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臨時 vol 71 野村麻実「第三次試案への報道論調に危惧を覚える」

医療ガバナンス学会 (2008年5月24日 12:58)


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                   国立病院機構 名古屋医療センター
                    産婦人科 野村麻実


<a href=”http://obgy.typepad.jp/blog/2008/05/post-1341-28.html”>http://obgy.typepad.jp/blog/2008/05/post-1341-28.html</a>
■はじめに
4月に厚生労働省から出された「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」いわゆる第三次試案への各学会からの声明や意見が続々と発表されています。司法界や医療界、国会の場でさえさまざまな制度不備の指摘や議論をうけ、現場の半数以上の医師が反対を示している(<a href=”http://next-doctors.iza.ne.jp/blog/entry/563906/”>http://next-doctors.iza.ne.jp/blog/entry/563906/</a>)試案ですが、学会のお偉方がどのような反応をされるのか、成行きを注目しているところです。
ところが各学会の反応は芳しくありません。報道には『「日本内科学会は「賛成」を表明 死因究明制度・第3次試案」Japan Medicine 2008.5.7』(<a href=”http://s03.megalodon.jp/2008-0507-2143-10/www.japan-medicine.com/news/news1.html”>http://s03.megalodon.jp/2008-0507-2143-10/www.japan-medicine.com/news/news1.html</a>)、『「3次試案、都道府県医師会の8割が賛成 日医が調査」日刊薬業 2008/04/28』、『「厚労省:「医療事故調」案 日病協が賛成」毎日新聞
2008年5月14日』
(<a href=”http://mainichi.jp/select/science/news/20080515k0000m040086000c.html”>http://mainichi.jp/select/science/news/20080515k0000m040086000c.html</a>)などの見出しが躍り、各学会はすっかり第三次試案を支持しているのかと絶望しきっていましたが、Japan Medicineの記事の副題に「日本産科婦人科学会 現時点で条件付き賛成へ」をみつけてようやく報道との齟齬を納得しました。「産科医療のこれから」というブログで精力的に学会の見解(<a href=”http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-bb70.html”>http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-bb70.html</a>)を集めていらっしゃる僻地の産科医氏より情報提供いただきましたので、報道各社との齟齬について説明していきたいとおもいます。
■内科学会は「第三次試案に賛成」しているのか
内科学会の意見書はHP(<a href=”http://www.naika.or.jp/info/info080515.html”>http://www.naika.or.jp/info/info080515.html</a>)でも公開されており、内科系13学会合同での声明となっています。その中で「賛成」という言葉が使われているのは、(引用が長くなりますが)「医療関連死を届け出る中立的第三者機関を設置すること、および警察による捜査に先行して、医療専門家が公的かつ主体的に事案を審査する体制の確立が必要である。これらの点から考慮すると、本第三次試案に述べられた中立的第三者機関は、上記1)および2)に対する方策としては意義があると考えられ、その設置に賛成する。しかしながら、運用体制をはじめとする詳細については、第三次試案には不明確な点があるため、今後、現場の意見を十分に踏まえて、検討が必要である。」という部分のみですが、実際には第三次試案によって「警察による捜査に先行して、医療専門家が公的かつ主体的に事案を審査する体制の確立」はされていないのが第三次試案の現状(前項「刑事捜査抑制の保障無し―法務省・警察庁は文書を明確に否定」参照 <a href=”http://mric.tanaka.md/2008/04/28/_vol_52_1.html”>http://mric.tanaka.md/2008/04/28/_vol_52_1.html</a>)であって、内科学会が賛成しているのはその設立理念だけといえます。むしろ全文を読んでいただくと、問題点の列挙の多くが的を得ており、厚生労働省の提案のほとんどが問題があると指摘、あるいは否定された意見書となっています。
■産科婦人科学会は「条件付き賛成」しているか
Japan Medicineの報道で「日本産科婦人科学会は5月1日、第2次試案に対する見解で示した医療事故に対する刑事訴追に反対する見解は、今後も堅持していくとしている。しかし、その見解が、社会に受け入れられるには時間を要するとの現状分析を行い、現時点では、第3次試案を受け入れ、さらによい仕組み作りのために改善要望を強力に進めていく方向を選択した。」とされている産科婦人科学会についてみてみましょう。
産科婦人科学会の意見と要望
(<a href=”http://www.jsog.or.jp/news/pdf/daisanjishian_20080501.pdf”>http://www.jsog.or.jp/news/pdf/daisanjishian_20080501.pdf</a>)にはそもそも「賛成」という言葉ははじめから入っておらず、要するに刑事事件にすべきではないという主張は変わらないが、それは今回は話も時間も長くなるから脇へおいて、第三次試案への懸念・主張をどんどん指摘させていただきます、という記述が「条件付き賛成」と解釈されたに過ぎません。意見をきかれたから専門家集団として不備を指摘するという姿勢を貫いており、試案には問題が多すぎると考えていることは本文を読めば一目瞭然です。
■日本病院団体協議会は「賛成」しているのか
5月14日の毎日新聞の記事で「日病協が賛成」と見出しを使われている日本病院団体協議会ですが、本文をよく読むと『「制度の趣旨・目的に賛成する」との見解を公表した。』とあり、これまでの内科学会等と同じように、文字通り「制度の趣旨・目的には賛成する」見解だったのではないかと思わせます。キャリアブレインの二つの記事「死因究明制度に「原則賛同」―日病協」(<a href=”http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16038.html”>http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16038.html</a>)「死因究明の新制度創設では一致―日病協」(<a href=”http://news.cabrain.net/article/newsId/15767.html”>http://news.cabrain.net/article/newsId/15767.html</a>)も同様です。記事内容からはいくつもの問題点が指摘されていることが示唆されており、残念ながら見解については本文が手元になく推測しかできないものの、『第三次試案そのもの』に賛成しているとは言いがたい状態なのではないかと考えております。
■3次試案、都道府県医師会の8割が賛成?
これについては兵庫県医師会の意見(http://obgy.typepad.jp/blog/2008/05/post-1341-28.html)が秀逸です。引用しますと、「日医の担当役員が、この試案でいかなければ、明日にでも福島大野事件の再発があるかの如き発言で日医内でのとりまとめを何故か急がれているのは不可解です。
一部報道で日医内の直近アンケートで8割が賛成などの表現には語弊があり、その他の学会意見も含めて「賛成」の中にも多数の疑問や留保点があるものであって、全面的賛同はむしろ少ないことを強調しておきたいと思います。関係学会や現場第一線の勤務医グループ等より、この第三次試案よりも遙かに具体的で有意義な提案がなされてきています。下案段階で、これ程全国から意見の集まった法制度はむしろ稀ともいえる状況を活かすべきです。」
これ以上、私から申し上げることは何もありません。
■各学会の反応(<a href=”http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-bb70.html”>http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-bb70.html</a>)からわかること
第三次試案について、毎日新聞では『「医療死亡事故:第三者機関設立で医療者と患者「賛成」』
(<a href=”http://mainichi.jp/select/science/news/20080515k0000m040086000c.html”>http://mainichi.jp/select/science/news/20080515k0000m040086000c.html</a>)と報道されていますが、このような目で一つ一つの見解をみてみるとかなり反対意見が多いのではないかと思われます。「すべての学会の見解を集められているわけではなく、手作業です(僻地の産科医氏)」とはいえ、この項に集められた見解の中で、はっきり反対表明しているのは日本救急医学会、日本消化器外科学会の二学会。理念は理解を示すが賛同できない日本麻酔科学会。ほぼそれに近い日本内科学会、日本産科婦人科学会、日本脳外科学会、全国医学部長病院長会議(とおそらく日本病院団体協議会)。はっきり賛成をうちだしているのは日本外科学会のみに過ぎません。
そもそも医師が専念すべきであるのは現場での技術職としての医療であり、職能団体が臨床行為や医学研究の片手間に法律だの法案だの、不得手な分野のことを一生懸命調べ、勉強し、声明を出さざるを得ない現状は不幸以外の何者でもありません。文章のプロである報道記者にとっては隔靴掻痒の感もあるでしょうが、正しく文章を読みとり伝えていく努力はしていただきたいと要望します。
■今後への課題
医療者にも努力が必要です。法律を決めるのは医師会でも厚生労働省でもなく、国会です。投票する国会議員にどの点が現場の意見として認められないのか、この第三次試案がそのまま通った場合にはどうなると予想されるのか、アピールしなければならないのです。残念ながらわかりやすい文章とはいいかねる見解が山のように見受けられます。またそのためにも提出した意見書がみられるようにHPで公開するなど、もっと上手に対処していくことが求められます。
またHPで意見をアピールすることは、他にも大きな意味をもっています。今回のように誤解を誘導するような報道がなされた場合にも(医学論文検索システムではありませんが)原典にすぐいきあたることができるというメリットもあります。また最も重要なのはこの第三次試案に必死になって意見を述べねばならない団体は、残念ながらいつ疲弊しきった会員に「転科」されるかわからない状態の学会でしょう。「私たちの大将は頑張ってくれている」とわかるだけで、現場はすこしは頑張ることができるのです。外科のように「こんな試案に賛成して大丈夫なの?」と評議医員でさえいっていると聞く学会の将来はかなり心配な気がいたします。
今回の報道にはかなり厚生労働省の意図も関係しているのではないかと邪推してしまうのですが、第三次試案のようにかなり突拍子もなく表面だけを取繕った法案を拙速に秋にも提出しようとしている意図がよく理解できません。
また報道に携わる方々には、世界の国々の状況や、「訴訟は被害者を救済しているか」という疑問に挑んだ歴史的研究(<a href=”http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2002dir/n2487dir/n2487_02.htm”>http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2002dir/n2487dir/n2487_02.htm</a>)、アメリカの「Patient Safety and Quality Improvement Act of 2005」などの真の患者医療安全にむけたシステムへの試みなどについて調べて報道してほしいとまでは申しません。せめて試案に対して真摯に問題点を指摘している各学会やパブリックコメントを、賛成の反対のといった単純な字面ではなく、問題点ごとにまとめ上げ分析する視点ももった報道していただきたいと思っております。
著者ご略歴
平成4年4月 名古屋大学医学部入学、平成10年3月同卒業
平成10年 岡崎市民病院勤務
平成13年 名古屋大学附属病院勤務
平成14年 名古屋大学大学院医学研究科産婦人科学入学
平成17年 名古屋大学大学院医学研究科産婦人科学卒業
平成17年 津島市民病院勤務
平成19年 国立名古屋医療センター勤務
医学博士 産婦人科認定医

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