医療ガバナンス学会 (2007年8月21日 14:43)
●二つのきっかけと連載の目的
インドで、HIV/AIDS 分野の予防啓発活動の一環として、CM づくりに携わっていた時のこと。
「日本語にHealth Communication やBehavior Change Communicationという言葉はあるのかい?」当時の上司からの質問だった。
それぞれ「ヘルスコミュニケーション、行動変容のためのコミュニケーション」という訳語が頭に浮かんだ。※
※ちなみに「ヘルスコミュニケーション」については、MRIC の掲載記事(2006 年 2月6日号)で別府文隆さんがとてもわかりやすく解説されている。「Behavior Change Communication(BCC)」は、「保健分野のプロジェクトに必要不可欠な、健康教育・広報コミュニケーション活動のこと。(これらの活動においては、)必ず最終目標である、人びとの健康に結びつくような個人の行動変容が起きなければならない」
( http://www.joicfp.or.jp/jpn/problem/bcc.shtml JOICFP より) とある。
「それぞれに相当する訳語はある。でも、日本語に訳されたHealth Communication やBehavior Change Communication という言葉が、医療や公衆衛生に従事する人の中でも十分に共有されているとは言いにくいことを踏まえると、確実に”言葉が存在している”とは言えないのかもしれない」と答えた。
「だったら、そういう概念が伝わるように君がこれから何とかすればいいんだよ。」茶目っ気たっぷりの上司は、ウィンクしながらそう言った。
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そしてもう一つは、全く別の機会でのこと。
友人でもある医師(英語も堪能)に、日本語に訳されたヘルスコミュニケーション分野の資料を見せていた。
すると、一通り目を通した後で、彼が一言。
「これって、(カタカナばっかりで)英語で読んだほうが絶対わかりやすいね!」
日本語になっていて、これなら理解してもらいやすいだろうと思って差し出した資料のはずだったのだが、予想外の反応だったのだ。
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この二つの出来事が、今回、連載の目的を決めたきっかけです。
アメリカを中心に、ヘルスコミュニケーションという分野が確立され、医療と公衆衛生の分野で政府や、国際機関、研究機関、企業など含めた様々なレベルの組織がこの分野の概念を盛り込んだプロジェクトを遂行しています。従来の広報を中心とした「業務内容を知らせる」ためのコミュニケーションではなく、ターゲットの行動変容を目的にした戦略的なコミュニケーションという考えは、日本においても、この国の社会に合った形で普及されれば、医療と公衆衛生分野において新しい風を吹き込むものになると考えます。しかし、現状は、日本語でこれらについて書かれた文献や資料は限られており、訳語としてではなく、言葉としてこの分野の概念を共有しやすいとはいえない状況にあると感じています。
本連載では、「医療/公衆衛生・コミュニケーション・メディア」を柱に、ヘルスコミュニケーションに対するイメージを皆様と共有させて頂くことを目的としました。様々な形で医療や公衆衛生に携わっていらっしゃる皆様に、ヘルスコミュニケーションという世界の存在を知って頂くこと、そして必要な時が来たときに、その扉を開いて頂ければ幸いです。
私の尊敬する人はいつも言います。
「Obstacle means chance! 」(障害はチャンスである!)。
これから、日本の医療と公衆衛生に貢献できる大きな可能性を秘めているこの分野の将来に期待して、連載を始めたいと思います。
● 今後の連載予定
l BOSTON での学び1 黒板もメディア
l BOSTON での学び2 「理解する」は使えない?
l BOSTON での学び3 専門家になる
l 舞台はインドへ1 深刻な事態と進んだコミュニケーション
l 舞台はインドへ2 糸とマッチと新聞
l 舞台はインドへ3 コミュニケーションは水物か
l 日本はどうするのか?日本の医療/公衆衛生とコミュニケーション 医療系広告代理店の存在と役割
l ヘルスコミュニケーション展開例 ①―③
l 将来への展望
内容は変更になる可能性があります。
●最後に、はじめまして
林 英恵(はやし はなえ)と申します。
株式会社マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパン(McCann Healthcare Worldwide Japan http://www.mccann.com/)にてジュニアストラテジックプランナーとして勤務。疾患啓蒙を含むメディアキャンペーン、医療従事者向けの広告・教材開発などに従事しています。来年9 月よりハーバード公衆衛生大学院 Department of Society, Human Development, and Health にて、Health Communication を専攻。
大学卒業後、新聞社で小学生向けの日刊紙の記者として勤務。その後、ボストン大学教育大学院で教育工学を専攻し、公衆衛生分野での教材・カリキュラム作成を研究。その後 UNICEF インドカントリーオフィスにて、 HIV/AIDS 予防キャンペーンの CM 作りと教材のリサーチにインターンとして参加。現在に至ります。
興味のあることは、疾患の予防や、理解を深めるために、いかに魅力的で実行可能なプロモーションやキャンペーンを行うかということ。どんな地域のどの疾患にでも対応できるようなキャンペーンのプランナーになって人々の心と体の健康に貢献することが目標です。
これから1 年間、よろしくお願いいたします。