臨時 vol 38 高久通信「食事とガンの発生」
我々の生活の中でガンの発生に最も関係が深いのは食事と喫煙である。食事は毎日3回摂取するものであり、人間は生活環境が激変しない限り、毎日同じようなものを食べているので、食事の内容がガンの発生に大きな影響を与えるであろうということが容易に想像される。
2007年11月に世界ガン研究基金(WCRF)は、ワシントンとロンドンで同時に、食事、栄養、運動とガンの予防に関する国際会議を開催、その会議の結論を『食事とガン』に関する第2回目の報告書としてまとめている1)。この会議では、4カ国19の大学の研究者が直前の5年間にわたって行った研究の成果が発表されたと報告書に記載されている。
WCRF の報告書の中で明記されていることは、肥満とお酒の飲み過ぎがガンを誘発しやすいということである。特に肥満は食道、大腸、膵すい臓、乳房、子宮内膜、腎臓等、多くの臓器のガンを誘発するので、特に重要である。最近肥満というと、メタボリックシンドロームが話題になり、メタボリックシンドロームの最初のスクリーニングとして腹囲が男性85cm、女性90cm 以上と定義されている。しかし男性の腹囲の方が女性よりも低い値なのは、世界的に見て日本だけで、この定義に対する国内外から批判の声が高い。いずれ国際的な基準に変更されるであろう。上述の報告書でも腹囲ではなく、body mass index(BMI) (体重kg/(身長m)2)を肥満の判定に用いている。世界的にはこの値が25以上の場合に肥満傾向、30以上を肥満としている。WCRF の報告書では21~23を至適BMI としている。
食事とガンの関係で、肥満に次いで重要なのはアルコールである。過量のアルコールの摂取が口こう腔くう、咽いん頭とう、喉こう頭とう、食道、大腸、乳房のガンを誘発するだけでなく、アルコールが肝硬変から肝ガンに至る過程を引き起こすこともよく知られている。
一方、適量のアルコールの健康上への利点も数多く挙げられている。しかし、WCRFの報告書では男性は1日2単位、女性は1日1単位のアルコールを限度とすべきとしている。1単位はアルコール20g前後であるから、1 日ビール500ml、日本酒180ml( 1合)、ワイン200ml(グラス2杯)のどれか1つにとどめておけば安全ということになる。
この報告書でもう1つの重要な点は、レッドミートに属する牛、豚、羊等の肉、ハム、ソーセージ等の加工肉が、大腸ガンを誘発することが明言されたことである。レッドミートや加工肉の摂取によって大腸ガンの発症が30%増加すると報告されている。この結果に基づき、「1週間に摂取するレッドミート、加工肉の量を300g以内とし、肉類に代わるタンパク源として大豆等の植物性食品を摂るべきである」と勧告されている。
1)Brit.Med.J. 325:897,2007__
●プロフィール・たかく ふみまろ
1954年東京大学医学部卒。72年自治医科大学教授、82年東京大学医学
部教授、88年同医学部長、95年東京大学名誉教授、96年自治医科大学学長、
04年日本医学会会長。医療の質・安全学会理事長。