臨時 vol 11 医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟◆Vol.1
医療ガバナンス学会 (2008年2月6日 14:22)
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橋本佳子
鈴木寛
「超党派の国会議員で連盟を設立したわけ」
幹事長(民主党参議院議員)・鈴木寛氏への緊急インタビュー
橋本佳子(m3.com編集長)
今回の記事は会員登録制のサイト「m3.com」に掲載された記事です。 m3.com よりご許可を頂きMRICメールマガジンとして配信させていただいております。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自民党、民主党、公明党の国会議員による超党派の連盟「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」が2月12日に発足する。超党派で医療問題に取り組むのは特筆すべきことで、医療現場の危機感が永田町に伝わった象徴的な動きと言えよう。幹事長を務める民主党の鈴木寛氏は、「厚生労働省などを通すと、医療の現場の声が正しく伝わらない。これが医療の諸問題を解決できない原因。現場の声を反映した施策の立案・実行が最大の狙い」と意気込みを話す。発足の背景や今後の予定などを聞いた。 ――「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」にはどんな国会議員が参加されるのでか。 発起人は、自民党4人、民主党3人、公明党2人で、代表は自民党の尾辻秀久先生です。 皆さん、医療に関心を持っており、私自身も長年、医療問題に取り組んできました。一昨年、福島県立大野病院事件で加藤克彦医師が起訴された時には総務省などに問い合わせたり、国会で質問するなど、問題提起を続けました。 特に今回、議員連盟発足のきっかけとなったのが、昨年末の予算編成や今通常国会への法案提出の動向です。診療報酬改定の予算は”大山鳴動”で、医師不足関連も「これが対策か」という施策にとどまり、とても今の医療の崩壊が止まるとは思えないものばかりです。厚生労働省が今国会への法案提出を目指す”医療事故調”にも、問題があります。 結局、既存の枠組みやプロセスに医療政策決定をゆだねていたのでは、医療の諸問題は解決できません。その最大の原因は、医療現場の声が政策に反映されていないことです。「現場を見て、現場との対話を通じて自ら医療政策を考案・実現する」という志を持つ議員がメンバーです。 ――議員連盟発足の理由をもう少し詳しく教えてください。 今回、議員連盟を発足させた目的は、3つあります。第一は前述した通り、臨床の第一線で働く医療従事者の声を聞き、それを反映させた施策を作ること、第二は医療の諸問題は厚労省のみでは対応できないため、複数の省庁を取りまとめて解決を図ること、第三は国民全体として医療をどう考えるか、それを議論し、とにかく今、崩壊寸前にある医療を何とか再建することです。 厚労省は、必ずしも現場の意見を把握しているとは言えません。当局を通じた話は、間接的で「伝言ゲーム」、情報がそぎ落とされ、時にはわい曲すらされています。また、厚労省などを通した視察は、「作られた視察」であり、本当の医療の現場を見ることはできません。国会議員の立場で視察に行くと、総長、院長をはじめ、幹部が出てきます。ここで聞いた話と、知り合いの医師が当直している現場に足を運んで耳にした話は全く違うのです。 例えば、厚労省は、「医師は偏在している」と言い、地域や診療科などで偏りがあるだけという答弁を繰り返していますが、私は「絶対的不足説」の立場です。国会でも「どこに充足している県があるのか」と質問し続けてきました。知り合いの都内の病院に夜、見学に行くと、救急部門はまさに野戦病院。医師や看護師は走り回っており、それでも患者が待っている状態です。当直医と話していても、頻繁に呼び出されたり、研修医から電話がかかってきて指示を出したりしています。都心の病院ですら、こうした状態ですから、どこに医師が充足している病院があるのでしょうか。 ――なぜ行政当局の認識と医療の実態とは、ずれがあるのでしょうか。 現場の医療従事者の声がなぜ中央に届かないかということですが、一つには医療の担い手の多くは国家公務員や地方公務員であり、彼らの立場では上部機関である厚労省を批判にしにくいことが一因ではないでしょうか。医療提供体制を考えると、国立や公立の病院がかなりのシェアを占めています。また私立大学も、助成金を受けている立場から強くは言えません。 インフォーマルに聞いている彼らの声を、どうしたらフォーマルに伝えることができるかが課題だと考えています。発言することで不利益を被るリスクを減らし、個々人の生の声を直接、永田町や霞ヶ関に届け、医療政策の立案過程に反映させることが重要です。 ――第二の点ですが、医療の問題は厚労省だけで解決できないと。 その通りです。例えば、医学教育や臨床研究の関連であれば文部科学省、地域における救急関連では総務省の管轄になります。また福島県立大野病院事件に象徴されるように、最近は医療事故と刑事裁判との関連も重要課題ですが、これは法務省や警察庁が関係してきます。 さらに、一番の問題は財務省でしょう。これまで医療費抑制策が続き、厚労省が批判されてきましたが、力関係で言えば、厚労省よりも財務省が上。医療政策の半分は財務省の問題であり、小泉政権下での医療費抑制策の”主犯”は財務省です。 これら複数の省庁に関係する問題は、厚労省だけでは解決できません。役人は基本的には自分たちに与えられた権限・責任の範囲でしか動けません。臨床の現場で働く方々、さらには患者さんの総合的な利益を体現するのは、まさに国民の代弁者である国会議員の仕事です。役所の壁を破り、有効な施策を打ち出すことこそ、国会議員の役割だと考えています。 ――では第三の点、国民への働きかけについてお教えください。 医療の現場では寝食を忘れて、使命感を持って仕事をされている方が数多くいます。しかし、昨今の社会の風潮により、医療者の自尊心は傷ついています。医療者と患者さんが対立構造にあることが現在の最大の不幸ですが、本来、病気を治すという目的において、両者は最大のパートナーであるはずです。 まずは国民の皆様に、本来医療がどうあるべきかを考えるためのきっかけを提供していきたいと思います。患者側が考えを深めていけば、医療者と患者さんの双方にとってメリットがあるはずです。国民全体が、医療者をプロフェッショナルとして尊重し、その努力を理解することが大切です。 また、一口に「患者」と言っても、様々な立場の方がいます。「サイレントマジョリティー・ペイシェント」の声が、もっと医療政策に反映されるような仕組みを作っていくことも重要でしょう。 ――では具体的にはどんな問題に取り組む予定ですか。 今、医療現場が抱えている問題は多々あります。まさに治療と同じで、短期的には、とにかく「止血」、それと同時に中長期的には「体質改善」が重要です。この両方を同時並行して、各省庁や地方公共団体、学会などすべてを巻き込んで、できるところから取り組んでいきます。 短期的な課題としては、医師不足、特に産科、救急、小児、外科などでの医師不足や勤務条件の改善に取り組みます。診療科閉鎖の危機に直面しているという話を、多くの方からお聞きしています。 一つには、大学の医局員の雇用形態を見直すことが必要でしょう。 大学に勤務している医師には、正規職員でなく、無給や薄給の医局員がいます。労働基準法から考えたら、あり得ない雇用形態を是正することが重要です。医療の集約化や医師の適正配置、医療機関の連携なども重要になっていますが、これを進める際には省庁の壁が問題になります。大学は文科省、国立は厚労省、公立は総務省や地方自治体と、病院の管轄が分かれ、縦割りの行政組織がそのまま医師の働き方にも関係しています。今まで制度が対応していなかったために、非常にいびつな勤務形態になっていましたが、これを見直し、雇用の流動性を高め、国立病院の医師が、医師不足に悩む公立病院にも応援に行くことなども可能にしたいと思います。そのほか、女性医師の雇用のあり方なども検討していきます。 さらに、民事訴訟のリスク・訴追リスク・行政処分のリスクを下げ、萎縮医療に陥る悪循環を断ち切ることも重要です。厚労省の”医療事故調”も問題が多いので、きちんと議論していくことが必要です。 ――それでは、中長期的な課題は何でしょうか。 中長期的には現在、日本の医療費の対GDP比は8%ですが、ドイツ並みの11%には上げていく必要があるでしょう。医師数は現在、人口1000人当たり2人にすぎません。3.4人のドイツ並みまではいかないでしょうが、増やしていくことが重要です。厚労省は医学部定員増をやっていますが、今の数では焼け石に水です。 医療の現場には、志と情熱を持って働いている人が数多くおられます。闘病生活と同じで、「これがいったい、いつまで続くのか」が分からず、先が見えないことが、現場から立ち去る要因の一つだと思います。例えば、「あと1年がんばれば女性医師が子育てから復帰するようになる、5年待てば後輩も増える」など、10年くらいのロードマップを提示し、少しずつでも改善の方向に向かっていることをお示しするつもりです。 医療改革には、万能薬や特効薬、ブレークスルーはありません。現場の改革の不断の積み重ねが重要であり、それが好循環となり、全体として問題解決につながります。 われわれは、まずは現場の声をお聞きすることから始めます。ヒアリングを重ねたり、地方の先生方からはインターネットを通じて意見を募集したりする予定です。さらにこの3月末か、4月の初めくらいには、大集会も開催したいと思います。医療の現場だけではなく、国会議員にも医療をよくしたいと真剣に考える人がいます。こうした心ある人が立場を超えて集まり、結集して、いったい医療現場はどうなっているのか、現状を直視して議論を深めていく場にする計画です。
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