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臨時 vol 40 「輸血の悲劇を繰り返さないために8」

医療ガバナンス学会 (2008年4月8日 13:26)


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■□ 輸血血液の病原体不活化導入へのパラダイム転換 □■
信州大学先端細胞治療センター
下平 滋隆

厚生労働省 薬事・食品衛生審議会薬事分科会 血液事業部会において、輸血用血液製剤に対するウイルス感染対策と不活化技術の導入の審議がなされています。安全な血液製剤の安定供給のために、病原体不活化技術の早期導入について提案します。
2004年に日本赤十字社から出された安全対策8か条の中に、不活化技術の導入が謳われていましたが、実施までには長い時間を要しています。フィブリノゲン製剤等による薬害C型肝炎救済制度が実施され、薬害エイズ事件では、本年3月に元厚生省課長の不作為の過失による有罪が確定しました。参議院予算委員会における田中康夫参議院議員の質問に対して、舛添厚労相、福田総理の回答から不活化導入に向けた検討の督促が出され、輸血用血液製剤の安全性に関して急展開をみせています。
欧州や東南アジア諸国で実施されている血小板や血漿に対する病原体不活化技術は、米国において承認の動きが加速し、中国や韓国までもが承認間近となっている今日、治験も行われていない日本が大きく遅れてしまったことは明らかです。赤血球の不活化技術は世界的にも臨床試験段階ですが、近い将来、不活化された全ての血液製剤が供給される時代となります。国民は輸血血液の安全性にもっと注意を払い、世界で最も安全性の高い輸血血液の供給体制を求めるべきです。過去の忌まわしい歴史すなわち薬害エイズ問題の二の舞は、どうしても避けなければなりません。輸血後肝炎やHIV感染者増加の問題を抱える日本において、有効な病原体不活化技術の導入に向けた議論を深め、早期に国家レベルで検討する必要があるのではないでしょうか。
安全な血液製剤の安定供給が急務の課題となると同時に、5年先10年先の血液の供給について、安全面と資源の確保という観点から対策を講じる必要に迫られています。日本は他の先進国に比べHIVが急速に拡大しています。このHIV或いは未知のウイルスも含め、更には細菌などのあらゆる病原感染の脅威に対して、想定される全ての病原の汚染を検査するのか、あるいは未知の病原体をも視野に入れた不活化技術の開発や導入を行うのかです。検査法とその精度には限界があり、検査する病原の種類が増加することで諸経費が増大することは明らかです。現実的には、病原感染者の増加や予期せぬ事態の際に輸血血液の供給がストップする事態を想定し、今から対応できるように、不活化技術導入による仕組み創りが重要と考えます。全国一斉一律に変更するのではなく、可能な部分から段階的に導入するという柔軟な対応も可能必要ではないでしょうか。
不活化技術の導入には、急いだとしても長い期間を要します。新興感染症への対策を急ぎ、安全な輸血血液を供給するために、すでに欧州を中心にパラダイム転換がなされていますが、日本はまず、不活化技術導入の可否そのものについて結論を出さなければなりません。そうしている間にもさらに導入時期が遅れ、結果的に諸外国から長期のデータが出る頃にもまだ導入できていないという事態に陥りかねません。世界的には、「不活化技術に関しての長期の安全性を含む評価は、各国が協力してデータの蓄積と情報交換を行なう市販後調査が重要」という認識でほぼ一致しているのです。日本の血液事業も日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の連携により、世界標準に準拠した対応が必要ではないでしょうか。
不活化導入が進んでいる欧州では、献血者および受血者に起こる重篤な副作用や予期せぬ事象に関する組織化されたサーベイランス体制(ヘモビジランス;輸血血液安全監視体制)の整備がなされています。日本では日本赤十字社において、自発報告による原因検索、副作用収集がなされていますが、報告は輸血副作用の一部に過ぎません。新たな輸血用血液製剤を導入するには、独立したヘモビジランスの構築は緊急の課題です。
将来から見た現在の輸血の安全基準を示せるように、感染症の動向を踏まえた輸血感染のリスクを明らかにすると同時に、感染症リスクの低減化を世界標準の歩調に合わせるために、ヘモビジランスの整備と不活化導入の工程を早急に策定します。こうした不活化導入に向けては、国の財政支援・組織の連携は欠かせません。また、血液事業に企業や研究機関等が参画・協力できる体制も望まれます。
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