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臨時 vol 5 輸血による悲劇を繰り返さないために (1) 輸血後肝炎救済法案

医療ガバナンス学会 (2008年1月20日 14:25)


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 信州大学医学部附属病院 先端細胞治療センター
下平滋隆

 


      「汚染された血液製剤によるC型肝炎感染被害者を救済する薬害肝炎救済法」が1月16日に公布、施行された。福田康夫首相は、被害拡大を防止できなかった「国の責任」を認め、被害者と遺族に「心からおわびする」との談話を発表した。舛添厚労相は「第一義的な責任は製薬会社にあり、責任を痛感し、謝罪した上で、きちんと対応していただきたい。再発防止に最善、最大の努力を重ねることを約束する」と重ねて強調した。  血液製剤には、フィブリノゲン、第IX因子といった凝固因子や血漿タンパクを補充するための血漿分画製剤と輸血用血液製剤がある。C型肝炎ウイルス(HCV)に汚染されたフィブリノゲン、凝固因子製剤は1980年以降28万人に使用され、少なくとも1万人が発症したとされる。心臓手術時などの縫合用接着剤としてフィブリン糊(薬事法承認外の用法)も推計7万9000人に使用されてきた。今回の救済法は、SD処理というウイルス除去不活化処理導入(フィブリノゲン1994年12月、第IX因子製剤93年9月)以前が対象となっている。  米国では血液製剤は臓器移植の一部の扱いであるが、日本では採血して赤血球、血漿、血小板に分離して使うので、欧州の考え方と同様、医薬品製造として薬事法を遵守した管理が必要である。献血由来の血液が原料となり、肝炎等の感染症検査に合格した医薬品として供給されるが、現段階ではウイルス除去不活化処理されていない輸血用血液製剤の感染リスクが血漿分画製剤より高いことは自明の理である。輸血による肝炎の頻度は、1989年のHCV発見以前は8.7~14.3%、HCV抗体検査により92年には0.48%、NAT(ウイルス核酸増幅検査)導入以後は0.001%となっている。輸血用血液は年間1500~1800万単位(換算本数)が供給されるので、相当数の肝炎感染者が発生することになる。平成9年4月から輸血する際にはその必要性、危険性等について文書による説明と同意が、診療報酬における輸血料の算定要件となった。平成16年4月1日に生物由来製品感染等被害救済制度が創設され、生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず、その製品が原因で感染症にかかり、入院が必要な疾病や障害等の健康被害について救済を行う制度である。輸血による肝炎は、この救済制度施行以降に輸血を受けた患者だけが救済対象なのである。  同意に基づいての治療であるからと言って、輸血を行う医療者はより良い医療を求めなくてよいだろうか。平成16年以降は救済されるから患者は安心かという問題である。薬害は繰り返されてはいけないのではないだろうか。  現在、肝炎関連法案が検討されているが、この法案の骨子は、過去に肝炎発症患者の救済だけを課題に議論されている。過去から現在に至る年間二桁の数にのぼる新たな薬害肝炎に感染している患者をも配慮した法案でなければ問題ではないだろうか。この視点はメディアにも言えることである。  法案検討のあるべき姿は、次の3点に集約される。 1.過去に感染した人の救済 2.これから感染する人の救済 3.これから感染する可能性のある人を無くすこと  この3つの視点があってはじめて国民全体を視野に入れた議論になると考える。  輸血血液を含め血液製剤の安定供給は国民医療の重要な課題であることを否定する人はいない。日赤血液センターの安全性への取り組みは皆が認めている。輸血の専門家も安全な輸血医療を目指して努力している。現在の国の血液事業の方針は、日本で検査していない病原のある地域への海外渡航者は一定期間献血できないとしているが、グローバルな今の時代にまるで鎖国時代のような錯覚を抱いているのではと感じられる。例えばSARS, Chikungunya、西ナイルウイルス、デング熱などが日本に入ったとき血液製剤の供給はこの国の方針を正確に反映させると献血自体を止めざるを得ないことに気づいているのだろうか。実際には、米国で既に問題になっているT.cruziによるシャガース病を考えた場合、これだけ多くの人が米国に旅行しているとき日本だけがT.cruziに汚染されていないと考えことは危険である。西ナイルウイルスも同じこと。デング熱は既に日本で患者が発生している。そんな状況にあって、シンガポール、香港など近隣アジアの国々の輸血の専門家からは、日本は対策がないと指摘されている。  およそ20年前のエイズの問題以来、現在の肝炎問題も含め、メディアはHBV、HCV、HIVでそれも過去に感染した患者の方向だけを見て報道している。この影響もあり、常に将来への対策の議論が欠落または大きく取り上げられずに後手に廻っていることが国民医療の観点では重大な問題と考える。メディアはこの問題に真摯に取り組み、真の情報を発信する役割を果たすことを切に願いたい。

 

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