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臨時 vol 84 高久通信「カレーの効用」

医療ガバナンス学会 (2008年6月29日 12:35)


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                 自治医科大学  学長 高久史麿


 以前あるMRICで、カレーライスの黄色の主成分であるクルクミンを老齢のマウスに食べさせたところ、脳中アミロイドβタンパクが減少したこと、すなわちクルクミンがアルツハイマー病の予防、治療に有効である可能性があることをご紹介した。その後、同じ雑誌でクルクミンが乳がんの転移を抑制するという、同じくマウスを使ったアメリカの研究者による実験の結果を紹介し、その中でカレーを多く摂取する人は乳がん、前立腺がん、肺がん、大腸がんの頻度が低いという疫学的な研究結果があることにも言及した。
このクルクミンとがんの関係については、最近もクルクミンを基本とした治療が、膵臓や大腸のがんの患者に対して試みられ、有望な結果が得られつつあるということが、外国のヘルスニュースで紹介されている。なお、これらのクルクミンの脳中アミロイドβタンパク量を減少させる作用や、抗がん作用の機序として、クルクミンの有している抗酸化作用、すなわち酸化による細胞の障害を防ぐ作用があげられている。
今回ご紹介したいのは「クルクミンが心臓に対して良い」というカナダの研究者からの報告である。上記のアルツハイマー病やがんに関する研究と同様に、今回もマウスを使った実験の結果であるが、マウスに大動脈の結索や特定の薬剤の投与等の方法によって実験的に心肥大、それに引き続く心筋炎、心筋の線維化、心不全の状態を作り出し、そのようなマウスにクルクミン75mg/kg/日を経口的に2週間投与してその効果をみている。その結果、クルクミンを投与されない対照群のマウスは、そのすべてが心肥大から心不全に陥ったのに対して、クルクミン投与群では心肥大、心不全をいずれも防ぐことができただけでなく、一度起こった心肥大も改善したとのことである。
クルクミンが上述のような心筋の炎症を防ぐ機序として、研究者らはクルクミンが心筋細胞の核の中のヒストンタンパクのアセチル化を抑えることによって心筋細胞をストレスから守り、その結果、心筋が保護されるという仮説を立てた。そして、その仮説が正しいことを、心肥大を起こしたマウスの心筋細胞を培養し、その培養液中にクルクミンを加えるという試験管内の実験によって証明している。このように心臓障害に対するクルクミンの作用は、上述のアルツハイマー病やがんに対する場合とは違うようである。
以上のようなマウスの心臓を使った実験の結果が、ただちに人の心肥大、心不全の予防、治療に結びつくかどうかは保証の限りでない。また75mg/kg/日という量のクルクミンを、私たちが現実に2週間も服用できるのかどうかは、私にも分からない。上記の3つの実験結果をまとめてみると、少なくともマウスのレベルでは、カレー中のクルクミンがアルツハイマー病、がん、心臓疾患のいずれにも有効であるというまことに結構な話である。この結果をただちにこれらの疾患の予防や治療に結びつけるのは尚早であるが、カレーライスの愛好者やカレーライス店の経営者にとって心強いニュースであることは間違いないであろう。
1)Hong-Liang Li, et al. J.Clin.Invest. 118;879, 2008
●プロフィール・たかく ふみまろ
1954年東京大学医学部卒。72年自治医科大学教授、82年東京大学医学部教授、88年同医学部長、95年東京大学名誉教授、96年自治医科大学学長、04年日本医学会会長。医療の質・安全学会理事長。

 

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