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臨時 vol 2 医師法21条・医療事故調論争と日本医師会「医師の職業倫理指針」改訂

医療ガバナンス学会 (2008年1月13日 14:27)


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東京大学医科学研究所 探索医療ヒューマンネットワークシステム 客員准教授
現場からの医療改革推進協議会 医療事故ワーキンググループ代表
上 昌広

 

 日本医師会が「医師の職業倫理指針」の改訂案をつくり、1月25日までパブコメ募集していることをご存じでしょうか。<a href=”http://www.med.or.jp/nichikara/enquete/rinri/info.html”>http://www.med.or.jp/nichikara/enquete/rinri/info.html</a>  医師がプロ集団として自主的に規律を維持し、国民の信頼を得ることは大切なことです。この意味で日本医師会が「医師の職業倫理指針」を作り、時代に応じて改訂していくことには全面的に賛同し、敬意を表します。しかしながら、今回の素案をみたときに、本当に日本社会、医療界のことを第一に考えたか疑わしく感じています。日本医師会の幹部のメンツや、今春に予定されている日本医師会会長選挙への影響が優先され、十分に議論されていないのであれば、子孫に大きな負の遺産を負わせることになります。  気になった記述を幾つかご紹介します。まず、医療界を二分し、大論争を巻き起こしている医師法21条関連の記載が目につきました。改定案の「(1)異状死体の届出」の項では、過去の判例を引用し、「医師法第21条は診療行為に起因する死亡事故も当然対象とし、事故を起こした医師も本条の(警察への)届出義務を免れない」「医師は、このような大審院、最高裁判決の存在と内容を十分に考慮し対応する必要がある。」と明記しています(P.25)。また、「診療中の患者が医療行為に関連して死亡した疑いのあるような場合については、直ちに警察に届けるのではなく、適切な届出先、調査機関を創設し、そこで事案を吟味し、必要があれば警察への届出をするシステム・・が望まれる。」とあります(P.25)。更に「(2)医療機関内での医療事故の報告」の項では、「医療事故について当事者の責任を明らかにする」という記載もあり(P.27)、個人の責任追及をすることを前提としています。このような記載を、現時点で「医師の職業倫理指針」に加えることには、幾つかの理由から強く反対します。  まず、倫理指針とは、医師という専門家集団が”自律的”に作るべきものであり、その規範を司法や行政判断に委ねるべきではありません。高度化した医療行為の是非を判断できるのは、専門家である医師だけです。医療の規範は、専門家である医師が徹底的に議論し、社会に問うべきものです。規範を改訂するにあたっては、専門家である医師が如何に徹底的に議論し、情報を公開し、患者・社会の期待に応えていくかを述べるべきでしょう。専門家が自ら問題点を考察することなく、権力に盲目的に従うことは専門家の自殺行為です。官僚や裁判官の判断は、時代の風潮やメディア、政治的判断に影響せざるを得ず、専門家が時流や権力に盲目的に従うことの危険性は太平洋戦争中の石井部隊やハンセン病患者隔離政策などの例を挙げるまでもなく、歴史が証明しています。また、今回の日本医師会の素案を見れば、普通の理解力のある社会人は日本医師会の関心が患者・家族への説明や情報開示より、司法や行政との関係維持にあることがわかります。果たして、これで良いのでしょうか?日本医師会が守るべきは、患者・家族と現場で働く医療者です。彼らの支持を失った職能団体の行く末は容易に予想がつきます。  ついで、”自律的”であるべき倫理指針を、現場の医師たちの十分な議論を待たずに決めてしまおうというやり方に問題を感じます。医師法21条や医療事故調問題は、医療現場で活発に議論されている真最中であり、政府・与党案には過半数の医療者が反対していて、コンセンサスが得られていません。例えば、NextDoctorsという組織が行った、厚労省の「診療関連死報告の義務化に関する第二次試案」に関するアンケートでは(<a href=”http://www.net-ikyoku.com/”>http://www.net-ikyoku.com/</a>)、反対70%、無関心25%、賛成は5%以下でした。最近では、高久史麿 日本医学会会長(<a href=”http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080110_2.html”>http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080110_2.html</a>)、出月康夫 日本臨床外科学会会長(<a href=”http://www.iwanami.co.jp/sekai/2008/02/072msg.html”>http://www.iwanami.co.jp/sekai/2008/02/072msg.html</a>)のような医療界のリーダーたちも反対意見を述べ、また、舛添要一厚生労働大臣は20007年11月16日の衆議院厚生労働委員会にて社民党阿部知子氏の質問に対し、「厚労省が試案として出しているものが、完全とは思っておりません。」と答弁し、司法と医療の適切な関係や無過失補償・裁判外紛争処理(ADR)の必要性について言及しています。今や、政府・与党による試案に賛成しているのは、厚労省検討会に参加しているメンバーとその関連団体だけという状況です。おそらく日本医師会の内部でも試案策定に直接的に関与した執行部と、それ以外の多数の会員の間で熱い議論が戦わされていると予想しています。このような状況のなか、日本医師会執行部が12月から1月25日というわずかな期間、ホームページに掲載しただけでは、関係者に十分に周知し、議論を重ねたとは言えません。このような決め方は、厚労省が検討会で、医療事故調査委員会の設立を拙速に決めてしまおうというやり方と酷似しています。厚労省の拙速さについては、2009年半ばに予定されている社会保険庁解体との関係が取りざたされているのは、皆さんがよくご存じの通りです。厚労省や日本医師会幹部が推し進めようとしている民意を無視した拙速さは、医療現場で働く人たちや国民に不用な不信感を与え、この国の医療の信頼感を損ねます。  医療は、私たち国民生活に関わる重要な問題です。今、その医療の安全性と信頼性が問われています。医療者に求められているのは、専門家としての自律、さらに社会に対する情報公開、透明性の維持です。この問題については、行政や司法、立法の運用の都合に合わせるのではなく、国民とともに時間をかけて徹底的に議論することを望みます。

 

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