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臨時 vol 70 「第10回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方検討会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2007年12月29日 13:19)


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~ 辻褄合わせに終始する面々 ~

ロハス・メディカル発行人 川口恭

12月27日という年の瀬にやらなくても、とブツブツ言いながら向かったのだが、なんと傍聴席は満席。業界内の関心が急速に高まっているのを感じ、であれば張り切って報告しなきゃと思うのは現金なところだ。

さて、この日は鮎澤委員のみ欠席。12月21日に自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」が『診療行為に係る死因究明制度等について』というものをまとめたので、それを踏まえての議論になるとのこと。

前田座長「本日は届け出の範囲についてご議論いただきたい。その前に自民党案に対して何かございますでしょうか」

山口委員「色々なところがかなり具体的になり分かりやすくなった。ただし医療者が一番懸念しているのが、この第三者機関の目的が再発防止ではなく責任追及へ行くのでないかということ。ここにも刑事責任が書かれている。関係機関とよく打ち合わせをされて、医療者の責任追及のためでないという点を踏まえてなされることをぜひ確認して明らかにしていただければ」

前田座長「これは厚生労働省の事務局に訊くというよりも、自民党案の留意事項に関して、法務省、警察庁の方からもし何かお話しいただけることがあれば」

法務省(刑事局参事官)「それでは今理解しているところを少しお話しさせていただきたい。趣旨としては、現在医療専門の究明機関がなく、民事刑事の司法手続きに回ってきている。そこで透明な新しい制度が作れないかということなんだと思う。その趣旨の重要性は十分に理解しており、関係機関との議論を慎重に行ってきたし、今後も行っていきたい。具体的には、自民党案の中の「捜査当局は、捜査及び処分に当たっては、委員会の通知の有無を十分に踏まえること」という部分。新しい機関から捜査機関に対して何らかの連絡が行われる告発類似の制度になるのだろう。告発を受けて捜査が動くというのでは、例えば不当競争防止に関して公正取引委員会の告発がなければ刑事訴追できないことになっている。ただし、医療事故の場合、通知がなければ訴追できないというのでは、被害者・遺族の告訴権は厳然とあるわけだから、少し行きすぎだろう。そうなると証券取引等監視、あるいは収税のように告発がなくても訴追することはできるのだけれど、実際には告発を受けて訴追しているという、そのような現在も動いている枠組みと同様に捉えることができるのでないか。この委員会、自民党、最終的には国会がどのような判断をするかだが、枠組みが導入されるなら、しかるべき協力をする」

警察庁(刑事企画課長)「この点については一度国会でもご質問いただいている。新制度に対して医療者の不安を除去する視点は重要。他方で患者・遺族・国民が医療に対して安心感を抱ける制度設計も必要。こうした観点から議論に参加している。警察としても留意事項は十分に尊重しなければいけない。ただ実務を考えた場合、通知のみが端緒の把握では必ずしもないだろう。もちろん通知が十全に機能するならば、それを踏まえて尊重するのは当然である」

2人のコメントに医療者はガッカリしたかもしれない。しかし、立場を引っくり返してみれば当たり前の話で、まずきちんとやってみせるしかないのである。ということで「十全に機能する制度」の設計が重大な意味を持つ。「十全」には質も量も含まれるのは当然の話で、それができないのなら、作らない方がまだマシだ。

山口委員「ぜひ、その辺りをよくうちあわせて形にしてもらいたい。それから刑事処分の対象になるものが、『故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例』と書いてあるのだけれど、具体的なイメージがどうも湧かない。どの程度のものを指しているのか提示していただければ」

その線引きをするために委員をやっているんと違うんかい! と、突っ込みを入れたくなったが、これも山口委員の立場に立ってみれば、そんな線引き、見当もつかないというのが正直なところなのだろう。

前田座長「今日ご議論いただく届け出の範囲と密接に絡んでいるところだろう。法務、警察の方から何かコメントはございますか。もちろん厚生労働省も何かあっ
たらどうぞ」

法務省「この点については、よく検討する必要がある。ただ例えば公取は告発するものの類型を提示していて、それを当てはめると、故意や重大な過失以外としては、何度も事故を繰り返していて単純に行政処分では対処不可能であると判断される場合やカルテなどの証拠類を改ざんしたり隠ぺいしたりするといった悪質なものが考えられるのでないだろうか」

警察庁「刑事訴追一般に基本的に謙抑的に運用されるべきであり、我々としては専門的知見を持つ機関の通知は尊重する。ただ、その前提として専門機関の透明性・公正性も大切で、そこで確実にそういった事案の通知がなされるということが担保されることが重要だ」

前田座長「一番の中心は判定を医療者が中心になってやるということ。大野病院事件のように医療者でないところから事件が始まっている、そうでないような制度を作ろうというのはハッキリしている。どこまで届け出なければいけないかについては、パブコメでも懸念する声が多かったので、事務局が資料を用意している。説明を」
佐原・医療安全推進室長が説明をした。これは、もう現物(http://lohasmedical.jp/blog/kawaguchi/siryo.php)を見ていただくのが早いと思う。この整理に対して、後でひと悶着あり、何でそんなことになってしまったか考えると暗澹たる気持ちになるのだが、そのことは後ほど説明する。

それはそれとして、「重大な過失」について誰も何も言わなかったので、この委員会としては当然刑事訴追という認識なのだろう。23日に早稲田大学で開かれた『司法の論理と医療崩壊』というシンポジウムの中でだったか、「重大な過失」の「重大」とは何が「重大」なのか、「過失の度合いなのか、結果なのか」という質問が出て、法律家が「結果が重大だと過失も重大と判断する。死亡すれば過失も大きいと判断するのが一般的」と答えたので、それではハイリスク医療は総撤退せざるを得ないでないか、と、ぶったまげてしまったことがあるのだが、その辺を素通りしてしまっていいのだろうか。と思っている間にも議論は進む。

前田座長「届け出範囲がかなり具体的になってきたと思う。これについて率直な意見をいただいて固めて参りたい」

と、ここで辻本委員が全然別の発言をする。「『ご遺族からの調査依頼にも委員会は対応する』という点、了解した。『医療機関やご遺族からの医療死亡事故の届出、調査などに関する相談を受け付ける仕組みを設ける』という点に関して、これは医療機関に対する相談窓口とご遺族に対する相談窓口を別建てにする必要があると思う。それから、3頁の5)(上資料参照)だが、特に予期しない死亡の場合に、医療機関から説明を受けたとしても、すぐに理解できる人はほとんどいない。モデル事業でも、そのために不信感を持ってしまった方もいらっしゃる。フォローアップも含めた相談機関は、医療機関に対するのとは別次元の仕事になる。今までの議論の中で、相談のことについて、なされていないと思うので」

そうなのである。絶対に必要と思われる議論を色々と端折っているのである。辻本委員も、議題が来たらと悠長に構えていると言う場がなくなる、と危機感を持ったのだろう。

前田座長「具体的な話で、考えていく重要性はあるだろうが、その点については、この次に必ず議論するので、まず届け出の範囲についてご議論いただければ」

樋口委員「たたき台について私が理解したところを3点ほど述べたい。①総論として、委員会ができた時に何を届け出るべきかが問題になっている。医師法21条との重複を避けるとなっているように、これまで警察へ届けていたような事例を届けるというのはもちろんあるだろうが、しかし今すべてが警察に届け出られているかというと、それでは警察はパンクしてしまうので、医療機関の方で何らかの基準を設けて事実上は絞り込んでいるであろう。それが今までに比べて増えてしまうという懸念があるようだが、そもそもそういう発想だけで作ろうとしているのではないということを改めて確認したい。医療安全の旗を掲げて、その道に資するであろう事例を届け出るのだ、警察に介入されないように別の道へと逃げるのではないのだ、ということ。その意味では、これまで警察に届けられていた事例は最低限で絶対に必要なものだが、しかし本論ではないのでないか。警察との関係とは何の関係もなく、医療安全に資するものはもってきてもらいたい。その上で②今回は、届出の対象を3つの観点から規定していると思う。who、what、howだ。誰がという部分では医療機関がということが書かれているけれど、医療機関が信頼されていないなら現在と同じことになるので、ご遺族からも届けることができるということを担保した。何をという部分について、例として示されたのはABともに簡単な事例しかないので、もっと細かく列挙してイメージを膨らませることが今後の課題でないか。Aはヒドイ例で、これまでも警察へ行っていたはず。Bは安全に資する観点からどうするかはともかく現状では届け出られていないだろう。問題は、この間にあるものをどうするか。モデル事業の実例を、新機関で受けるべきものなのか検討して、それを例として医療機関に一つひとつお知らせするというのはあるだろう。それでhowなんだが、うまく対応できるかはやってみなければ分からないにしても、相談する仕組みを作っておけば一応対応できる」

いつも明晰な樋口委員にしては珍しく、「3点」と言って2点で終わってしまった。まあ、そんなことはどうでもいい。傍聴記の度に同じことばかり書いて恐縮だが、司法に介入されたくないという思惑ばかりが先に立つから、樋口委員の指摘するような本質論が置き去りにされるのだ。そして本質論を置き去りに辻褄合わせをしようとした結果、後で騒ぎを引き起こすことになるし、そもそも一体何を目的に組織を立ち上げるのか再確認したくなるのである。

加藤委員「第三者機関が医療安全のためのものであるのは前提だと私も理解している。たたき台には『誤った医療行為』という概念が入っているが、次のような文言でよいのでないかというのが私の持論だ。『診療行為に関連して、通常予期しない経過をたどり患者が死亡したもの』を届けていただくのが、よろしいのでないか。たいていAとBの間に大半のものがある。『過失があるかないか』というのをメルクマールにしない方がよくないか。医療機関内できちんとやっているものは届け出る必要はない。院内カンファレンスのレビューに委ねる領域があってよい。ピアレビューして記録を残して教訓を生かすようにしていただく。第三者機関だけが医療安全を一手に引き受けるべきでなく、院内カンファレンスによってクオリティコントロールしていくことに委ねてよい部分もあるだろう」

前田座長「今の二方の発言は非常に重要で、ある部分では届け出の範囲が広くなることもあるだろうということか。ただ、また届出と通知の基準とは別の話だろう。その辺り医療安全調査との関連で堺委員、何かあれば」

堺委員「医療機能評価機構へ報告されている事例は加藤委員のくくりに近い。しかしながら、それを分析して対策を立てるには相当の人員拡充が必要である。問題提起したいのは、そもそも第三者機関で事例の収集分析、対策立案すべてやるのか、将来的にはその方向性が必要だとしても、当初は狭い範囲でご遺族からの申し出を大切に扱うというところからスタートしないと余りにも負荷が大きすぎる。当初は解剖を前提に動くべきでないか。それから今回は多くの国民の目に触れてご意見をうかがうことになると思うので、できるだけ解釈が様々にならない表現にする必要があるのでないか。具体的には3頁目の5)(辻本委員の発言参照)は普通の病死の人も全部入ってしまうように読める可能性がある。表現を変えるか但し書きをつけた方がよくないか。それから日本語でないものも極力日本語にすべきだろう。ペナルティとかスクリーニングとかは表現を変えた方がよろしいのでないか。

佐原室長「言葉のことは考えたい。もし良い表現があればご指導いただきたい。3頁目の5)については、むしろ事務局としては逆のことを考えていて、あらゆるケースについて説明した方がよいのでないかと思って書いている」

鼻水が出た。年間100万人にか? 説明させられる身になってみろ!! 自分がその立場になったらどうかという想像力と、定量的に現場の負担を測る把握力とが、根本的に欠如していると言わざるを得ない。

堺委員も唖然としたようだ。「通常、病院で亡くなられて、もっと調べた方がよいと思う場合には解剖をお勧めしている。そういう方対象だとハッキリした方がよいと思って発言したのだが、ということは、病院で亡くなった方すべてに第三機関のことを説明するよう義務づけるということか」

佐原室長「義務づけるかどうかはともかく、そういうイメージではどうだろうかということで書いている」

あまりにバカバカしいと思ったのか、議論の流れと関係なく児玉委員が割り込む。「第三者機関が受け付ける範囲は、医療機関が第三者評価を望むものと遺族が第三者評価を望むものであろう。では、届け出る範囲はというと二つの議論の仕方があるだろう。更地に家を建てるように新しい診療関連死という概念を作るもの。その場合、表現がいかようにでも抽象論で書き込むことはできるが、それが果たしてご遺族の願いを受けて機能する柱となりうるか。もう一方のアプローチの仕方は既に使われている概念を前提にするもの。一つは、たたき台でも示されている医療事故情報収集等事業で、これは医療法施行規則という法的根拠もあり、基準も実例も積み上がっている。もう一つは死亡診断書。どちらが良いか考えると、前者が建設的であろう。天から降ったように診療関連死の概念を作り上げても決してコンセンサスは得られまい。それから届出を怠った場合のペナルティだが、怠るというのはどういうことか。故意や虚偽であれば、何らかのペナルティがないと国民の理解は得られない。私の知っている日本語だと3つくらいの概念に分けられる。勧告指導、行政処分、刑事処罰だ。」

前田座長「児玉委員の指摘は非常に大切だが、その前に、もう一度堺委員の発言に戻りたい。全例説明は広すぎるということの説明をお願いしたい」

堺委員「制度については普段から周知徹底すべきであり、一般国民の常識として行きわたっているということを前提に話をした」

児玉委員が割り込んだお陰で堺委員も頭の整理ができたようだ。

そうなのである。厚生労働省が自ら周知徹底しなければならないはずのものを、現場に押しつけようという魂胆が、あの文言に隠れていたのである。堺委員が引っ掛からなかったら、そのまま行ったかもしれない。座長の慌てぶりを見ると事前の相談もなかったと思われる。恐ろしい話だ。

辻本委員が堺委員に加勢する。「患者の立場として、すべての患者が不信感の塊ではない。肉親の死を受け入れようとしている時に、そういうことを言われると不信感がムクムクと頭をもたげかねない。すべての人に説明するというのは議論の余地があると思う」

前田座長は続けて豊田委員も指名する。「私自身が病院の中で説明する立場なので、すべて説明するのは難しいかなと思う。ただし実体験として、遺族は不審に思っているのに病院はミスと思っていないので解剖も調査もされないという例もたくさんあるのを知っている。何らかの形で遺族が制度を知ることは必要。死亡に限らず日常的な相談も病院の中に窓口はあるのに、それが知られていないということが多い。全国民に当たり前だと知っていただく形、制度をお願いしたい。対応する人だけの負担にすると、医療者と遺族との関係がズレる可能性もある」

決着は付いたと判断したか、ようやく座長は児玉委員の発言内容へと話題を戻した。「児玉委員の整理でも加藤委員の整理でも、届出の対象はそんなに変わりはないのかもしれない。一番気になるのは、ここでの書きようによって、どの程度の数になるのか、それに対して委員会がどの程度のキャパを持つのか。こういう決め方をして委員会が動くのかということなのだが」

本末転倒の辻褄合わせである。が、その思惑を知ってか知らずか爆弾発言が飛び出す。

山本委員(ちょっと言い回しが難しくて再現できないのと、再現しても分からないと思うので意訳する)「届出範囲の①②で過失と因果関係が述べられていると思うのだが、この二つだけでは穴があるように読める。穴があってよいのか、あるいは穴がないように読めるのか」

佐原室長「もう一度言っていただいていいですか」

山本委員が繰り返したのに対して、佐原室長は答えられず、代わって二川総務課長が答えた。私も、23日のシンポジウムで勉強していなければ、山本委員が何を言っているか理解不能だったとは思う。しかし、いやしくも国会に法案を提出しようとしている人間が、そんなことでいいのか?

二川総務課長「現行の制度を前提に作った。主観的なものがポイントになっていて、もう一つの遺族ルートも確保しなきゃいかん、ということ。書きぶりについては、もっとよく相談しなきゃいかんとは思うが、元にしたのが施行規則なので、その時点で細かい部分までの詰めはしていないのかもしれない」。官僚には珍しく、先輩が作ったものに難癖をつけて逃れた。が、この後すぐに先輩たちのミスではなく、単に自分たちがミスしただけであることが分かる。

どうやら、法律家の委員は全員その穴に気づいていたらしい。しかし山本委員を除いては「よしよし仕方ないなあ」と見ていたようだ。児玉委員が面白い弁護をした後で樋口委員が諭すように言った。「山本委員のおっしゃる通りだとは思うが、そこまで言わないでもよいではないか。施行規則を見れば、ちゃんと穴は埋められている。そこの部分を今回援用する際に対象が広すぎるからとわざわざ抜かしたために、穴があるように見えるけれど、穴があってよいとか、その抜け穴部分は見逃すとかは誰も思っていないのだから」

山本委員は少しバツが悪そうに「そのようなバスケットクローズがあるならよい。バスケットクローズがないにも関わらずサンクションがあるというので問題に思った。文言は明瞭にしていただいた方がよろしい」と言い、前田座長も事務局に諮ることすらせずに「おっしゃる通りなので次回までに直します」と幕を引いた。

ちなみに、今回のたたきを作るにあたって、樋口委員が医療法施行規則の届出対象から「わざわざ抜いた」と言った届出対象は『ハ、(イロのほか)医療機関内における事故の発生の予防及び再発の防止に資する事案』である。これこそ、本来医療安全委員会が取り扱うべき、ど真ん中ではないのか? なぜ、ここを抜く? 最後に理由が分かった。

何はともあれ、高本委員「届出と受付との間に調整員が必要だと思う。それには臨床経験豊富な人が24時間365日各地域で対応しなければいけないので、各地域に少なくとも3人ずつ必要である。ところで届出義務違反にペナルティを科すというが、このたたき台では届出の判断は医療機関になっており、医療機関に刑事罰を科すわけにはいかないのでないか」

前田座長「そんなことはない。罰金がある」

高本委員「牢屋に入れるわけにはいかないでしょう」

前田座長「管理者が自由刑に問われる可能性は皆無でないけれど、通常は罰金だろう。ただし罰金の金額が大きくなってきているので、実際にはかなり重い」

高本委員「肝っ玉の小さい院長だと、何でも届けろとなりかねないので、行政処分にすべきだ」

前田座長「先ほどの辻本委員の発言とも重なる部分があると思うが、委員会以前に中間で受け付けるかどうか調整する昨日と患者への説明機能がかなり重要ということは承って、ここではペナルティについて話したい。ペナルティを科すのは非常に悪質なものに限られるのではないか。明々白々に虚偽報告を繰り返しているような所。あるいは意図的に届けを出さなかった所。そういった所への例外的なものとして、刑事罰もありうるのでないか」

加藤委員「都立広尾病院事件のようなものは刑事罰相当ということでよろしいのでないか。医療安全に対しては、院長のリーダーシップが非常に大切で、医療機関の判断と書いてあるが、実質的には医療管理者が判断したことになるのだと思う。届けるか届けないかに関しては、医療チームの1人でも届け出た方がよいのでないかと疑義を呈した場合には届けたらどうかと日本学術会議でも提言している。院長のリーダーシップが問われるということ、その辺りのディスカッションを」

佐原室長「条文がどうなるかはまだ分からないが、届け出なければならないのは機関管理者ではどうだろうか、と書いた。もちろん管理者だけの判断ではなく、院内安全委員会との議論を踏まえてなされるのだろう」

凄い議論をしていると思う。院長は届けないと判断したけれど、チームの誰かが「届け出た方が良い」と言った場合、届け出ないと院長に対してペナルティが与えられる、という話だ。限りなく全例届出に近づいてしまわないか。

これに関して、木下委員が「医療者に説明して納得させるのには、もっと詰めてもらわないと困る」(かいつまむと)と長々と異論を述べ、前田座長は「今日もたくさんの方が見えているが、またインターネットで流れて誤解が誤解を呼ぶので」と迷惑そうに応じた。「Bの事例は恐らく届け出なくてもよい。中間の部分を拾わなければならないのだけれど、いったんは遺族に説明もして届け出ないと判断したものが、後になってからやはり届け出た方が良かったとなった場合に、これを故意に届けなかったというかといえば、それは言わない。悪質な事案、極端なことをしない限りペナルティの対象にはならない。加藤委員に伺いたいのは、1人でも疑問を呈したら届けておいた方がよいということ?」

加藤委員「学術会議の提言では、そうなっている」

現職の院長である山口委員が珍しく憤然と反論した。「この委員会で分析して誰が医療安全に役立てるかといえば病院が役立てるのだ。病院が自らアクティブに動かないと役に立たない。院内安全委員会が届け出ないと判断したなら、それで構わないでないか。院内委員会が届出相当と判断したにもかかわらず届け出なかったら、それはペナルティに相当するだろうが、それで十分でないか。そのために院内の調査委員会を設ける、外部の人を入れるという工夫はすべきだろうが、1人でも疑義を呈したら届けるというのであれば委員会として体を為していない。」

前田座長「1人でもいたら届けるということにすると、組織的に対応するのは、たしかに難しいかもしれない。ただし院内の調査委員会に患者が疑問を持つ場合もあるだろう。性悪説に立つのはダメだというのはよく分かるが、しかし国民がどう受け取るかのバランスでもある。その意味では、このシステムはむしろ性善説に立っていて、遺族からの疑念を受け付けるという部分も担保している。では時間も来たので、発言いただいてない委員にも一言ずついただきたい」

楠本委員が、何か具体的な提言をしたようなのだが、マイクに音声が拾われず、最後の「スクリーニングは大切」という以外よく聞き取れなかった。

山口委員「届出が増えたらという議論が行われている。同じ基準で何例届出があったのか、ぜひお示しいただきたい。それによって、どの程度のスクリーニングをすれば現実的なのか分かる」

ごもっともである一方で本末転倒でもある。委員会にどの役目を追わせるか、そのためにどの程度の陣容が必要か、ではなく、設置できる委員会のキャパまで受付を絞りこまねばならん、と言っているわけだ。

そして、座長が辻褄合わせを試みなければいけない理由が、ここで明らかになった。

佐原室長「今の事業では、全国9千病院のうち届出義務のかかっている273病院、病床数にして1割弱から年に152例の死亡届出がある。ただし、この中には今回のたたきでは届出対象にしていない『ハ』の分も含まれている」

もう何をか言わんや、である。単純に10倍すると年に1500件を超えて、第三者機関が発足しても、すぐにマヒすると考えたのだろう。そこで医療法施行規則を手本にしながら対象を一部除いた。そうしたら法的にも穴が空いちゃったというわけだ。そして、その責任を医療法施行規則を作った先輩たちにおっ被せようとした。

最後に南委員「受け入れ対象をきちんと決めておいて調整する必要があるだろう。たたき台は概ね良いと思うのだが、文言を細かく読んで行くと、まだまだ医療現場の実感からすると受け入れられない表現があると思う。例えば『死亡を予期しなかった場合』と書いてあるが、医療の現場ではどんな処置をする場合でも、絶対に死なないとは思っていないわけで、こういう表現は実情と合わない。それから、医療機関が届出を怠った場合のペナルティなんだが、医療機関が届出相当と判断したのに届け出ない事例というのは考えにくい、どう立証するのか想定できない。いずれにしても、この制度が始まると、小規模な医療機関、人手の足りない医療機関にも院内でちゃんとしろと言うことになるが、どうやっていくのか課
題だろう」

前田座長「社会の期待は大きく、検討会として何らかの形を示す必要はある。当初の目標通り国会に法案を提出できるよう頑張っていただきましょう」

そんなこと期待していません。お願いですから、きちんと問題点を全部クリアしてください。

(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)

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