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Vol.096 亀田総合病院地域医療学講座の苦難と千葉県の医療行政(3)

医療ガバナンス学会 (2015年5月19日 16:00)


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亀田総合病院地域医療学講座プログラムディレクター
小松秀樹

2015年5月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


◆消費税増収分を活用した基金
今回の事例が示すように、県の補助金は有効に使えない。しかし、国は病院の収入を奪って、補助金に振り替えようとしている。
2013年8月に発表された社会保障制度国民会議報告書では、誰にでも必ず訪れる死を前提に、それを忌み嫌うのではなく、穏やかな死を迎えられるよう、社会が個人を支援していくとしている。筆者は、この方向に全面的に賛同するものである。しかし、これを実現するために、厚労省は、一貫して「強制力」を強めようとしている(4、5)。都道府県の権限を強め、「病床機能報告制度」と「地域医療ビジョン」によって、かつての共産圏の統制経済のように、行政が医療の需要と供給量を決めようとしている。一方で、消費税増収分を活用した基金を創設した。病院の購入する物品やサービスに消費税がかかっているにもかかわらず、診療報酬に消費税がかけられていない。消費税率引き上げ分が診療報酬に十分に反映されていないことを合わせると、この基金は、病院の収益の一部を取り上げ、それを、支配の道具に使う制度であり、再投資の判断を経営者から行政が奪い取るものである(6)。

2014年4月の診療報酬改定と消費税率の引き上げで、日本中の医療機関の経営が悪化した。基金として厚労省が配分しても、その金は極めて使いにくい。間に県が入ると無駄にしか使われない。基金は厚労省と県の役人の権限を増やすだけにしかならない。
医療に関する知識、技術、環境は大きく変化する。サービス向上のためには、世界を認識し、必要に応じて迅速に自らを変えていく必要がある。しかし、行政組織は権力の暴走を防ぐために、様々な法律上の制約を課されている。しかも、無謬を前提とする。事実の認識に基づいて、安易に改善を図ることは許されていない。
行政が直接サービスを提供すると、サービス向上が望めないばかりか、費用がかさむ。権力を持つが故に、自らを甘やかすからである。千葉県の平成24年度病院事業会計の決算見込みによると、病院事業全体で、収益440億円、費用427億円で13億円の黒字だとしている(http://www.pref.chiba.lg.jp/byouin/press/2013/24jigyoukessan.html)。
しかし、収益の内106億円は負担金・交付金すなわち税金であり、民間と同じ言語を使うとすれば、93億円の赤字となる。民間病院なら1年持たずに倒産する。これを黒字と説明している限り、事実の認識に基づいて改善努力を続けるなどできるはずがない。日本の医療は私的セクターの関与が大きいが故に、比較的小さい費用でサービスが供給されている。

◆安房10万人計画
規格は新たに思いついたことではない。2012年3月以来、安房10万人計画との関連で、考え続けてきた。
安房地域の人口が現状のまま減少し続けると、将来、亀田総合病院を維持できない。安房10万人計画は、具体的計画ではなく、亀田グループ、さらに、安房地域を束ねる大きなビジョンである。地域をよくするための活動すべてを関連づける便利なことばである。安房10万人計画の最大の顧客は高齢者ではなく若者である。首都圏では、今後、高齢者の急増により医療・介護サービスが逼迫する。ミッションは以下の3項目である。

1.首都圏の高齢者に、安房で、楽しく穏やかな人生を過ごし、死を迎えてもらう。
2.高齢者を支える若者に、安房で、結婚し、子どもを生み育ててもらう。
3.安房を活性化することで、住民に職を提供する。

これまで、基盤整備のためのプロジェクトをいくつか実施してきた。安房地域医療センターで無料低額診療を始めた。ふるさと納税を受け皿とした民間団体のための寄付制度を創設した。2014年4月、館山市に新たに看護学校を開校した。この学校は、社会人を受け入れて、安定した職を提供することを目標の一つとしている。この看護学校の学生寮に高齢者向けのアパートを併設した。ここで、ソーシャルワーカーによる新しいワンストップ相談サービスを開発する。複合組織「子育てOURS」による子育て支援プロジェクトが進みつつある。
規格が整備されてサービスがある程度予見可能になれば、「安心使い切り保険」が可能になる。高齢者に老後の生活を快適にするために安心してお金を使ってもらえる。大手損保会社とはすでに議論を開始している。生存中のサービスの継続を金銭的に保険会社が保証し、医療・介護サービス提供者がサービスを提供する。

◆民による公益活動
規格について、NPO法人ソシノフの理念(案)の1と2が、背景の考え方を示している。ソシノフは、民による地域の課題解決を目的としている。

1.社会の大問題を解決可能なひとつながりの小問題に分解する

日本では、バブル経済の崩壊後、経済的停滞、政治的混乱が続いています。何が問題なのかは共有されつつありますが、問題の大きさ(例えば少子化)にたじろぎ、しばしば、解決不可能な前提として受け入れてしまっています。パイが小さくなる中で、関心が、社会の問題の解決より、自身の既得権益の擁護に向かいがちです。これが解決をさらに難しくしています。
我々は何が問題なのかを明確にします。問題の大きさにたじろぐことなく、大問題を解決可能な小問題に分解します。一連の個別のプロジェクトを実施することで解決することを目指します。

2.民による公益活動

社会問題解決の最も知られた手段は、法システムとしての政治・行政です。法に基づく権力で社会全体を変えようとします。法システムでは、権力の暴走を防ぐため、さまざまな法律上の制約が課されています。しかも、国民の利害はしばしば一致しません。当然、合意形成が困難になります。合意が形成されたとしても、選挙結果で方針が大きく揺れ動きます。社会が混迷するほど、強い権力が求められることになり、歴史的に悲惨な結果を招くことがありました。
我々は、民による公益活動で、問題の解決を目指します。強制ではなく、共感と自由意思による参加で、可能なことから問題を解決します。解決を示すことによって、政治に影響を与えます。

少子化による地方消滅が危惧されているが、日本の行政、特に都道府県の行政は制度疲労の極にあり、効果的な対応を期待しがたい。前例踏襲を行動原理としている限り、従来解決できなかった問題を解決できるとは思えない。新たな危機に対応できるはずがない。
オープンソースの規格作成の枠組みを利用すれば、専門的知識を持つ多様な人材が課題解決に参入する。自治体が抱える問題を解決可能な課題として編成提示することができる。政策立案も難しくはない。

◆森田健作千葉県知事への要望
1.講座への補助金を減額される、あるいは、打ち切りになるとすれば、大きな損失を被る。講座は、合意を守るべく膨大な作業をこなしつつある。当初の約束通り、補助金を交付することをお願いしたい。もし、予算が減額される、あるいは、本年度の事業が打ち切りになるとすれば、その決定過程と理由を開示していただきたい。
2.千葉県の医師・看護師確保推進室の基本的な考え方は、地域の実情を無視し、かつ、著しく合理性を欠く。知事としての判断と対処を明らかにしていただいたい。

文献
1.小松俊平:看護師養成の背景、意義、主体―千葉県の状況から考える(下). 厚生福祉, 5957号, 2=5, 2012年12月28日.(http://medg.jp/mt/?p=1923に転載)
2.小松秀樹:病床規制の問題3:誘発された看護師引き抜き合戦. MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.566, 2012年8月9日. http://medg.jp/mt/2012/08/vol5663.html#more
3.小松秀樹:ネットワークによる救援活動 民による公の新しい形.MRIC by 医療ガバナンス学会 メールマガジン;Vol.103, 2011年4月5日.

http://medg.jp/mt/2011/04/vol103.html#more

4.小松秀樹:社会保障制度改革国民会議報告書を読む. ③医療・介護分野(上). 厚生福祉, 6041号, 2-5,  2013年12月20日.( http://medg.jp/mt/?p=2210に転載)
5.小松秀樹:社会保障制度改革国民会議報告書を読む, ④医療介護分野(下)・完. 厚生福祉, 6024号, 2-6, 2013年12月27日. (http://medg.jp/mt/?p=2218に転載 )
6.小松秀樹:「消費税増収分を活用した新たな基金」の問題1,民から奪い、支配に使う.  MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.18, 2014年1月24日.  http://medg.jp/mt/2014/01/vol18-1-1.html#more

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