最新記事一覧

臨時 vol 26 「『安心と希望の医療確保ビジョン』第三回会議 傍聴記(後)」

医療ガバナンス学会 (2008年3月10日 14:08)


■ 関連タグ

  ■□ この会議は本当に勉強になる □■
ロハス・メディカル発行人 川口恭


後半の花田院長の陳述から報告を続ける。特に注釈は加えない。
「私のクリニックのある岡崎市には唯一の三次救急機関として岡崎市民病院がある。しかし、多くの小児軽症患者が夜間受診するために、市民病院で三次医療に支障が出てきていたということから、平成15年7月に保健所が音頭を取って、市民病院、市医師会の三者が産科する『意見交換会』を開き、軽症患者の夜間診療を医師会の方で受けられないかという検討を始めた。医師会としては、年齢構成がかなり高いこともあり始めたとしても10年後も続けられるか懸念したが、保健所が頑張って大学の協力を取り付けてくれたので、平成16年6月から毎日午後8時?11時の3時間、第一次救急医療機関である岡崎市医師会公衆衛生センターの夜間急病診療所に小児科医を配置した。担当は医師会所属の小児科専門医14人と県下3大学小児科からの派遣医師だ。
その結果、夜間急病診療所への小児科受診者の数は、平成15年度が3742人、始まった16年度が6758人、17年度が7275人、18年度が6943人と推移している。診療所にはもともと内科の医師と外科の医師が1人ずつ配置されていたので、16年度途中までは、その先生方が診ていたものだ。こうしてみると年間3千人くらいは岡崎市民病院の負担を減らせたのでないかと考えたいところなのだが、実際に同じ時期の岡崎市民病院を受診した救急外来小児患者の午後8時?11時の数は、15年度1979人、16年度1555人、17年度1457人、18年度1469人で500人程度しか減っていない。しかも重大だと思うのは、そのまま帰宅した軽症患者が約9割を占めている。ということは、単に患者さんを掘り起こしただけだったのかもしれない。
夜間急病診療所へ小児科医を配置するというのは、いわば受け身の対策。私たちは同時に攻めの対策として16年7月に『岡崎市小児救急医療対策協議会』を設置して、情報収集・分析、その提供、体制の検討などを話し合い、必要な策を実施することにした。委員は当初大学関係3、市民公募2、保育・幼稚園関係2、市医師会3の計10人で、現在は大学関係者がいなくなって、その分保育・幼稚園関係が1人増えて8人で運営している。協議会でまず議論になったのは、やはり夜間急病診療所への受診者の多くがいわゆる風邪で、本当に夜間に受診する必要があったのかということ。この人たちに適正受診をしてもらえるような取り組みが必要であろうということで、まず『子どもの急病!ガイドブック』を17年3月に発行した。これは特に医療知識のない人でも、チャート形式で救急受診の必要があるかどうか分かるようになっているもの。保育園や幼稚園、子育てサークルなどに協議会委員が出向いて行ってガイドブックのPRなどをする『出前講座』というのを19年度だけでも市内くまなく50回近く行っている。ほかに18年11月には小児救急フォーラムというものを開催し、18年12月には岡崎市の広報番組の中で8日間『小児救急を考える』というのを放送してもらった。このDVDか希望者に貸し出している。
出前講座をしてみてどうなったかだが、参加者たちに『今後、夜間にお子さんが熱や腹痛などの症状があった時にどのようにしようと思いましたか?』という複数回等可のアンケートを行ったところ(1)日頃からガイドブックを読んでおこうと思った。1021、(2)救急医療機関を受診する前にガイドブックを読んでみようと思った。1069、(3)微熱などの軽い症状の場合は、救急医療機関への受診を控え、様子をみて翌日にかかりつけ医を受診しようと思った。1445で、ここまでは狙い通りなのだが、(4)夜の方が混んでいないので、夜に受診しようと思った。14、(5)昼間働いている保護者の場合、救急医療機関を利用するのはしかたがないと思った。125、(6)やはり心配なので、まず救急医療機関を受診すると思った。107という人たちも相変わらず存在して、これを多いと思うかどうかは解釈の分かれるところだろうが依然として課題として残っている。
私たちが今注目しているのは、兵庫県立柏原病院でお母さんたちがつくった『県立柏原病院の小児科を守る会』。サイトを見ると『【医師は戦わない。ただ黙って立ち去るのみ】一般にはそう言われています。しかし柏原病院小児科は違いました。もうすぐ無くなるかもしれないというサインを出されました』と書いてあり、それがあの素晴らしい活動を呼んだのだとすると、医療側も考える必要があると思う。
最後に市医師会会員たちに、現在の小児医療の問題点と思うことを聴いてきたので述べたい。まず(1)不当な診療報酬の低さとフリーアクセスによる患者数の多さ。小児は大人の診療より手間も時間もかかる。それなのに薄利多売形式でないとやっていけない。少なくとも3次救急施設へのフリーアクセスはやめさせるべきであろうし、救急車も有料化した方がよいのでないか。それから保険医療では診療報酬が低いのだから、最高の医療を約束するものでないということを周知すべきだ。(2)病院勤務小児科医の減少(3)乳児医療無料化と救急外来のコンビニ化。コンビニ受診を呼んでいる大きな原因が、多くの自治体で行っている小学生までの医療費無料の助成。全体の医療費が困窮しているのだから不要な受診を抑制するためにも助成はむしろ抑制する必要があるのでないか、と、1次救急をやっている者みなが思っていて、でも口に出せないこと。岡崎市はなんと4月から助成の範囲を中学生まで広げるということになっているので、また患者が増えるだろうと皆憂鬱になっている。(4)訴訟リスクとクレーマー。司法は救急にも最高レベルの医療を求めるし、報道が現場のやる気を萎えさせている。という辺りが会員たちの声だった」
最後に山本教授の陳述
「救急出場および搬送人員の推移を示す。ずっと右肩上がりで増えてきたが、特に平成7年、8年ごろから伸びが著しい。現在のところ年間出場が約570万件、年間搬送人員が470万から480万人くらい。この差はいったい何かというと9%くらいは現場に行ったら患者がいないという状態だ。その内訳を見ると多いのが辞退、イタズラ、酩酊。この現状を知っていただきたい。救急車自体はそれほど増えていないのに搬送人数が増えているので、当然のことながら、救急車の現場到着時間は徐々に遅くなっており、ピークは平均5.7分だったのに平成18年は6.6分まで伸びてしまった。1分遅くなるということは、VF患者の死亡率を10%上げてしまうということだ。同様に収容所要時間も21.5分から32.0分まで伸びている。
この搬送の急増は一体何なのかというと、要は社会の高齢化と核家族化による独居老人の増加とが減少として現れているということ。今後の高齢化の進展に伴い、さらに救急需要は増加すると考えられる。ところが一方の救急告示医療機関は徐々に減っている。減っているのは主に1次機関だが、その分の患者が二次、三次に集中するので救急医不足になっている。しかも二次輪番救急施設で1日平均どれだけの救急車を引き受けているかを見ると、1台未満というところが全国平均で42%もある。1台も救急車を引き受けないようなところは二次機関として機能しているとは言えない。数少ない施設に負担が集中していることが読み取れる。
救命救急センター医師の当直回数で平均的なのは1ヵ月に6回?7回。しかもセンターの60%が当直明けも通常勤務。20%程度が午前勤務で、休みになるのは10%未満でしかない。なぜこんなことになるかと言えば救急医が絶対的に足りない。全国200の救命救急センターが1施設あたり3人で当直を回すとすると、救急専従の医師が5000人必要となる。しかし、救急科の専門医は17年4月時点で1867人しかいない。認定医まで含めても約2500人。
医師不足に対応する方策の一つとしては、救急医療を標準化し、救急隊員や一般市民にも役割分担してもらうということがある。心疾患、外傷、脳卒中それぞれに標準化が進められている。AEDなども、その一つだ。突然の心停止の生存率は3.8%に過ぎないが、目撃者があって一般市民がAEDを使った場合31.1%まで上がるという研究報告もある。
救急医療の現状と課題をまとめる。まず、患者の増大と初期二次救急の地盤沈下により救急医療施設への負担が増大している。それに対して、救急医が絶対的に足りず長時間勤務を強いられている。加えて訴訟や報道の増大による萎縮医療・受け入れ制限が進んでおり救急医の士気低下がある。他科への転身も少なくない。
必要な対策としては、かかりつけ医が必要であるということ、適切な救急車利用の啓蒙や医療の不確実性、医療は医師と患者との共同作業であるといったことを住民に教育する必要があるということと、救急医療の標準化を進め初期救急の充実を図ると同時に救命救急センターに救急専従医を集約して適切な労働環境での高度救急医療実現が必要であるということになる」
既に終了予定時刻に近かったが質疑応答も活発に行われた。
野中
「桑江先生に伺いたい。多摩地域のお産がどの程度あろ、そのうちどの程度まで府中病院で担えると考えているか。地域連携の観点から伺いたい。花田先生に伺いたいのは、夜間急病診療所へ来た患者さんの発症時間は調べているかということ。山本先生には、救急告示医療機関というのはトリアージするのが役割なんであって最終的には地域とどう連携できるかでないかということを伺いたい」
桑江
「地域のことをお話しする前に日本全国のことを言うと、お産が年間に62万件あり、医師は7500人程度。1人の医師が安全に担えるのは年120人程度と言われているが、現在ですら年に300人?400人頑張っている方もいらっしゃる。多摩の場合、お産は3万3千件あり、高齢の先生方が診療所をやめてきている。じゃあその分を府中病院で受けられるかというと、ベッドに限りがあって受けられない。だから多摩でも既に足りない。病院と診療所が半々という日本独特の安全が5年後にどうなってしまうのか想像できない」
花田
「多くの方は夕方からの発症だろうと思うが詳細な時間の分析は分からない」
山本
「地域によって様々な形があると思う。個人的に思うのはERが仲立ちできるのでないかということ。東京のERは重症だけでも充分な患者がいるけれど、地域によっては重症が少ないので、いったんERに集めてしまって、軽症者は地域へ回す流れがあってもよいのでないか。上へ向かう搬送だけでなく、下への搬送もあってよいのでないかと思う。トリアージの概念は3つあり、最初はコールトリアージ、司令室段階で救急の必要のないものを見分ける、次は現場で救急隊が行うもの、最後が病院の中で行われるもの。一番問題なのはアンダートリアージをどう考えるか。救急司令の段階でも、救急隊の段階でも、1万人に1人の心筋梗塞などは見逃して帰してしまう可能性がある。アンダートリアージはゼロにしなければいけないが、なかなかそうはならない。その可能性は考えたうえで、それでも病院の前でトリアージしていかないと、たらい回しは増える可能性がある」
矢崎
「2点伺いたい。まず新生児の脳性マヒに対する無過失補償の取り組みが進んでいる。あれの狙いは紛争を減少させて産科医の負担を減らすということだが、負担が減ると感じられるか。もう一つは病院経営における産科、小児科、救急の位置づけのこと。お産を受けるだけで赤字になり、その分を個室料や他科からの繰入で賄うというのは不合理で不健全でないか。副大臣と政務官に対応をお願いしたい。もう一つ、基本インフラがないのに医療費を無料にすることで救急外来がコンビニ化しているとの指摘。前回も医療資源は公共財だという話があったが、無料化とインフラ整備はチグハグでないか」
桑江
「脳性マヒの無過失補償制度の創設に多くの先生方が努力なさっているのは重々承知しており言いにくいのだが、現場感覚としてはこれができてもあまり楽にはならないだろうと思っている。というのが金額が低い。支払われるのが一件あたり2500万円から3000万円なのに対して、請求額の平均は1億6200万円。too littleだ。そのお金でどれぐらい救済できるかという問題と、それから脳性マヒは胎内で既に出来上がっているというのが産科医のコンセンサス。周産期がらみの脳性マヒはそんなに多くない。正常分娩の脳性マヒが最も多く深刻だし、超新早産の子はカヤの外。この制度で助かる人はいるだろうが、こぼれ落ちる人の方が多そうだ。出産費に関して言うと、健康保険の出産一時金を超えるものは公立病院としては言いにくい。だから実際にはそこが縛りになる。結果として年間2000件の分娩を扱っているのに赤字というようなことになる。子供を産むのは国全体として面倒を見るというコンセンサスがあれば随分変わってくるだろう」
松浪政務官
「タブーなく議論したい。減ったとはいえ、凄まじい中絶の数だ。そうした行為は当然医師たちにも心理的プレッシャーとなるだろう。避妊教育は当然として、それ以外にもこれを下げる方策はないものか。養子縁組などはどうだろうか。救急車の不適正使用に関して実費徴収するとか罰則を設けるとか、何かアイデアはないだろうか」
桑江
「中絶は辛い行為だ。堕胎罪があるので違法であるけれど、母性保護ということでやっている。今の若い人たちが自分の健康、特に婦人科的なことに対する知識がビックリするくらい少ない。たとえば生理が止まったら妊娠ということすら知らない。養子縁組に関して言うと、条件のハードルがとても高い。それだけの条件を満たさないと子供を育てられないとすると、実子でも産める人がそんなにいないんじゃないかというぐらい。性教育に関しては、寝た子を起こすなという意見もあり、現場では難しいようだ。女性側からできる確実な避妊法はピルなのだが、それも容易には手に入らない」
山本
「よい対策はないというのが現状。救急車を不適正に使用するのはどうもリピーターというか、相当数決まっているようだ。独居老人がさびしくて救急車を呼ぶ。そういう方には民生委員や消防が回って啓蒙している。有料化した場合は、それに伴って義務責任等々出てくるだろうという懸念が現場にある。とはいえ、たしかに出場1回あたり3万円から4万円かかっているようで、これをどうしたらよいのか。ただこの辺は消防庁がやらなければいけないことで、われわれ医師が啓蒙すべきことなのかなとは思う」
西川副大臣
「インフラができていないのに少子化対策と称して医療費無料化するのはおかしいという指摘、事実そうであろうと耳に痛かった。こういうものは国民の意識向上と相関すると思う。食の安全に関しては少し意識が高くなってきたが、医療や健康に関しては意識育っていないと思う。それは、ここにマスコミの方も見えているので言うけれど、やはりきちんと伝えることが必要でないか。救急車が要請3回以内で医療機関まで搬送できたのが97%あるのに、残りの3%が事件として次々に報じられていくのは、国民の皆様に対して一緒に現状と向き合ってどうしないといけないのか考えていく上で不毛になっていくような気がした。産科に分娩費が見合っていないというのも痛いご指摘として承った」
辻本
「岡崎で組織を作るときに最も難しかったのは何か。ガイドブックで行動は変わったか。啓蒙しても認識が改まっていない人たちをどうするのか」
花田
「年齢がかなり高くて10年後も続けられるかというところに皆不安を持ち反対意見も多く出た。幸い保健所の人の尽力で大学の協力がスムーズに得られたので、少なくとも大学からは常に若い人が来るということでクリアできた。認識の問題は、実は来る人たちは僕らが思っていたような悪どい人は多くなかった。だから教育だけではないかなと思っている。コンビニ化への方策はなかなか難しいが、やはり価格を上げるというのが一つの手でないかとは思う。ただ行政として動かすのは難しいかもしれない。何しろ岡崎市では4月から中学生まで医療費無料になるので」
この傍聴記は、ロハス・メディカルブログ(<a href=”http://lohasmedical.jp”>http://lohasmedical.jp</a>)にも掲載されています。
MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ