
支援団体について
○支援団体は別途告示で定める。
<法令解釈指針>
1.医療安全の確保のための医療事故調査は、医療機関の開設者・管理者・医療従事者が一体となって行われることが望まれる。しかしながら、時には、医療事故調査の実施を巡って、開設者・管理者・医療従事者の間に意見等の対立が生じることも現実にはありうる。そこで、支援団体についても、開設者・管理者・医療従事者の相互間に対立が生じた場合にも、それぞれの立場に応じた支援ができるように、多様に認めていくことが望ましい。
2.支援団体は、告示に定めた資格・機能などを備えることが望ましいが、それ以外の団体を排除するものではない。
【通知】
支援団体について
○ 医療機関の判断により、必要な支援を支援団体に求めるものとする。
○ 支援団体となる団体の事務所等の既存の枠組みを活用した上で団体間で連携して、支援窓口や担当者を一元化することを目指す。
○ その際、ある程度広域でも連携がとれるような体制構築を目指す。
○ 解剖・死亡時画像診断については専用の施設・医師の確保が必要であり、サポートが必要である。
6.医療機関からセンターへの調査結果報告について
○ センターへの報告事項・報告方法(省令事項)
当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見がある場合等は、その旨を記載すること。
<法令解釈指針>
1.医療事故調査の過程において、当該医療従事者や遺族からのヒアリングを行った際に、当該医療従事者や遺族が意見・質問・疑問などを提示した時には、報告書又は別紙において、その意見・質問・疑問などの要旨を記載すること
2.報告書の完成後、センターへの報告の前にあらかじめ報告書の内容を説明(ただし、報告書そのものを開示もしくは交付するという意味ではない。)した際に、当該医療従事者や遺族が意見・質問・疑問などを提示した場合には、別紙において、その意見・質問・疑問などの要旨を記載すること
7.医療機関が行った調査結果の遺族への説明について
○ 遺族への説明事項・説明方法(省令事項)
【通知】
遺族への説明方法について
○ 遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う。
<法令解釈指針>
1.報告書は、もっぱら医療安全の確保の観点からの調査の目的・結果を、専門的・医学的観点から調査して記載するものであるので、遺族の関心事・疑問点・思いなどとはずれることが多い。また、遺族の医学的知識とは大きなかい離があり、報告書の記述内容を遺族には容易に理解できないことも多い。しかし、報告書はあくまでも、もっぱら医療安全の確保の観点から医療安全に必要な事項に絞って、専門的・医学的にできる限り正確に記載しなければならない。例えば、法的な過失の有無の認定は医療安全に必要な事項ではない。また、医学的機序についても、遺族から断定することを求められたとしても、可能性の領域にとどまるものはあくまでも可能性のレベルであると記載しておかなければならない。
2.遺族への説明については、遺族の関心事・疑問点・思いなどとずれが生じていることも多く、遺族の医学的知識が大きくかい離していることも多いので、報告書そのものの交付が必ずしも適切でない場合が多い。
たとえば、法的な過失の有無に対する見解を求められていても報告書に記載して交付してはならない。また、医学的機序について、たとえば誤薬のゆえの死亡であったことの断定を求められても、それが可能性の領域にとどまるものならば、遺族の要求に迎合するような断定の記述をしてはならない。
これらのようにずれやかい離が生じそうな場合は、WHOガイドラインで言うところの「学習目的の」報告書の交付は適切ではない。
そこで、管理者は、諸般の状況から判断して、口頭での説明又は説明用の資料を活用する。口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)もしくはその双方のいかなる方法が適切かは、管理者がその裁量によって総合的に判断する。
○ 調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない。
<法令解釈指針>
1.「遺族が希望する方法」が本当は何なのかは、遺族が説明を欲している意見・質問・疑問などの関心事・疑問点・思いといった内容に対応させて、できるだけ客観的に、管理者は真に適切な方法を判断するべく努めなければならない。
2.「遺族が希望する方法」が直ちに「報告書」を意味すると考えるのは、安易である。遺族の関心事・疑問点・思いといった説明を求められている内容に対応した方法が、「遺族が希望する方法」である。
3.ただ、「遺族が希望する方法」で説明するのは、あくまでも努力義務に過ぎない。たとえば、「報告書」の交付が客観的に見ても「遺族が希望する方法」だったとしても、院内での調査委員の間に見解の対立があったり、断定できずに可能性の領域にとどまるものが多くて遺族に誤解を与えかねなかったり、当該医療従事者が異論を述べていたりする場合など、そのまま「報告書」を交付することが適切でないことも多い。あくまでも努力義務となっているのはこのような理由などもあるので、果たして本当に「報告書」の交付が適切であるかどうかは、管理者は慎重に判断しなければならない。
4.諸般の考慮により「報告書」の交付が適切でなく「口頭(説明内容をカルテに記載)もしくは書面(説明用の資料)」によるのを原則とするのが適切であると判断する医療機関は、院内規則を改訂して「報告書非開示特約」を設ける手立てもある。また、諸般の考慮により「報告書」は交付するが訴訟で使用されたくないと判断する病院等は、院内規則を改定し「報告書証拠制限特約」を設け、報告書交付時には「証拠制限契約書」に遺族のサインをもらってから交付するという手立てもある。
8.医療事故調査・支援センターの指定について
○ 厚生労働大臣は、センターの指定の申請があつた場合においては、その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同条の指定をしてはならない。
・営利を目的とするものでないこと。
・調査等業務を行うことを当該法人の目的の一部としていること。
・調査等業務を全国的に行う能力を有し、かつ、十分な活動実績を有すること。
・調査等業務を全国的に、及び適確かつ円滑に実施するために必要な経理的基礎を有すること。
・調査等業務の実施について利害関係を有しないこと。
・調査等業務以外の業務を行っているときは、その業務を行うことによって調査等業務の運営が不公正になるおそれがないこと。
<法令解釈指針>
医療事故調査制度は、改正医療法に基づく独自の制度であるから、旧来から実施されている他の類似の事業とは異なる。調査等業務以外の類似業務(たとえば、医療事故情報収集等事業、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業)を行っていたとしても、当該類似業務の考え方や手法に即して行うと改正医療法に則っていない事態が生じることがあり、調査等業務の運営が不公正になるおそれがあるので、それらの異同に十分に留意しなければならない。
・役員の構成が調査等業務の公正な運営に支障を及ぼすおそれがないものであること。
・調査等業務について専門的知識又は識見を有する委員により構成される委員会を有すること。
・前号に規定する委員が調査等業務の実施について利害関係を有しないこと。
・公平かつ適正な調査等業務を行うことができる手続を定めていること。
10.センター業務について(2)
○ センターが行う調査の依頼
【通知】
センター調査の依頼について
○ 医療事故が発生した医療機関の管理者又は遺族は、医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案については、センターに対して調査の依頼ができる。
<法令解釈指針>
1.医療機関の管理者は、当該医療従事者が報告書の内容について意見等を述べている場合に当該医療従事者からセンターに対する調査依頼の要求を受けた時には、センターに対して調査の依頼をする責務がある。
2.当該医療従事者は、調査過程におけるヒアリングにおいても、報告書の完成後においても、自らの人権行使の一環として、積極的に意見等を述べて、報告書又は別紙に記載してもらわなければならない。当該医療従事者は、専門的・医学的観点から報告書の内容に意見等がある場合には、原則としてセンターに対する調査依頼の要求を、管理者に対して行う。また、法的・人権侵害的観点から報告書の内容に異議等がある場合には、原則として報告書作成の委員個々人の責任を追及すべく、訴訟その他の法的手続きを行う。
3.遺族は、報告書の内容に異議があるときなどは、センターに対する調査の依頼をするか、または、当該医療機関に対する訴訟その他の法的手続きをするか、どちらかを選択的に行使する。しかし、双方を同時並行的に行うのは、医療安全の確保のためのWHOガイドラインで言うところの「学習目的の」作業に支障が生じるので、慎まなければならない。