臨時 vol 27 「輸血の悲劇を繰り返さないために(6)」
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■□ 血液事業部会運営委員会・安全技術調査合同委員会を傍聴して:薬害エイズ事件と不活化技術 □■
信州大学医学部附属病院 先端細胞治療センター
下平滋隆
平成20年3月3日、11年に及んだ薬害エイズ事件が結審しました。元厚生省課長の有罪が確定し、重要なことは「不作為」の過失が認定されたことです。行政官僚が職務上必要な措置を怠ったことを断じ、業務上過失致死の罪に問われました。加熱製剤供給が可能となった昭和60年末から61年にかけて、危険な非加熱製剤の販売を継続させ、回収等の措置を行わず、薬害エイズの被害者を生みました。薬務行政上の必要かつ十分な対応を図るべき義務があったと指摘、官僚の不作為が認定されました。
産官学の癒着構造によって生み出された薬害エイズ事件を風化させることがないよう、製造業者や医師、監督責任としての国(行政)は、時代に対応して目に見える形での薬害防止の施策が求められます。薬事行政には薬事法に基づく医薬品回収命令などの権限だけでなく、任意の措置も含まれ、指導的な予防措置を取らなければなりません。不凍液入りワインを回収しても、非加熱製剤を回収しなかった官僚には、「ワインは一般国民が飲むが、凝固因子の使用者は限られる」という判断の大罪があったのです。こと輸血に目を向けてみますと、輸血を受ける国民は100人に1人かもしれませんが、必要かつ十分な輸血の安全策を講じないと、今は血液行政の不作為という罪になってしまいます。
薬害エイズ事件の判決が出る前の2月27日に、血液事業部会運営委員会・安全技術調査合同委員会が公開で開催されました。委員会は不活化導入のための議論ではなく、不活化導入の必要性を検討するという後戻りした審議でした。
厚生労働省は、平成16年に日本赤十字社から出された安全対策8か条の中に病原体不活化(感染性因子不活化)技術の導入があり、本年1月31日国会での安全対策の推進および督促、1月11日付の米国導入の動きによる対応であると前置きがありました。輸血用血液の安全対策の変遷、諸外国との検査法の比較、諸外国の不活化技術の動向について説明があり、血液製剤の安全性を見直す時期であり、「安全性の高い技術があれば導入を目指す」と明言しました。社会の要求状況や患者の立場を考え、副作用のモニタリング体制を整備して、日本としての不活化技術のスタンスを決める必要があると強調しました。
日本赤十字社は、不活化技術の概要、効果、凝固因子および血小板に及ぼす影響、安全性試験、不活化効果レベルについて言及しました。不活化導入に際しての論点の整理として、(1)不活化効果、(2)製剤への影響、(3)製剤の安全性、(4)実作業への影響、(5)全国一律導入と段階的導入を挙げました。4年間検討中の不活化技術として、UVC(低波長紫外線)照射を用いた不活化導入の考えを示しました。しかし欧州でも未承認の段階の技術です。
学識委員は、不活化導入するためにどうするかを議論する訳ではないというスタンスで、”万が一”導入されるとしても、治験や経済的な問題があり、総合的に考える必要がある。輸血の安全性には感染症より他の副作用(非溶血性副作用)の方が問題で、不活化導入の優先順位は先ではない。諸外国導入の追従では、エビデンスも日本の主体もないことで、導入目的、メリット、必要過程をきちんと議論して、拙速は避けるべきであるという結論でした。
民間委員からは、患者としての利益が第一であり、場当たり的でない不活化導入のメリットは何か、長期のフォロー体制の必要性に言及。日本赤十字社のみの責任ではなく国が責任を持って判断し、方向を示す必要性を強調していました。
鎖国時代に黒船が来て、右往左往している様に映りましたが、今後の問題として、日本赤十字社では過去に治験をしたことがなく、新規の血液製剤(臓器ではなく医薬品)の導入には大きな困難が予想されます。全国一律に変更という日本赤十字社の発想転換も必要です。不活化導入の拙速な判断は避けるべきというより、不作為とならぬよう薬害HIV事件の教訓を活かすべきでしょう。