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臨時 vol 66 「血液製剤の不活化技術の導入に向けて」

医療ガバナンス学会 (2008年5月17日 13:03)


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信州大学先端細胞治療センター
下平滋隆
 

最新情報を掲載しましたので、紹介させて頂きます。http://yuketsu.umin.jp/
健康な方々からの献血によって、輸血を必要とする多くの患者さんが救われています。一方で、健康な方ではあっても、その血液の中に肝炎ウイルスやエイズウイルス、未知の病原体などが混ざっている可能性は、少ないですが、あるのです。日本の輸血用血液製剤の品質、安全性は向上していますが、現在でも、輸血を受けた患者さんが感染する年間件数は、分かっているだけでB型肝炎11~20人、C型肝炎1人、細菌1人、HIV1人(平成15年)、ヒトパルボウイルスB19 3人、E型肝炎1~2人と報告されています(※1)。
さらに、輸血による感染リスクは、身近なところでも高まっています。日本では、HIV感染者が増加し続けており、HIV陽性者は1万人に達しています(※2)。海外渡航者の増加、地球温暖化による熱帯地域の感染症の拡大など、海外から病原体が進入するリスクも高まっています。日本では、検査で見つからない病原体は、そのまま患者さんに輸血されてしまうリスクがあるのです。
そこで、諸外国では様々な技術開発が進んでおり、国際的には「安全性の高い不活化技術」を導入することがコンセンサスとなっています(※3)。「不活化技術」とは、化合物に光線処理を加えウイルス、細菌、原虫などの病原体を殺す技術です。幾つかある技術のなかで、病原体を不活化できる能力、血液成分への影響は技術によりさまざまで、人体への安全評価など多くの検討がすすめられています。輸血使用量の多い日本での導入はこれからの大きな課題ですが、EU16カ国、アジア諸国、中国、韓国、アメリカ(承認待ち)、ベルギー、ノルウェー、スイス、オーストラリア、カナダ、メキシコといった国々では、既に、不活化技術を導入しています。
一方、日本では、平成16年7月に厚労省・日赤が「不活化技術の導入」に向けた検討をすると発表(※1)したのですが、その後は、検討段階とのことでした。このまま、データ蓄積を欧州やアジアに依存するばかりでは、日本での技術導入は遅れ、海外では防げる被害が国内では防げない事態となりかねません。例えば、新型インフルエンザ問題が起きたら、日本では血液の供給をストップしてしまうのでしょうか。
今年1月になって、田中康夫議員が国会質問を行い、舛添厚生労働大臣から、諸外国の事例、日本赤十字社の検討状況を踏まえた上できちんと対応してまいりたいという答弁、福田総理大臣から、早急に厚生労働省の方で結論を出すべく督促をしたいという答弁がありました。これを期に、2月末にようやく厚労省が検討を開始しました。
もうひとつ、日本での深刻な問題として、供給量の問題があります。わが国では安全性のため、海外からの輸入ではなく国内自給を原則としていますが、適正使用の啓発により需要が減っても献血者の数は少子化とともに減少傾向にある(※4)ため、不活化技術を導入した場合、需要量に見合った量を供給できるのかという懸念があります。ところが、表(※5)をご覧いただくと、むしろ供給量のベネフィットがある技術もあることがお分かりいただけるのではないでしょか。海外旅行の直後などに該当するために献血できず、期間を置いて再来すれば採血できると判断される献血希望者は、年間約16万人程度(※6)にのぼります。この技術を導入すれば、16万人程度の献血量増加が期待できませんか。さらに、血小板製剤の保存期間が延長されて廃棄率が下がるため、約3万本分(200ml換算)を有効活用できるようになります。血小板製剤に含まれる血漿82万本分(120ml換算)も、回収して有効活用できる道も拓けます。
検査簡略化およびコスト削減のベネフィットもあります。現在行っているNAT検査は、血小板・血漿製剤については不要もしくは簡略化できる可能性があります。GVHD予防に行っている血小板製剤のガンマ線照射も同様です。細菌検査の導入や新たな病原体の検査を追加しなくてもよくなります。
不活化技術の導入に際しては、有効性・安全性や副作用等について慎重に検討しなければならないことは言うまでもありません。部分導入や地域別導入など、柔軟な対応が必要です。同時に、安全監視体制の整備も必要です。現在、医薬品については医薬品医療機器総合機構(PMDA)が安全監視を行っていますが、血液製剤についても例えばPMDAによる安全監視の対象とし、独立した安全性情報の収集・提供を行う必要があります。
使用中・開発中の不活化技術を表(※5)に簡単にご紹介しますので、日本はどの技術を導入するのがよいか、あるいは導入しないほうがよいか、皆さんも一緒に考えてみてください。
著者ご略歴
1990年信州大学医学部医学科卒業。2008年信州大学医学部附属病院輸血部准教授、先端細胞治療センター副センター長。輸血・細胞治療、再生療法の開発研究に従事。
(※1)平成19年 血液事業報告

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/2i/index.html

(※2)平成20年度 薬事・食品衛生審議会
血液事業部会運営委員会・安全技術調査会合同委員会 資料

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/s0408-6.html

(※3)Morens DM. Nature. 2004;430:242-9
(※4)平成19年度血液事業報告

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/2i/dl/index-s.pdf

(※5)輸血製剤の不活化技術の導入に向けて

http://yuketsu.umin.jp/files/Fukatsu.pdf

(※6)平成19年度血液事業報告

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/2i/dl/index-x.pdf

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