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臨時 vol 67 「ADHD患者の治療薬アクセスを阻害するリタリンR規制」

医療ガバナンス学会 (2007年12月26日 14:19)


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(財)医療科学研究所
辻 香織

注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder, ADHD)は,多動性,衝動性,不注意の症状によって特徴づけられる軽度発達障害の一つであり,小児,成人とも治療対象となる。ADHDの諸症状に対しては薬物療法が有効であり,第一選択薬は中枢神経刺激薬メチルフェニデートである。先進主要国においては正式な適応を取得しており,治療上不可欠の位置を占めている。日本においては,メチルフェニデートを含む製剤としてリタリンRが販売されているが,適応症はこれまで「うつ」と「ナルコレプシー」であり,ADHDに対しては適応外使用が行われていた。

メチルフェニデートはアンフェタミンに類似した作用を有するため,いわゆるドラッグとして乱用されることがある。2007年初めごろから密売事件や一部の診療所による不適切な処方などの報道によりリタリンR依存が社会問題化したことを受け,厚労省は流通規制に乗り出した。2007年10月,まずリタリンRの「うつ」効能削除を行い,適応症をナルコレプシーに限定した。一方,承認申請されていたメチルフェニデートの徐放性製剤コンサータRを,小児ADHDのみを適応として承認した(2007年12月19日発売)。そして,各々,正式な適応症以外は使用不可となる厳密な流通規制を指示したのである。

これまでのメディア報道は乱用問題に偏っており,今回の流通規制が適正使用推進のための適切な措置であるかのように報道されてきた。しかし,国内数万人のADHD患者への影響を考慮せずに決定された今回の規制には大きな問題がある。第一に,徐放性製剤コンサータRのみでADHDの治療が満足されることはなく,用量調整,患者個々の状況への対応などの観点からリタリンRは必要であるということだ。リタリンR 5~10mg/日で良好にコントロールされている患者は多いが,コンサータRは18mg錠,27mg錠しかない。第二に,コンサータRは小児のみを対象としているため,今回の措置により,成人ADHD患者は一切の治療薬がないという状況におかれた。リタリンを服用しながら,仕事をし,家庭生活を送っていた患者は今大変な困難の中にいる。

医薬品の「適正使用」とは何か。少なくとも厚労省が称するところの「適正使用」とは,正式に適応症として承認された疾患に対し,添付文書に記載されている情報に従って医薬品を使用することを指す。しかし,この例が示すように,適応症を取得していない場合でも,事実上有効性,安全性が確立し,当たり前のように行われている適応外使用は数多く存在する。適応外使用が絶対になされないようにすることが「適正使用」ではない。乱用防止のための措置はもちろん必要だが,「適正使用」の大義名分のもとに必要な治療薬へのアクセスが絶たれるようなことはあってはならない。

ただちに,リタリンRの小児・成人ADHDへの適応外使用,コンサータRの成人への適応外使用が可能となる措置を講じるべきだ。そして可能な限り速やかに,正式な効能追加への道筋をつけることが必要だ。

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