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臨時 vol 38 「福島県立大野病院事件第七回公判傍聴記②」

医療ガバナンス学会 (2007年9月4日 14:41)


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~ これのどこが謙抑的なのか ~

ロハス・メディカル発行人 川口恭

 

加藤克彦医師に対する被告人質問公判の傍聴記の二回目である。今回は良くも悪くも検察の独壇場だったので、午前中の弁護側主尋問の報告は前回で終わりにして、午後からの検察側反対尋問の模様へ移ることにする。

言い尽くされてきたことではあるが、刑事裁判が真実解明の場でないことが、非常によく分かる。

尋問したのは、4月に初登場して以来ソフトに淡々とポイントを積み重ねてきたS検事。「彼がやるなら」という安心感が傍聴席にもあったように感じる。そして、最初はS検事の冷静さが際立ち、加藤医師の証言に「あまりにも防衛的すぎないか」と思うことの方が多かったのである。
検察官 帝王切開手術の前に、癒着胎盤の疑いを持っていましたか。

加藤医師 持っていませんでした。

検察官 手術中に用手剥離からクーパー併用になった時には癒着胎盤の疑いを持ちましたか。

加藤医師 疑いは少し持ちました。

検察官 少しというのは、どういうことですか。

加藤医師 少しです。

検察官 理由は何ですか。

加藤医師 切り替わるにあたって、少し剥離しにくい部分が出てきたからです。

検察官 しにくい部分とは具体的にはどういう部分ですか。

加藤医師 剥離のスピードが遅くなるということと、しにくいのはしにくいので何と説明すればいいのか、力を入れれば剥離できるけれど力を入れる程のものでもないような。

検察官 しにくいとは、他の患者さんの用手剥離より、ということですか。

加藤医師 そうです。

検察官 その後、子宮からの出血が多くなってきた、その理由を当時はどう考えていましたか。

加藤医師 剥離を終わった後ということでしょうか。弛緩出血、収縮が少し悪いかなというのも頭にありましたし、胎盤を剥離すると実際にどうしても普通に出血するので、ただ突然出血は増えたことに関してはハッキリとは分かりません。

検察官 原因が分かっていなかったのですか。

加藤医師 ・・・

検察官 手術が終わるまでずっとですか。

加藤医師 子宮の収縮が悪いこと、癒着胎盤、その他にVTが起こるような何かがあったのだろうと考えていました。

検察官 出血の原因として癒着胎盤も考えたのですね。

加藤医師 原因として起こりうることを色々考えなきゃいけないので、そのうちの一つとして考えに入れていたということです。

検察官 死因は何時ごろに判断しましたか。

加藤医師 H先生と手術後に話をした中で、考えられる中で、そういう原因だろうという話をしました。それは手術室から出て病棟に行くまでの間でした。

検察官 死亡診断書・死体検案書に死因を書いたのはいつですか。

加藤医師 亡くなって、サインする前です。

検察官 それは何時のことですか。

加藤医師 覚えていません。

検察官 出来事の中では何をした後のことですか。

加藤医師 ご遺族への説明をした後です。

検察官 その時は何と判断しましたか。

加藤医師 癒着胎盤による出血性ショックです。

検察官 そうですか。(死亡診断書を示す)直接の死因は何ですか。

加藤医師 心室細動です。

検察官 心室細動の原因は何ですか。

加藤医師 出血性ショックです。

検察官 その原因は何ですか。

加藤医師 癒着胎盤です。

検察官 癒着胎盤による出血性ショックで心室細動を起こしたのが死因と判断したわけですね。

加藤医師 完全にではありませんが、他の死因も考えつつ、H先生とも相談して、こうだろうと考えました。

検察官 癒着胎盤をメインの死因と判断したわけですね。

加藤医師 メインではありません。

検察官 死後の病理解剖で癒着が見つかったのは認めますね。

加藤医師 はい。

検察官 術中にも癒着の疑いを持ったと先ほど証言しましたね。

加藤医師 はい。

検察官 前回帝王切開で全前置胎盤の症例ですね。

加藤医師 はい。

検察官 この場合、癒着胎盤が起こりやすいというのは当時の知識として持っていましたか。

加藤医師 はい、持っていました。

検察官 そのメカニズムについてはどのような知識を持っていましたか。

加藤医師 前回創に胎盤が乗っているような場合は癒着が起きやすいです。

検察官 前回創に胎盤が乗っているかどうかが大事ということですね。

加藤医師 いえ、前壁にあるか後壁にあるかで違います。前壁にあって乗っている場合は癒着が起きやすいです。

検察官 なぜ起きやすいのですか。

加藤医師 帝王切開の傷痕は一回切った場所なので筋層へ絨毛が浸潤しやすくなります。

検察官 前壁と後壁とで違うと言いましたが、後壁でも癒着の可能性は高いのではないですか。

加藤医師 いや、そういうわけではないと思います。

検察官 なぜ、そう言えますか。

加藤医師 外国の論文でそういうのがありました。

検察官 当時その知識があったわけですね。

加藤医師 はい。

検察官 胎盤が後壁にあれば心配しなくてもよいというが、後壁メインであっても全前置胎盤なら前へも回ってるわけですね。ならば癒着の心配をしなくてはならないのでないですか。

加藤医師 ある程度は、そうしなくちゃいけないのでしょうか。

(中略)

検察官 今回、前壁に回っている胎盤が前回切開創にかかっているとの疑いは持っていなかったのですか。

加藤医師 持っていません。

検察官 しかし検査はしていますよね。その段階では、いかがですか。

加藤医師 ほとんどないという診断の下での疑いです。

検察官 具体的に疑ったことはありませんか。

加藤医師 具体的にはありません。

検察官 カルテに記載しませんでしたか。

加藤医師 記載しましたが、具体的な疑いではありません。

(甲15号証のカルテを示す。「癒着胎盤か前置胎盤出血 注意」という記述を確認する)

検察官 膀胱炎と診断していますね。

加藤医師 はい。

検察官 (メモ不完全)

加藤医師 頭の中に片隅というわけではなく、おしっこの中に少量でも血液成分があったので一般的な注意が必要と考えたのです。あくまでも膀胱炎と診断したうえです。
(中略)

検察官 尿潜血だと何を疑いますか。

加藤医師 膀胱の裏側の部分に癒着胎盤がある時に潜血があることがあります。

検察官 では癒着胎盤を疑ってもよかったのではありませんか。

加藤医師 潜血は1回限りだったのと、他にも膀胱炎の症状が出ているところだったので、潜血が続くようなら考えなきゃという感じでした。

検察官 癒着胎盤で尿潜血があるのは、胎盤が前壁を突き破っているのを疑うということになりますか。

加藤医師 前提としてはそういうことになります。

(中略)

検察官 癒着胎盤注意で他の検査は何かしましたか。

加藤医師 超音波検査をしました。

検察官 疑いがないと記載しましたか。

加藤医師 3日の時点ではないと思っていましたが、膀胱炎という診断はもうついているので、注意と記載はしましたが、そんなに深い意味はないです。

検察官 Aさん以外に子宮に直接超音波検査をしたことはありましたか。

加藤医師 ないです。

検察官 癒着胎盤のエコー検査をしたことはありましたか。

加藤医師 ないです。

検察官 どのように診断するか知っていましたか。

加藤医師 はい。

検察官 どのように診断するのですか。

加藤医師 色々な方法はありますが、血流が豊富であったり子宮筋層に黒い部分があったり絨毛が見えたりしたら疑います。

検察官 誰に教えてもらいましたか。

加藤医師 本を見て学びました。

検察官 本とは何ですか。書名を挙げられますか。

加藤医師 以前からその知識はありましたが、どこで読んだとはちょっと今挙げられません。

(中略)

検察官 あなた以外の他の医師に相談しましたか。

加藤医師 今回はそのような所見がなかったので相談してません。

検察官 前壁側に胎盤が回ってきている場合、癒着を疑う必要があったとは感じませんか。

加藤医師 感じません。

検察官 前置胎盤のときの血流と癒着胎盤と血流で判断はつくのですか。

加藤医師 血流の豊富さが違います。

検察官 12月6日の経腹エコー検査の目的は何ですか。

加藤医師 単に赤ちゃんの大きさを見るためにやったのですが、+αで何か所見はないかとプローベを動かしていたら、たまたま膀胱の所に血流があったので記載しました。

(中略)

検察官 カルテに一部前置胎盤と記載したことはありませんか。

加藤医師 何かの時に誤って記載したことは覚えています。

検察官 なぜ誤ったのですか。

加藤医師 実際は一部(メモ不完全)

検察官 胎盤が内子宮口を完全に覆っていても、胎盤が前後ろ均等でなく後壁メインの場合は一部に含まれると思っていたのではありませんか。

加藤医師 含まれるというわけではなく勘違いです。

検察官 事故調査委員会で指摘されて間違いに気づいたのではありませんでしたか。

加藤医師 頭の中では理解していたのですが、調査委員会で言われたことは覚えています。

ここまでは検察側が、かなりポイントを挙げていると思う。明らかに通常の出産と比べて入念に検査していることは分かるし、それにもかかわらず予見可能性を否定する加藤医師の説明もクリアとは言い難い。

しかし、尋問も1時間を過ぎたあたりから、「そんなのヤクザが因縁つけてるのと変わらないだろう」という質問や「それはさっき答えただろう」という質問が多くなってきてウンザリしてくる。流れるようにやっているところを見ると、普段の取り調べもこんな感じなのに違いない。

検察官 エコー検査の結果をプリントアウトしてカルテに貼りましたね。

加藤医師 はい。

検察官 Aさんに説明も加えましたね。

加藤医師 はい。加えました。

検察官 カルテに記載しましたか。

加藤医師 いや、しませんでした。

検察官 なぜ記載しなかったのですか。

加藤医師 通常は記載しないと思います。

検察官 あなた以外の人がカルテを事後的に見て癒着胎盤でないと判断できますか。

加藤医師 分からないと思います。

検察官 分かるように書く必要はないのですか。

加藤医師 所見があればプリントアウトして残します。所見がなければ記載する必要はないと思います。

検察官 (メモ不完全)

加藤医師 後からそういう風に言われると困るのですが、所見も全くなくて疑うことがなければ書きようがありません。

検察官 一般的には他の人が見ても分かるようにカルテを書くべきではありませんか。

加藤医師 一般的には他の人が見ても分かるようにするべきだとは思います。

検察官 他の人の中には患者さんも含まれるのではありませんか。

加藤医師 最近の世の中の流れ的にカルテ開示というのもありますので、患者さんが見ても分かるよう書くように心がけるべきなんでしょうが、正直そこまでは気にして記載していません。

検察官 疑うような所見はないとのことでしたが、他に検査方法はありませんか。

加藤医師 保険診療上は認められていませんが、MRIがあります。

検察官 なぜMRI検査をしなかったのですか。

加藤医師 超音波でしっかり診断できていましたし、MRIの癒着胎盤に対する信用性は高くありません。

検察官 信用性が高くないと当時認識していたのですか。

加藤医師 そうです。

検察官 効果があるとの意見もありますが、信用性が高くないとは具体的にどういうことですか。

加藤医師 MRIで癒着はないと診断したのに実際には癒着があったり、逆だったり、大学でMRIを撮ったケースではほとんど外れでした。

検察官 MRIで癒着が疑われて、実際に癒着があったケースはありませんでしたか。

加藤医師 症例としてはありました。

検察官 そういうことがあるなら、念のためにやろうとは思いませんでしたか。

加藤医師 当時の認識としては、帝王切開創に胎盤がかかっているなら、診断するためにMRIやろうという意識でした。

検察官 MRIをやれば後壁の癒着も診断できましたか。

加藤医師 文献的には筋腫を取った後で診断できたというものがありますが、通常の妊娠について言えば信用性としてはあまりないと思います。

検察官 判断できるけれど信用性が低いということですか。

加藤医師 判断というか通常はやらないということです。

検察官 MRIをやれば、前壁でも後壁でも癒着を診断できたかもしれないとは思いませんか。

加藤医師 思っていません。癒着があると思っていればやったかもしれませんが。

検察官 前壁に癒着があったとは考えていませんか。

加藤医師 考えてないです。

検察官 MRIの信頼性が高くないということですが、ではエコーで癒着胎盤は確実に診断できるのですか。

加藤医師 いや、確実ではありません。ただ経膣超音波が最も適していて、MRIよりは精度が高いです。

検察官 Aさんに、MRI検査があることを伝えたうえで、やらないと選択したのですか。

加藤医師 伝えていません。

検察官 手術前は前回帝王切開創に胎盤はかかっていないという認識だったのですね。

加藤医師 かかっていないという認識でした。

検察官 かかっているかもしれない、ではない。

加藤医師 はい。

検察官 それなのに術前に直接エコー検査をしたのですか。

加藤医師 かかっているとは思っていないが、でも医学的に絶対はないので、確認しました。

検察官 どういう経緯から創にかかっていないと考えたのですか。

加藤医師 エコー検査です。

検察官 具体的にいつのエコーですか。

加藤医師 外来中から妊娠初期から割合ハッキリと前回帝王切開創が見えていましたので、かかっていないのは確認していました。

(中略)

検察官 通常の帝王切開はどこを切開しますか。

加藤医師 子宮下部を横向きに切開します。

検察官 他に操作はありませんか。

加藤医師 膀胱を下へ動かします。

検察官 膀胱を下へ動かすと言いますと、どういうことですか。

加藤医師 念のため膀胱と子宮とを剥離して下へ下げてからやるようにしています。

(中略)

検察官 二回目の帝王切開の際、通常切開する位置はどこですか。

加藤医師 基本的に前回の帝王切開創より気持ち高い位置を切ります。

検察官 そこが基本なのはなぜですか。

加藤医師 ズラして切るためです。

検察官 離すのでなく近くにする意味は何ですか。

加藤医師 標準的に子宮下部を切ることになっています。

検察官 切開する時に下部と体部の違いはありますか。

加藤医師 あります。

検察官 どうして下部が標準的なのですか。

加藤医師 体部をタテに切るのは古典的な手法で、出血量が多くなってしまうし、産後の経過もよくありません。またタテに切った場合、次の妊娠の時に必ず帝王切開になります。

検察官 タテに切った後で経膣分娩しようとすると子宮が破裂しますか。

加藤医師 症例的にはあります。

検察官 検査の時、どのように切開するか考えていましたか。

加藤医師 はい。

検察官 どのように切開しようと考えていましたか。

加藤医師 通常通り下部をU字に切開しようと考えていました。

検察官 どの辺りを切開しようかということを考えていましたか。

加藤医師 ある程度は考えていました。

検察官 どの段階で考えていましたか。

加藤医師 入院中です。

(子宮の図を書かせ、内子宮口と頸部、体部の範囲と、前回帝王切開創があると思われた範囲、今回切開しようと思っていた範囲を図示させる)

(中略)

検察官 12月13日のカルテに記載されているエコー検査写真の隣の図ですが、これはどういう趣旨で書いたものですか。

加藤医師 子宮がローテーションしていて右へ傾いていて胎盤は左にずれていたので、切開位置をこのように決めようかと書きました。

検察官 胎盤の位置が左にずれていたのですか。

加藤医師 主に後壁にあると考えていて、ずっと安静に横になっていたものですから、子宮が左へ回旋していて、胎盤も一緒にずれていました。

検察官 どこを切開しようと考えていたのですか。

加藤医師 高さはふつうの位置で考えていました。

検察官 胎盤のある位置を切開しないようにと考えたのですか。

加藤医師 はい。

検察官 その理由は何ですか。

加藤医師 胎盤を切れば出血が多くなるからです。

検察官 カルテの記載では図に線を引いていますが、これは何ですか。

加藤医師 胎盤は絵では左寄りに見えているので(メモ漏れ)

検察官 子宮後壁の左側に胎盤が寄っているということですか。

加藤医師 そうではなくて、図では左側にあるということです。

検察官 「こう切開するか」と記載されているのは、胎盤にかからない位置を切開するという趣旨ですか。

加藤医師 そういう意味ではありません。

検察官 12月14日にAさん夫妻に手術について説明しましたね。

加藤医師 はい。

検察官 どういう場所を切開する予定という説明をしましたか。

加藤医師 いや、記憶にないです。

検察官 12月14日付の医師記録、このページに記載ありませんか。

加藤医師 多分これです。

検察官 この図は一般的な子宮であってAさんの子宮ではないとのことでしたか。

加藤医師 はい、一般的な子宮です。

検察官 この線は何ですか。

加藤医師 切開する場所です。

検察官 なぜこの右寄りの位置に書いてあるのですか。

加藤医師 ローテーションしていたのに合わせて書いただけで、説明の時には別に右寄りとは言っていません。

検察官 「胎盤の付着していない場所」と言った覚えはありませんか。

加藤医師 覚えていません。

検察官 そういう話はなかったということですか、ハッキリとは覚えていないということですか。

加藤医師 ムンテラで一般的な話として胎盤を切ると出血が大量にあるので避けるというような話はしたかもしれません。

検察官 12月14日付の看護処置記録には証人が「胎盤の付着していない場所を切開する」と説明したと書いてありますが。

加藤医師 記載していたということは言ったのでしょう。ただ、意味としては典型例とは違っているということです。

検察官 では、この図は何のために書いた図ですか。

加藤医師 流れ的にこうなっている。普通の胎盤ならこう、前置胎盤ならこう、ということでAさんの子宮ではありません。

検察官 「く」の字を逆にしたようなマークは何ですか。

加藤医師 切開して赤ちゃんを取り出す位置です。

検察官 前回帝王切開創ではありませんか。

加藤医師 それはありませんね。

検察官 何のためにここを切るという説明をしたのですか。

加藤医師 ・・・

検察官 子宮を切る時に胎盤を切る可能性があるからではありませんか。

加藤医師 いや、それはないです。

検察官 開腹後に超音波検査をしましたね。

加藤医師 はい。

検察官 術中に超音波検査をすることは12月6日に決めたのですか。

加藤医師 はい。

(12月6日のカルテを示す)

検察官 何のために超音波を使おうと思ったのですか。

加藤医師 胎盤の位置を最終確認するという意味で使いました。

検察官 どうして位置を確認する必要があったのですか。

加藤医師 経腹超音波で見るには限界があるからです。

検察官 胎盤は前回帝王切開創にはかかっていないと思っていたのですか。

加藤医師 はい。

検察官 何を根拠にそう考えていたのですか。

加藤医師 今までの超音波検査です。

検察官 ならば、なぜ開腹後に超音波検査をやる必要があったのですか。

加藤医師 これは本にも書いてありますが、後壁に付着しているものでも前壁は要注意と、辺縁がハッキリしないことがあり、なだらかにくっついている場合など色々あるので、その辺縁部を確認したいというのもありました。

検察官 ならば切開位置に胎盤かかっていると否定できないのでは。

加藤医師 切開する場所ではなく胎盤の位置を確認しろとしか書いてありません。

検察官 開腹後の超音波検査で後壁の胎盤は分かりますか。

加藤医師 いや後壁は分からないです。

検察官 見えるのは前壁だけですね。

加藤医師 はい。

検察官 ならば前壁に胎盤があるから検査したということになりませんか。

加藤医師 念のためということです。

検察官 前回帝王切開創にかかっているかもしれないと考えてはいましたか。

加藤医師 ほとんど考えていないうちの念のためということで、やらなくてもいいかなと思ったのですが念を入れたということです。

検察官 開腹後の超音波検査はよくやるのですか。

加藤医師 いや今回が初めてです。

検察官 それなりの理由があったのではありませんか。

加藤医師 胎盤の辺縁がどこまで来ているか確認したかったということです。

検察官 念のため確率は低くとも胎盤が見つかったら、前回帝王切開創にかかるのではありませんか。

加藤医師 もちろんです。

検察官 開腹後にプローベで検査することを決めたのが12月6日で濃厚赤血球5単位を準備することを決めたのも12月6日ですね。

加藤医師 はい。

検察官 看護師やH医師に事前に説明しましたか。

加藤医師 覚えていません。

検察官 前回の傷にかかっているかもしれないと説明しましたか。

加藤医師 覚えていません。

検察官 言ったかもしれないし、言わなかったかもしれないということですか。

加藤医師 説明したかどうかを覚えていないということです。

検察官 双葉厚生病院のK医師には何と説明したか覚えていますか。

加藤医師 「一部かかっているかもしれないけれど大丈夫です」と言いました。

検察官 あえて事実と異なることを言ったのですか。

加藤医師 はい。

検察官 応援依頼したのは初めてですか。

加藤医師 はい。

検察官 何のために応援依頼したのですか。

加藤医師 出血が多くなって子宮摘出の判断に迷った時に相談しようと思いました。

検察官 事実と違う説明をしたのはなぜですか。

加藤医師 まず断られることはないと思ったのですが、何でもない症例でお願いするのは気がひけたからです。

検察官 断られることがないなら事実を話せばよいではないですか。

加藤医師 断られはしないと思っていましたが、渋っている感じがありました。

検察官 K医師からMRIをやったかと聞かれませんでしたか。

加藤医師 聞かれました。

検察官 後壁メインということを説明した後にそう言われたのではありませんか。

加藤医師 やった方がいいと思っているのかなと思いました。

検察官 なぜ、そんなことを言うのだと思いましたか。

加藤医師 何でだろうと考えました。

検察官 なぜ、そんなムダなことを言うのだろうと思ったわけですか。

加藤医師 はい。

検察官 そのようなことを言う医師に応援を頼んだわけですか。

加藤医師 ・・・

(中略)

検察官 K医師に連絡したのは手術当日の12月17日ですね。

加藤医師 はい。

検察官 Aさん夫妻に応援の話をしませんでしたか。

加藤医師 しました。

検察官 でも14日の時点では応援の依頼をしていませんよね。

加藤医師 はい。

検察官 どういう風に説明したのですか。

加藤医師 何かあったら呼ぼうと思っています、と話しました。

検察官 K医師に約束も取っていないのに、なぜ説明したのですか。

加藤医師 お話をしていても、来れなくなっちゃうこともあるので、当日話をした方がいいかなと思いました。

検察官 (メモ不完全)

加藤医師 断られることはまずあり得ません。

検察官 K医師がお産か何かで来られないとしたら、どうするのですか。

加藤医師 その場合は応援が可能な時間へ、ずらそうと思っていました。

検察官 実際には何時に連絡しましたか。

加藤医師 お昼ごろです。

検察官 応援の医師の都合が悪ければ時間をずらすと看護師やH医師に伝えていましたか。

加藤医師 いや言っていません。

検察官 12月14日に子宮摘出の説明はしましたか。

加藤医師 はい。

検察官 Aさんが子宮温存希望であるとの認識でしたか。

加藤医師 温存希望というか、もう一人欲しいという希望は認識していました。

検察官 子宮摘出の可能性について説明して同意書をもらった時、妊娠について改めて聴取しましたか。

加藤医師 はい聞きました。

検察官 Aさんが子宮的出を渋る様子はありましたか。

加藤医師 それはありませんでした。

検察官 不妊手術をするかどうかは毎回聴いているのですか。

加藤医師 2回目以降の帝王切開を行う時と経膣分娩を何度かしていて帝王切開になった際には聴いています。

検察官 不妊手術を希望しないとのことだったのですね。

加藤医師 はい。

検察官 それのみで子宮温存希望と判断したのですか。

加藤医師 もう一人子供がほしいともおっしゃっていたので。

検察官 Aさんが子宮温存希望であるということが、手術中のあなたの判断に影響を与えましたか。

加藤医師 影響はありませんでした。

検察官 それはないということですか。

加藤医師 はい。

こういう「それはさっき言ったでしょ」という取り調べを20日間終日されたら、もう何も考えられなくなるのは、よく分かる。医師というのは、患者や家族に説明する時に相手が理解するまで比喩を使うなどあの手この手で話すよう育てられた人たちだから、あの手この手の供述と供述の間に整合性が取れなくなってくるのも仕方ないと思う。加藤医師も、丁寧に誠実に事実を漏らさず答えようとすれば墓穴を掘るだけで、法的にどうかという単純なことに還元して、バカの一つ覚えのように繰り返した方が無難だと学習したのだろう。これでは真実解明など、とうてい覚束ない。

そして、この後さらに、検事という人種が医療といかに相容れないか端的に示すやりとりが続く。

検察官 開腹後、前回帝王切開創は見えましたか。

加藤医師 見えませんでした。

検察官 なぜ見えなかったのですか。

加藤医師 最近は見えない方が多いです。

検察官 それはなぜですか。

加藤医師 子宮を縫うときに溶ける糸を使うので。溶けないと傷の周囲が硬くなったりします。

検察官 見える場合は線のように見えるのですか。

加藤医師 線だったり一部筋層が薄くなったりします。

検察官 前回帝王切開創の所は開腹後のエコー検査で分かりましたか。

加藤医師 膀胱を介して見ましたが分かりませんでした。

検察官 膀胱を下げて確認しないのですか。

加藤医師 それも可能ですが、膀胱の上からでも見えます。

検察官 エコーの結果、前回帝王切開創に胎盤はかかっていましたか。

加藤医師 かかっていませんでした。

検察官 なぜ外から膀胱の上からしか確認しなかったのですか。膀胱を下げれば目視できたのではありませんか。

加藤医師 術中に下げて見た時にも見えませんでした。

検察官 今回は膀胱を下ろしたのですか。

加藤医師 はい。

検察官 先ほど膀胱の上から見たと証言しませんでしたか。

加藤医師 ですから、術中には膀胱も下ろしました。

検察官 膀胱を下ろさなかったのではないのですか。

加藤医師 帝王切開の前に通常通り下ろしています。

単なる思い込みではないか。衆人環視の法廷だったから良かったようなものの、取調室でこれをやられたら、たまったものではない。もし医療の現場でプロが思い込みでミスをしたら、それこそ大糾弾を受けてしまうはずだ。

さらにトンデモ質問は続く。

検察官 子宮収縮不良の原因は何ですか。

加藤医師 色々なケースがあり、その時に考えたわけではありませんが、赤ちゃんが大きかった、羊水量が多かったからというのも考えられますし、弛緩出血かなというのもあります。

検察官 当時はどのように考えていましたか。

加藤医師 子宮の収縮が悪いとしか考えていませんでした。

検察官 子宮の収縮不良の−−

弁護人 子宮の収縮不良とは、いつの時点のことを指しているのですか。胎盤剥離前と剥離後とでは医学的な意味が違いますので、きちんと整理してから質問してください。

検察官 では改めてお尋ねしますが、子宮の収縮不良があった時に何が考えられますか。胎盤剥離前と後とで整理して答えてくださいね。でないと、こちらには分かりませんから。

弁護人 何いってんだ。質問者が整理するのが当たり前だろう。

弁護人がついていて本当に良かった。思い込みで相手に不利な構図を描いておいて、「あんたがちゃんと説明しないと、この構図がなりたたないんだから、ちゃんと説明してよ。説明しないと心証悪いよ」と言っているようなものだ。これも法廷だったから、単にどよめきが起きただけで、被告人は被害を受けなかったけれど、同じようなことが取り調べ中に起きていないと誰が断言できるだろう。

本当に背筋が寒くなる。
(つづく)

(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)

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