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臨時 vol 76 「医の中の蛙」3 日本の予防接種

医療ガバナンス学会 (2009年4月6日 11:05)


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駅の中でクリニックを始めて10ヶ月。冬のあいだは季節柄、風邪やインフルエ
ンザワクチン接種目的の方がたくさん受診されました。また、当院のトラベルク
リニックでは、季節を問わず、海外渡航者向けのワクチン接種をしていますし、
小児科では髄膜炎を予防するヒブワクチンや、7価肺炎球菌ワクチン(プレベナー)
を積極的に接種しています。ヒブワクチンは、国内での供給量が逼迫したため、
個人輸入を再開して接種しています。

日々、ワクチンに関するさまざまな問題を感じています。たとえば、ワクチン
接種の必要性の啓蒙不足、行政の不作為、ニーズに応じた医療提供体制の不備な
どです。

まず、啓蒙不足です。日本では、ワクチン接種の大切さに気づいていない方が
あまりに多いのではないでしょうか。

インフルエンザや麻疹(ましん)などのウイルス感染症は、その症状自体も重
いですが、それにも増して、インフルエンザ脳症や亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
などの重篤な疾患を希に引き起こします。これを防ぐにはワクチン接種しか方法
がないのですが、あまり知られていません。

とはいえ、自ら病気のことを調べて、知識を得ようとする方はそう多くないと
思います。そんな人たちにも知ってもらうにはどうしたらいいのか。例えばひと
つの方法として、人気テレビ番組に医療知識を織り込むことが考えられます。お
気に入りのテレビ番組を見るだけで、自然に医療知識を得ることができます。こ
のような手法は実際、「ヘルスコミュニケーション学」として研究され、米国で
は「ER」などの人気ドラマで実践されています。日本でも同様の方法(たとえば、
アンパンマンやポケモンで、バタコさんやタケシくんが麻疹ワクチンを受ける話
を盛り込むなど?)で啓蒙をはかることは可能だと思います。

行政の不作為は大きな要因です。B型肝炎ワクチンが良い例です。B型肝炎ウ
イルスは肝細胞がんの原因で、大きな健康リスクとなるため、世界保健機構
(WHO)は1992年からワクチン接種の義務化を推奨し、現在では世界164ヶ国で義
務接種されています。西欧や北米のB型肝炎ウイルス保有者は人口の2%程度です
が、すべて義務接種をおこなっています。年間十数件起きている輸血によるB型
肝炎ウイルス感染は、ワクチン接種を義務化しておけば、減らせた可能性があり
ます。

海外に渡航する人では、事態はより深刻です。例えば、中国はB型肝炎ウイル
スの保有率が高く、地方により20%にも及び、ハイリスク地域です。B型肝炎は
輸血のみならず、医療行為による院内感染や、性交渉で感染します。日本人は中
国に年間400万人程度が渡航しますから、少なからぬ数の方が感染しているはず
です。事前にワクチン接種を受けてから渡航する人は少数ですから、多くの渡航
者は危険にさらされているのです。

医療ニーズに応じた医療提供体制の変革も必要です。そもそもワクチン接種は
健常時に行います。健康なときには、なかなか医療機関に足が向きにくいもので
す。

例えば、麻疹は、昨年の4月から中学1年(第3期)と高校3年(第4期)にも接
種するようになりましたが、接種率は低く、第3期38.8%, 第4期29.6%でした。
受ける立場で考えると、学校を休むほどの必要性は感じませんから、当然の結果
ともいえます。ワクチン接種を普及させるには、ただ号令をかけるだけでなく、
学校帰りに接種が受けられるような診療体制の整備が有用ではないでしょうか。
具体的には、夜9時程度まで通常の診療が受けられ、交通利便性が高い立地の医
療機関を増やすことなどが、もっと積極的に検討されるべきでしょう。


くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業、国家
公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。2006年から
東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」開設。

※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです

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