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臨時vol 66 「4つの原因究明」

医療ガバナンス学会 (2007年12月25日 14:20)


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―死因究明制度・厚労省第二次試案の法的「目的」は?―

弁護士  井上清成


1 厚労省第二次試案の「原因究明」の意味?

平成19年10月に、厚生労働省によって、「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案―第二次試案」が出された。そこでは、医療事故調査委員会を新設する目的として、「原因究明・再発防止」があげられている。ところが、総論部分である「はじめに」には、「不幸にも診療行為に関連した予期しない死亡が発生した場合に、遺族の願いは、反省・謝罪、責任の追及、再発防止であると言われる。これらの全ての基礎にあるものが、原因究明であり、遺族はまず真相を明らかにしてほしいとの願いがある。」ともあり、新設する目的である「原因究明」の意味が判然としない。本当に、「全ての基礎にあるのが、原因究明」なのだろうか。
2 「原因究明」という用語の使い方?

「原因究明」という用語は、最近、患者や家族から病院につきつけられるクレームによく登場してくるようになった。この用語にはいくつかの意味が含まれているため、「原因を究明しろ!」といわれるとクレーム対応に窮してしまうことも多い。しかし、その使い方を見てみると、おおむね4つの意味が都合よく使い分けられているように思う。

その4つとは、(1)本来の意味(2)医療事故への転用(3)責任追及への誤用(4)新たな転用、である。
3 4つの原因究明

(1)原因究明の本来の意味―真理の探究

原因究明は、本来は、真理の探究という意味で、学問そのもの、つまり、医学そのものである。また、医療の現場では、医療の質と安全ということに置き換えてよいと思う。

当然、原因究明はそれ自体、重要な価値だから、純粋に真正面から受けとめたい。医学の進歩、医療の質と安全の向上に直結するものだから。
(2)医療事故への転用―情報開示

ところが、原因究明が医療事故の場面に転用されるようになった。この転用は、いわゆる「事故隠し」に対抗する用語としてである。カルテ改ざんなどの証拠隠滅、死亡診断書等の虚偽記載などの態様での「事故隠し」を追及していくための道具立てとして使われるようになった。

この意味での転用に対しては、病院は、カルテ等の全面開示や、事後の誠実な説明をしさえすれば、十分に対応を済ませたと評しうるであろう。つまり、毅然として、かつ、誠実に、情報開示をして説明をしさえすれば、必要かつ十分なはずである。
(3)責任追及への誤用―医療過誤

しかしながら、「事故隠し」が「医療過誤」と結び付きがちだったためか、原因究明すなわち責任追及(刑事も民事も)と誤用されるようにもなってきた。原因究明をして刑事や民事の責任追及をする、というがごときである。

もともと刑事責任も民事責任も、そのもの原因究明ではありえない。刑事責任は、刑罰という法律効果を発生させるために、犯罪構成要件という法律要件に該当する事実の存否を究明しようとして、刑事訴訟特有の手続にのせるものである。民事責任も、損害賠償という法律効果を発生させるために、要件事実という法律要件に該当する事実の存否を確定しようとして、民事訴訟特有の手続にのせるものにすぎない。したがって、それらは真の原因究明をするための手続構造を有していないのである。

ところが、被害者意識を持った患者や家族が、医師の責任追及をしようと目論んで、「真相解明」「真相究明」「死因究明」「原因究明」と誤用することが多くなってしまった。ただ、これらの誤用としての「原因究明」には、病院としては誠実に対応しようがない。既に情報開示をして、説明も十分に済ませたからである。相手方がこの誤用の事態に立ち入ってしまった場合には、顧問弁護士や調停委員や裁判官などの第三者に委ねてしまうのが賢明であろう。無理に対応しようとし過ぎると、多くの業務上の支障を来たしかねないので、注意を要する。
(4)新たな転用―患者・家族の心情

「原因究明」には、近時新たな転用も生じつつあるように思う。それは、医師への責任追及には直結しない意味での、無念の感情を患者・家族が納得して収束させるための意味である。たとえば、肉親の死を受け入れるといった類があげられよう。この新たな転用に対しては、最近、メディエーションやADRが注目されつつある。
4 厚労省第二次試案の「原因究明」は実は「責任追及」!

以上のところから、厚労省第二次試案の意味するところは明らかであろう。

「遺族の願い」である「反省・謝罪、責任追及」など「全ての基礎にあるのが原因究明」だというのだから、その「原因究明」の中核は、前記(3)の「責任追及への誤用―医療過誤」にほかならない。つまり、医療事故調査委員会を新設する目的である「原因究明・再発防止」にいう「原因究明」は、実は「責任追及」だったのである。

根本原理が「責任追及」にある以上、「調査報告書の民事・刑事手続での使用」をはじめとした諸々の問題が派生するのは当然のことであろう。また、「目的」をひとまず置き、それら派生した諸々の問題を一つひとつ議論しても、実益がない。したがって、厚労省第二次試案の「はじめに」に表われている総論部分に焦点を当て、派生した諸問題を議論する前に、まずは総論部分をきちんと議論しなければならないと思う次第である。

著者略歴
昭和56年  東京大学法学部卒業
昭和61年  弁護士登録(東京弁護士会所属)
平成元年   井上法律事務所開設
平成16年  医療法務弁護士グループ代表

病院顧問、病院代理人を務めるかたわら、
医療法務に関する講演会、個別病院の研修会、
論文執筆などの活動をしている。
現在、日本医事新報に「病院法務部奮闘日誌」を、
MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。

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