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臨時 vol 65 『安心と希望の医療確保ビジョン』第8回会議傍聴記

医療ガバナンス学会 (2008年5月16日 13:04)


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~ 脅す相手が悪かった? ~
ロハス・メディカル発行人 川口恭
 

前回と打って変わって早い報告になる。理由は、面白かったから。大臣が遅れてきたので話がどんどん拡散し、でも皆かなり「へー」ということを言っていて、そこへ大臣が登場して一気に収束した。ドラマチックだった。
さて、この日はギューギュー詰めという程でもないのだが、いつもと比べて異様に記者が多かった。カメラを持っている人間だけで30人くらい。なんでだろうと思っていたら、記者どうしで話しているのが耳に入る。
「何で骨子だけなんだよ。たたき台くらい示せるだろうに」
「どうやら今日では終わらないな」
「なんだよ聴いてもしょうがないじゃん」
結論だけ欲しかった記者たちには退屈な2時間だったかもしれない。
冒頭に大臣が遅刻すると告げられ、事務局が骨子案を示す。各紙とも前もって「骨子案が出る」と書いてたけれど、うーん、この段階で記事にする価値があるだろうか。
1 .はじめに
2 .具体的な政策
1 )医師数について
1. 医師養成数
2. 女性医師の離職防止・復職支援
3. 医師の勤務環境の改善
2)医師の配分バランスの改善
1. 地域バランスについて
2. 診療科バランスについて
3. 総合的な診療能力の育成
3)医療関係職種間の業務の分担と協働・チーム医療の推進
1. 医師と看護師との役割分担と協働について
2. 医師と助産師との役割分担と協働について
3. 医師と薬剤師との役割分担と協働について
4. 医師とコメディカルとの役割分担と協働について
5. 医師・看護職と介護職・メディカルクラークとの役割分担と協働について
4)医療機関の分担・ネットワークの推進
1. 地域で支える医療の推進
2. 在宅医療の推進
3. 地域医療従事の推進
4. 救急医療の充実と遠隔医療の推進
5)医療者と患者・家族の協働の推進
1. 夜間・救急利用の適正化
2. 医療者と患者・家族の協働の推進
3 .医療のこれからの方向性
目次しかない。大臣もいない。一体どうするんだ、と思った。それでも議論は始まった。
矢崎義雄・国立病院機構理事長
「この会議は長期的ビジョンを策定するために舛添大臣肝煎りで設置されたと理解している。が、7回会議を重ねていく中で喫緊の課題もクローズアップされてきた。これら喫緊の課題については即効性のある対策が必要で、それも含めた提言が必要だろう。それを『はじめに』にぜひ入れていただければ。『具体的な政策』については、5つに絞って方向性をまとめる案が提示された。アドバイザリーボードのメンバーとして、病院の立場から率直に意見を述べたい。それを大臣が取捨選択していただければ。最も皆さんに関心のある医師養成数に関しては、繰り返しになるが、今増やしても喫緊の課題に対する即効性はない。効果が出てくるのは10年後だ。今は限られた資源をいかに効率的に配分するか。というのも70年代以降、年間4000人以上も医師養成数が増えたけれど、その40代・50代の働き盛りが病院から去ってしまっている。もし増員するなら自治医大方式などの大きな転換が必要だろう。医師の教育費用もものすごく必要。それを国民の皆様に受益者負担していただかなければならないし、それが失敗して過剰になった時のリスクも覚悟する必要がある。とはいうものの今まで医師数を議論するときに、閣議決定が呪縛になっていたのは事実。現状に即して医師数を議論するためにも、見直しの時期ということを提言に入れることが必要であろう。新たな財源投入がない限り、医師養成数増加は極めて問題がある。教育方針の大きな転換がない限り、せめて今の医学部のキャパシティの枠内の増員に留めるべき
であろう」
医師を増やすと簡単に言うけれど、そのお金を払う覚悟はあるの? 医療費だってケチっているクセに、と軽くジャブである。
松浪政務官
「ここに5つ柱が並んでいる。重要なものから並べるのが人間の心理だろう。そもそもが国民の皆さんに安心してもらえるビジョンを示すということを『はじめに』に入れてもらわないと。それから前回の野中先生のプレゼンにあったように私もキーワードは連携だと思う。医師の連携、周辺職種の連携、患者の在り方、大きく3つの連携。この3つの連関が円滑に回るとよい医療になる。それが視覚的に分かりやすく示せないものか。それプラス『治す』医療から『支える』医療。目に見える形で国民の皆さんに分かりやすいように、そのためにも五角形より三角形だと思うので、そんなことにもアイデアを出していただけたら」
ご無体な。そんな一流のクリエイターのような仕事を官僚に求めるのは酷だ。万一そういう人材がいたとしても、枠に収まらずスポイルされてしまうだろう。本気でそう思っているなら、プロに頼んだ方がいい。
野中博・野中医院院長
「短期的には連携が大事で、患者について言えば、医療機関に来た時に協働作業が大事になるのだが、難点は病気にならないと来ないこと。その時の安心・安全をどう担保するのかというと、行政がその視点を持って地域医療計画を立てるべき。病気になってから初めて考え始める患者に医療のことを全部分かれと言っても無理。行政がどう絡むか。医師不足に関しては、医師の労働条件をまともに検討もせずに医師数を決めてきたのが問題。医師の労働はどの程度が適正なのか検討しないと目標数出せないと思う。それから私は東京だけれど、東京とそれ以外では、全く違うはず。どういう資源が必要かどうかきちんとやってなきゃいけなかった。医療計画というのが単なる数字の羅列に過ぎなかった。医師不足というけれど、医師数は着実に増えて、お産は減っているのに、それ以上に産科医が減ったのはなぜなのか本当はきちんと検討しなければならなかった。国の話、地域の話という意味では、地域の行政の人と話をすると公立病院で医師を雇えなくなったから医師不足だと簡単に言う。それは正しいと思わない。私のところにも研修医は来る。話をしてみると、それなりに夢も志も持っている。でもへき地だけということになると、途中でリタイアして医療の充実した所に出たいという話になってしまう。医療計画の積み上げが必要だ。私が医師になった昭和47年から連携は進んだと思えない。研修すればするほど、本来は上手に連携する方法が分かるはずなのに、今は研修すると自分だけできることの増えるという話になっ
ている」
辻本好子・COML理事長
「数値目標を出すにあたって患者は出すものがないので、忸怩たるものがある。貢献できないことを申し訳なく思うけれど、これがきっかけづくりになってくれればと思っている。医療を良くも悪くもしていくのは、現場での医療者と患者との関係性。具体的に患者が自分で何を努力したらよいか見えてくるような内容にしてほしい。医師不足に関して言うと、連携とかチーム医療とかキーワードとしては10年前からある。しかし、どれがチーム医療なのかサッパリ見えてこない現実がある。具体的な提案をした上で数に踏み込んでいくには、一人の医師を育てるのにいくらかかるのか見せていただくのが説得力がある。医師を増やすとどの程度の負担になるのか、それが次世代にとってどうなのか、ぜひ知らしめていただきたい。女医の問題は、いろいろな人が話をしているけれど、どう見ても男社会の中で働いている人にしか見えない。男女共同参画のモデルとしてビジョンの中にハッキリ打ち出すべきでないか。ある女医から、保護者会に出たいと言ったら、患者の命と自分の子供とどっちが大事なんだと白い目で見られて、もうやってられないと思ったと本音を聞いたことがある。以前は聖職者として不満や本音は言ったらいけなかったのかもしれないが、今国民すべてがわがままで本音を言うようになった。医師も本音でよいではないか。今数を増やすのが本当に国民にとってよいのか、うまく活用した方がよいのか具体的に見える形にしてほしい」
矢崎理事長の発言に対して、いくらかかるか分からず「高いよ」と言われても、ということだろう。それは確かにそうだ。医師養成に億単位のお金がかかるというのが定説になっているが、実は大学病院の赤字を学生の数で頭割りしただけという説を聞いたこともある。
西川副大臣
「『はじめに』は、みんなでがキーワードになると思う。みんなで支える、守るという哲学をしっかり前面に出してほしい。医師不足は、医師のことだけ話したらこの数になるんだろうけれど、連携で看護師や薬剤師のできることを広げたら、そこまで増やさなくてもよいことになるんでないか。キーポイントはタテとヨコの連携を密に。厚生労働省がスタンダードを作ると現場で齟齬が大きくなるというのがあったと思うので、地域の行政が計画立てた中でキッチリ話し合って構築していくと形が見えてくるのでないか」
矢崎
「総括して『はじめに』の哲学が大切になるのは当然だが、研究者としては論理的に提言をまとめる際には、具体的にどうしたらよいのか踏み込まないとと思う。最初に医師数を増やすということについても、どの位というのは、具体的にどう提言してまとめていくかやっていかないと明確に出てこない。ポイント一つひとつをやっていった方がよいのでないか。大臣も前回しきりに具体的にどうなんだと仰っていた」
西川
「その通りだが、最初に哲学を書いたうえで、先生方には数の出し方のハウツーを教えていただければ」
矢崎
「勤務環境改善のためのスキルミックスについて、私どもでアンケート調査をしたところ、伝票、与薬指示、保険書類などいわゆるクラーク業務が10%から20%を占めていた。では医行為はどうかというと、包帯の交換とか患者目線で医者にやってもらうより看護師にやってもらった方がありがたいというような周辺業務がやはり時間にして20~30%あった。ひっくるめると、このように他の職種によって代替可能な部分が40%くらいある。こういう仕事を分担してもらえるなら、病院勤務医が16.4万人というデータがあるけれど、30万人分くらいの仕事ができるようになると考えられる」
ホーと思う話である。しかし、待てよ、とも思う。個人的なことで言うと、私は毎日原稿書きと病院巡回をルーチンでやっている(たまに経営者チックなこともしている)。病院巡回は代替可能だ。しかし、では巡回を誰かに代わってもらったからといって、その巡回の時間分も、今までと同じ能率で原稿を書けるかと言われたら、書けない。むしろ原稿を書けない時間がもったいないから病院巡回しているのだし、病院巡回していることによって頭がリフレッシュして原稿の能率が上がるという因果関係にある。人間の脳はそういう風に、異なった作業を組み合わせた方が能率の上がるようにできていると何かで読んだような気がする。
医師の中核的業務がどれ位多様性に富んでいて脳が疲れないものか知らないのでウカツなことを言えないが、今でも十分疲弊している人たちに、中核的業務以外に使っていた時間も中核的業務に回せと言うのは無茶だと思う。代替で浮いた時間は休ませてあげるべきだ。スキルミックスはあくまでも勤務環境改善の手段であって、医師不足解消と直接結び付けるのは危険だと思う。
矢崎理事長の発言が続いている。
「限られた資源をどう配分するか、一つ一つ手を打っていくことが必要だろう。医師数を増やせばいいという意見が大勢だが需給をデータで算定することが必要。それからリスクに対する支援も必要だ。事故調とか産科の補償とかやっているが、一生懸命やっている医師ほどリスクが高いので、そういうところを改善しないと難しい。それから地域の医師不足に関して言うと、今までは医局制度の中のキャリアパスとして自治体病院が位置づけられていた。しかし医局が崩壊して、地域病院勤務のシステムはなくなった。地域の中で自分たちでキャリアパスを作らないと医師は育たない。そのためには、これまで設立母体ごとにバラバラに運営されていたものを点でなく地域の面として展開することが必要だろう。臨床研修制度が地域医療を崩したと言われるが、あれは能力の高い医師を育てるために実施したもので、その時にこういうことが起きるとは十分に予測しきれず発足したのだが、しかしこういう事態になったので、これまであまり重点を置いてこなかった地域医療への貢献を重視するのも手だと思う」
これまで一貫して臨床研修制度は悪くないと言っていた矢崎理事長からビックリするような発言が飛び出した。個人的には、制度が悪いというより運用の問題だと認識していたので、地域貢献を求めることと臨床研修とを結びつける論理構成には、えー!っという感じである。
さらに矢崎理事長の話は続く。
「連携の話、病院から見ると野中先生とは少し違う。診療所の機能のレベルアップがないと病診連携も、うまくいかない。診療所は、もはや1人では対応できないと思う。今までのように限られた患者さんのかかりつけ医として続けていくのは難しいだろう。そうなった時、診療所の医師だけではカバーしきれないので、医師をチーフとして看護師も使わないといけないだろう」
野中
「どうやって医師と他職種との連携を図るかという時、これは権限拡大の話ではなく、患者中心のマネジメントの視点が大切。単に権限だけ広げればいいかというと疑問だ。診療所に複数の医師が必要というのは、まさにその通りと思うし、看護師ももちろん必要。そういう体制ができないとおかしい。しかし診療報酬が先行きどうなるか分からないということもあって、医師や看護師を雇い続けられるかは課題になる。また1+1が、なぜか2にならない部分もある。複数の医師がきちんと連携することが必要だ。東京はある意味病院過剰なので、競争原理に任せていて安心と安全は担保されるであろう。しかし、地方で同じことをしても安心安全は守れない。むしろ行政がどうお金をつぎ込むかが大事。道路と同じことだ。医師がスキルアップして総合的に診るのは大事だが、それは個人ではなく体制として総合的に診るべきなんであって、個人の資格として捉えるとおかしなことになってしまう。後期高齢者医療制度のかかりつけ医こそ本来総合的に診る存在だったはずなのに、それがなぜか『他の診療所へ行くのを抑制する』という話に捩じ曲がってしまっている。終末期相談支援料も多職種の話し合いの中で、何が最も当人にとって良い医療か考えてほしいということなのに、おかしなことになっている。総合的を資格として考えると結論がおかしくなる。そういう前提がないと配分も決まらない。それから診療所に総合的、総合的と言うけれど、むしろ総合的に診ることを望まれているのは病院の方だと思う。そして診療所へ戻す、預けるということをしていただければ、診療所の総合的診療の研修にもなる。しかし今では研修が個人の能力を考えるものになってしまっている」
辻本
「働き盛りのドクターが病院を離れるという話があったけれど、なぜイヤになっちゃうのか、分かっているようで実は国民には不明瞭だと思う。そこを明確にすべき。ある病院を離れて開業した方から週に24時間診れば成り立つという話を聞かされて、それでは病院を離れるのが当たり前と思った。なんでそんなことで開業医が成り立つのか、そのメカニズムは、国民・患者には分かっていない。後期高齢者医療制度のかかりつけ医についても『月に1回受診しないといけない』とか『ウチしか来ちゃいけない』とか実際に言って抱え込みしている開業医がいる。間違っているのかワザとなのか知らないけれど、そういう風に抱え込まれるのが怖くて開業医に行けない問題でもある。どこから切り込んで行ったらいいか難しいけれど、その辺、明確にしてほしい」
松浪
「ビジョンをどうするか、本来なら今日が中間報告で3つぐらい出せると良かったのだが、さはさりながら後期高齢者医療制度に関しても誤解が多く、報道などでも品位にかける議論が多い。私の祖父の経験から言っても選択できることは大切なんであり、選択できるんだということを前面に出せばそんなに国民も不安に思わないはず。そういった選択をするには医師との信頼関係が必要で、そのためにも哲学を出していただきたい。これまで『治す』医療の部分は語られてきたが、『支える』に関しては議論が少なかったと思う。その意味では社会福祉法人の問題も議論する必要があるだろう。ああいった施設に軽度の元気な人が経営上の理由から入っているために、いつまでも埋まっていて、本当に必要な人が入れない。何百人も入所待ち。しかし、全部一括でやればそんなに待ちはなくなるだろう。医療と介護の線引きも今後はブラーになっていくんだろう。漠然とした話になって恐縮だが、議論は抜本的にお願いしたい」
矢崎
「おっしゃる通り在宅で、すべてというのは無理。中間施設が必要。ただ、その辺はこれからの方向性のところで議論するとして、課題を仕上げちゃって行った方がよくないか」
あっちこっち拡散する話に道をつけようと苦労しているのが、端から見ていると若干気の毒だ。
西川
「あとでスタッフの方でまとめるので、どんどん議論していただければ」
矢崎
「産科も少なくて大変だけれど、実は外科医も少なくなっている。10年後に手術できない可能性がある。科ごとの養成目標が必要でないか。バランスを考慮に入れて決める。といっても行政でコントロールするよりは第三者の認証機関を作って、社会のニーズに適したバランスにする。そうしないと国民から納得を得られないのでないか、ということを提案したい。それから医師不足にスキルミックスで対応するのは、大臣は法改正すれば済むと仰ったが、単に権限を拡張するのでなく教育と認定をしっかりしないと国民の納得を得られない。しっかりした教育が必要。教育にはお金がかかる。そこが欠けている。高等教育への投資が欧米では対GDP比較1%ある。日本は0.5%。しっかりした看護師、助産師、保健師の教育がお金がないからできない。教育振興基本計画では対GDP比1%まで上げることになっている。それには7兆円の財源が要る。とにかく、ものすごくお金がかかる。そのために大臣に予算を確保してほしい」
辻本
「地域医療には様々な形があり得るんだと思う。いくつかのネットワークモデルを示していただくことが、議論の深まることになっていくのでないか。提示してほしい。私どもの患者塾で診療報酬改定について議論したところ、終末期相談支援料の200点は、私がどういう風にしたいか決めてからということなのねと皆さん発見があったようだ。マスメディアの不安を煽り立てるのに乗っかるのでなく、私の問題として引き寄せる語りの場が地域に必要だと思う。それから病院探検隊の経験から言うと、患者や住民を交えた協議会や懇談会を設けて、病院の実情を見せたらいい。そういう病院にインセンティブが働くような仕掛けが必要なのでないか」
松浪
「広がり過ぎて恐縮だが、第3回で川越先生の所へ訪問した際に、患者さんが自分の死を目前にして受け止め暮らしているのに感銘を受けた。教育に欠けているのが、こういう視点でないか。核家族化して死が縁遠くなっている。ゆとり教育より看取り教育だと言っている。患者の側も、死の間際に子供たちに良いものを残したと気持ちよく逝けるということもあるんではないか。文部科学省だけに任せるんではなくて、未来の医療の形のところで触れたらどうか」
野中
「教育という意味では、そうした子供たちの中から医療従事者をしようという希望が出てくる効果もあると思う。医療者教育というのは、何も大学から始まるわけでない。もっと小さな時から始まっている。医療というものの意味が、残念ながら患者になってみないと、あるいは家族として抱え込んでみないと分からない。そのために元気な人には社会保障としての価値を分かってもらえないのが医療の弱いところ。将来そうなるかもしれない人にとって、どういう意味を持つのか分かってもらうことが大事。しかし、そういう取り組みが足りない。考えてみると、保険者こそ、そういう説明をできる団体のはず。それがなかったのが問題。今、医療を受けていないけれど保険料を支払っている人への説明、その作業があることで医療が国民の協働作業になっていく」
まさしく、ごもっとも。でも矢崎理事長以外、数字に落とし込もうという意思が見えないのだけれど、数字はどうなるんだろう、と心配になってくる。
西川
「教育にはお金が必要。個別案件を追求すると全体の解決になる。これが大事。本当に国民が医療のことを知らない。常に知らしめていれば、今回の後期高齢者医療制度の話もなかった。メディアの人にぜひ聞いてほしかった」
ここで舛添大臣が1時間10分遅れで登場。一気に場のテンションが上がる。
舛添
「事務局からビジョンの骨子案を示したと思う。順に言うと、医師数は増やす方向でいきたい。医師の配分バランスの改善もしなきゃいかん。職種間の連携もその通りだし、ネットワークも必要、住民の協力も必要だろう。というこれに肉づけして5月末に方向性を出して、その先の数字の具体的なことは総理とも相談して財源の問題もあるので高度な政治的判断になってくる部分もあるが、政府全体の政策として結実させたい。後期高齢者医療制度の評判がよろしくないが、医療の質も量も増やしてくれという希望が強いんだと思うので、財源がないと無理なものと、財源がなくてもできるもの分けて整理したい。その意味では若干抽象的になっても間違っていない方向性をこの会議で出したい」
あ、数字は出さないんですか。。。なーんだ。
辻本
「知り合いの医師から聴いた話だ。高齢の方が救急搬送されてきて、もう助からないだろうなという状況だったが、家族の求めに応じて2時間救命措置を施し、それで臨終を告げたら、家族が医師の胸ぐらを掴んで『なんで殺した』と言ったという。今、AEDが街の至るところにあるが、あれが普及したのは倒れた時に、まず家族が対応するということなんだろう。そういう発想を広めるために医師会とタイアップしたNPOがよく講習会なんかを開いている。ああいうことはお金がなくてもできること。私たち国民のできることでもある」
矢崎
「前回、医師を増やすのは精神安定剤と言って申し訳なかった。ただし、もし医師を増やすのが地域の医療機関の医師確保のためであるなら付帯条件が必要だと思う。安易に育成するというのでなく、貧しい環境で医学教育をやっているから臨床研修のようなものも必要になる。医師の育成には費用がかかる。その財源を国民は受益者負担する覚悟が必要だ。それと同時に将来医師が過剰になった時のリスクも覚悟する必要がある。もし新しく育成するのなら自治医大方式にするような抜本的変革なしに医師数だけ野放しというわけにはいかない。先ほども言ったけれど、産科の医師が足りないと言って騒ぎになっているけれど、もっと恐ろしいことに外科になる医師がものすごく少ない。あと10年経つとマトモな手術を受けられなくなるかもしれない。専門分野ごとの目標を立てた上で議論しないと、ただし専門医というのは学会に任せられていて国民の納得を得られないので、養成数は第三者の認証機関みたいなものを作って、皮膚科や眼科ばかり多くなるのはいけないんじゃないかと思うので、そうならないように。いずれにしても教育環境が整わないと育成も難しいので、増やすにしても今なら医学部のキャパシティの中に留めるべきでないか。それから医師の需給を考える時、閣議決定がどうしても一方にだけ規制するものなので、柔軟に養成数を変えることを考えるなら、閣議決定は見直すべき時期なのでないか」
前半部で言っていたことを繰り返した。それは確かに悩ましい点だよなあと思っていたら
舛添
「10年後にどうなっているかは、すごいリスク。だがリスクを取るのが政治的決断なのでやる。先ほど政府全体のと言ったのは、医師の養成は主に文部化学省マター、診療科ごとのバランスの問題も、今日の厚生労働委員会で麻酔科どうするんだという話になったけれど、大学で定員かける時に診療科ごとに細分化して枠を決める手法だってありうる。いずれにしても、これだけ医師が激務であるなら、倍に増やしたとしてもようやく業務量はノーマルになるわけで、余って使いものにならなくても、医師やめて国会議員になっている人も大勢いるし保健所の所長やってもいいし、まあ冗談だが、いくらでもつぶしは効く。リスクは政治にしか取れないから取る。池田勇人首相が所得倍増論をブチ上げた時、専門家は皆バカじゃないかと言った。けれど実際にはそれを上回った。あの時は、過度に政治化し過ぎた国民のエネルギーを経済へ向けさせることに大きな意味があって、その結果専門家も予想しえないような結果が出た。もちろん、そこに細かな配慮は必要で、だからこの会議の作業はまだまだ続く。医師養成の予算はほとんど文科省マターなので一度渡海大臣と話をしなければいけないし、地方の問題は総務大臣と話をしたい。閣議決定を見直すのかどうかについては、方法はいろいろあると思う。できれば閣議よりも、野党を含めた大きなコンセンサスを得た形にしたい。時の政権党のというより国民全体のコンセンサスの中でリスクを引き受けることを決めたい」
何か行動にはリスクがあるよと脅かされた時、役所は責任を取れないから不作為を選んでしまう。そして、どんどん訳が分からなくなる。でも、たしかに政治は責任を取れるんだよなあ、やっぱり混迷の今の時期に必要なのは政治だわ、と深く感心した。
野中
「救急医療にしても地域のニーズを現場できちんと考えていただかないと際限がない。医療計画は私も立案の現場にいたが、ニーズからは立てられていない。医師や看護師も自分達の進む分野にどれぐらいのニーズがあるか把握しないで科を選んでいる。ニーズを示すことが必要だろう。ニーズを知らないうちは、あえて勤務の苛酷な科に進もうというおおきな力は湧いてこない。クラークやヘルパーは結構だが、地域の診療所ではなかなか雇える状況にないという現状を認識してほしい。医師不足、医師不足というけれど、大きな病院の中には過剰なくらい医師のいる所もある。そういうところと医師不足の病院とどこが違うのかの差も検討する必要がある。それから救急をどこがやるのか、受けないで二番煎じで手厚く診るという病院もあってよいと思うのだが、皆競争して同じことをして疲弊している。交通整理が必要。それは行政がやるべきで、ただし地域を縛るのでなく、活性化する観点からやってほしい」
辻本
「安心と希望ビジョンを厚生労働省が中心になって策定しているので厚生労働省にお願いしたい。後期高齢者医療制度のこの混乱は、明らかに説明不足と情報不足の結果であることを認識してほしい。その上でブレていただきたくない。自治体の担当者が上からの指示を口を空けて待っているような状況で一般の人まで情報が行き渡らない。平均在院日数短縮が行われた時も、役割分担をしたという趣旨だったのに、一般の人は『病院から追い出された』と言っていた。患者が賢くあきらめ、賢く選択するために、この安心と希望のビジョンについても、ぜひ分かりやすく説明してほしい」
西川
「地域で計画といっても、自治体は結局、医師会任せ病院任せで、本気で医療と向き合ったことなんかないと思う。今回はよいきっかけになる。地域住民が向き合うことになる。国民が常にお客さまで要求だけしている状況はおかしい。それはハッキリ打ち出すべき。先ほどの野中先生の医師が増えるかどうかは院長次第だと思う」
舛添
「実はあまり悲観的に思っていないのは、最初から診療科を決めるのは職業選択の自由との兼ね合いもあるけれど、それよりオリエンテーションであったり、あの先生のようになりたいということで、大学できちんと先生方が指導すれば悲観的になる必要はないと思う。問題は、今、勤務があまりにも苛酷なために、本人の意思を潰すだけ条件が悪いこと。楽を取れば皮膚科、眼科というのは出てくるだろう。まずは大学・指導者にきちんとしてもらって、それから地域ニーズをどう汲み上げるか、教育の場や地域でニーズがあると示せれば、自ら進もうという若者は必ずいる。あとはエンカレッジする。ディスカレッジしない。今はディスカレッジする要素が余りにも多いので、一つひとつ除いていっているところ。前回の精神安定剤みたいな言葉になっちゃううが、政治のダイナミズム。世の中を動かすにはシンボリズムが要る。せっかく道路特定財源が一般財源化されるのだからチャンス」
矢崎
「そういう風になれば素晴らしいのだが、医師不足の解消には養成数増加とスキルミックスという解があって、私達でアンケートしたところでは、医師の労働時間のうち伝票書きなどクラーク業務が10?20%、医療行為でも患者からすると看護師にしてもらった方が嬉しいような補助的な業務が20?30%あった。この部分を他の人に担ってもらえれば、病院勤務医が16、4万人いるけれど30万人分になる。ただし、そこを任せるにはきちんと看護師の教育をしないと、そのためには教育費が必要。厚生労働省の領域ではないけれど高等教育の費用がいる。急性期病院の崩壊を見るとき、勤務、当直、また勤務というのが勤務医を疲弊していることを考えると、救急部門の確立が欠かせない。特に二次救急は専門的な施設に機能集約して、そこには救急に特化した院内システムをつくるべき。24時間365日動いていて、でもスタッフは交替勤務。勤務医対策として150億円計上されたというけれど、現場のレベルからすると、自分たちの所に来る前にどこかに消えちゃう感覚。それよりは教育に新たな財源を投入するのと救急部門に財源を投入して、それは病院本体の会計とは分けないといけない。二次救急施設を特化させて設けた場合には、医師会の先生方にはサテライト診療所のような形で一次救急でトリアージを行いつつ病院の防波堤になってもらう必要がある。ポイントは二次救急。今後の方向性に関しては、やはり高齢者医療が大きな問題で、それは高齢者の視点で考えないといけないと思う。私など病院時代の経験から言うと、家族は老人についてものすごく要求する。しかし元気になるかといえばなりきらないことも多く、家にも帰れない。で、多くはQOLの悪い状態で病院に長く過ごすことになっていた。もっと高齢者自身の意思を尊重するように国民的コンセンサスを形成しない限り、なかなかうまくいかない」
二次救急施設の問題は、そうできるのなら素晴らしいと思う。
野中
「治す医療から支える医療へ、ということで言うと、認知症は大きいと思う。的確に診断することは前提になるが、診断できたら治すんでなくともケアすることである程度治まる。しかし、その認識が医療側にも家族側にも希薄。しかも、そのケアは家族だけが担わなければならないものではなくて、周辺や地域でもできることがある。私は浅草だが、三社祭を見るだけで落ち着くようなこともある。それから多様な福祉施設の中の医療の問題も考える必要がある」
辻本
「患者の自立をどう支えるのかが大事になると思う。その意味で、骨子案に欠けているのが、MSWとかメディエーターとか、臨床系の人ではないけれど共に歩み背中を支えてくれる人。そういう人の存在を抜いて語ることはできないと思う。米穀にはペイシェントナビゲーターという職種もできていると聞く。人に相談することで自分を見失わないで済む、ということはある。それも支えることだと思うので、ぜひ提言していただきたい」
舛添
「方向性を広げる時に事務方に入れてもらえれば」
という所で終了。
この会議、やっぱり面白い。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログ<a href=”http://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a> にも掲載されています)
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