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臨時vol 22 「第3回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方検討会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2007年6月12日 15:53)


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第3回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方検討会傍聴記

~ 本質は、厚生労働省が検察とどこまで調整できるか、だ ~

ロハス・メディカル発行人 川口恭

年金だ、コムスンだ、と厚生労働省所管領域の大騒ぎが続く。クラブ詰め記者たちはてんやわんやで、検討会などじっくり聴きに行く余裕はないと思われる。

しかし先週金曜日8日、皆さんご注目の『診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会』が粛々と開かれていた。こんな時こそ、しっかりと傍聴して報告したい。そして期待に違わず面白い検討会だった。刺激的な激しい応酬が見られただけでなく、一生懸命にやりとりを追っているうち、厚生労働省が本気で第三者機関を機能させようと思っているなら、福島県立大野病院事件を何とかする必要があることに気づいてしまったからだ。
本論に入る前に議事録的にまず流れを追う。今回は、前回に引き続き参考人からの意見聴取。参考人は、日本法医学会から中園一郎理事長(長崎大学教授)と福永龍繁東京都監察医務院院長。日本病理学会から深山正久副理事長(東京大学教授)。それから元検事で退官後は医療過誤をライフワークにしているらしい飯田英男弁護士の3分野4人だった。
質疑は後回しということで、3分野の人が連続で説明をする。今回も説明時間は1分野につき10分。繰り返しになるが、いいのか? こんなことで。各参考人とも説明を端折っていかざるを得ないので、資料が公開されたら、そちらもぜひ併せてご覧いただきたい。
トップバッターは中園氏。
「最初に申し上げたい。法医解剖鑑定が誤解されている。 確かに警察・検察の嘱託で行われるものではあるが、公正中立の立場から死因究明を行っているものである。死因究明のため行政機関内に調査組織を設置することには賛同。ただし、組織の透明性・公平性をどう確保するのかが一番重要。さらに強制力のある調査・捜査機能を有しなければ機能しない。そのためには『剖検センター』機能が必要」
という辺りまで話したところで、松谷有希雄医政局長が誰か(大臣かな)に呼び出され、慌ただしく上着を着て出ていく。戻ってきたのが約40分後で、その後また25分ほど中座したので、以下に記す白熱の議論を半分以上聴いてないことになる。大変なんだろうなあと同情すると同時に、いいのか? こんなことで、と再び思う。
気を取り直して中園氏の続き。
「法医解剖の欠点は、結果を遺族にも医療機関にも開示できないこと。ぜひとも検察には開示できるようなシステムを考えていただきたいし、そのように学会としても働きかけていきたい。医師を免責することは一般国民の理解を得られない」
次に福永氏。
「23区では年間1万2千件の異状死があり、そのうち医療関連のものは200件を超える程度。そのほとんどを監察医務院で解剖・死因解明している。モデル事業へ20体流れたが、ほんの一部。モデル事業へ行ったのが少ないのは、土日だと受け付けられないとか、遺族の解剖同意が必要とか、病院のモデル事業への理解が足りないなどの要因と思われる。その数少ない経験から言うと、臨床医の豊富な情報を受けながら解剖するのは有用だと思う。ただし、実際に調査組織を機能させるには、人口100万人あたり1人の医師が必要で、24時間対応するには100万人あたり3人ということになる。その他に臨床検査技師や調整看護師も必要。監察医務院に準じる組織にならないといけないが、監察医制度が全国で徐々に縮小してきたのが実情」
続いて深山氏。
「現代の医療は非常に複雑なものになっており、死亡直後に合併症による死亡、事故死、過誤死を振り分けるのは困難であり、まして警察に振り分けるのは不可能。よって、これらの区別なく診療関連死は全て調査機関へ届け出るべきであり事故死、過誤死の疑いがある場合、さらに遺族が強く希望する場合は、死因究明のための調査へ進むべきである。明らかな過誤に基づくと判断された事例に限って、評価終了後に「異状死」として警察へ届け出る。この際、司法解剖だと情報公開が難しく、医療機関が死亡診断書を作成できないのだが、そこは医療機関に死亡診断書を作成できるようにすべきである。この際の解剖は法医解剖ではなく、原則として病理解剖で行うべきである。なぜならば、現代の複雑な診療関連死は、臨床医が参加しなければ評価することは不可能だからだ。臨床医と病理医とは日常的にCPCという形で連携しており、その手法を準用すればよい。法医学専門家と司法関係者に評価終了時点で監査を受けることとする。また医学・病理学の術後や表現は説明に多くの時間を要するものが多く、それを遺族に解説するような医学アドバイザーの配置が望まれる。これは調査の後に続く裁判外紛争処理にも有用であろう。メディエーションというよりは報告書の解説が主な仕事である。なおモデル事業の実績から推定すると、調査機関へ回ってくるのは当初は年間400件程度で、その後、どこまで増えるのか分からないが現在全国に病理専門医が1928人いるので、そのうち2割が年に2例解剖すれば最初は回る。調査・分析を行う人材の育成については病理学会が協力できる。今後の課題としては病理医の不足があり、病理医へのリクルートを促す仕組みが必要。いずれにしても、この制度を病理学会は全力で支えていく」
最後に飯田氏。非常に刺激的な文言が並ぶ。
「最近、不正確な情報が医療関係者の間で飛び交っている。まず正確な情報をお知らせしたい。警察への医療事故届出は年間200件以上あるが、そのうち検察が起訴したのはH11年1月からH16年4月までで79件。年平均15件しかない。刑事医療過誤事件として処罰されるのは、警察へ届け出られた事例の数%に過ぎず、立件送致されても大部分が不起訴になっている。刑事医療過誤事件が増えたのは、社会情勢の変化により特に大規模病院を中心とした届け出が増えたためであり、捜査側が積極的に立件しようとしているなどというのは根も葉もない話に過ぎない。また医師法21条の改正についても議論になっているようだが、それは順序が逆である。調査機関設置は何のためで、どういった経緯だったか。最近の医療過誤訴訟の増加は、患者と医療者との信頼関係の崩壊から始まっているのであり、この問題の解決には信頼関係の回復が不可欠で、そのためには医療者が自らの手で医療事故の真相究明に当たらねばならず、医療界が初めて自らの手で作業に取り組んだことは高く評価できる。しかしながら『刑事訴追されるのでは医療をやってられない』という日本医師会的意見を言う人は、なぜこんなことになったのかを考えるべきであり、他へは盛んに文句を言うのだが、だったら自分たちは一体何をしたのか、と言いたい。しっかりとした中立・公正・透明な第三者機関ができることによって、かえって医療過誤訴訟増加に歯止めがかかることを期待できる。第三者機関には医療関係者だけでなく部外の第三者、特に患者側代表を参加させることが大切。患者側が参加することによって多少不満があっても結果を受け入れ、信頼関係回復へとつながる。また第三者機関設立の目的は再発防止だという意見もあるようだが、患者側が最も求めているのは真相の究明であり
再発防止は副次的に医療機関側が考えればよいこと。再発防止に目的を限ると、調査結果の活用・公開への消極的態度につながると危惧する。第三者機関の調査結果を患者側に説明するのは、当事者である医療側の責任である。一番心配なのは医療側が第三者機関に丸投げすること。調査報告書は行政処分に活用するとともに、訴訟資料としても活用すべきである。すぐ訴訟につながるのでないかと医療者は心配するけれど、むしろそうはならない。事故の届け出は義務付けること。任意に任せるときちんと届けられない。医師法21条の問題は、医療事故の届出制度が整備されれば自ずから解決の道筋がつく問題であり枝葉の問題。日本医師会提案のように法改正を先行して行う必要はない。医療過誤を刑事免責とすることは国民の理解が得られない。第三者機関の判断が中立・公正なものであれば、捜査・公判でも調査結果が尊重され受け入れられると期待でき、委縮医療を招くとの批判は的を射ていない。処罰されている医療事故はほとんどが未熟な医療者によるもので、むしろ医療界がその未熟な医療者を何とかする方法を考えるべきだ」
非常に刺激的なコメントの数々を長々と失礼した。だが、この飯田氏の登場によって突如霧が晴れるように何かが分かった気がする。

ここから、委員の質疑へと移る。質問の口火を切ったのは堺委員(神奈川県病院事業庁長)。
「三者に一つずつお尋ねしたい。まずは法医学会の方に。モデル事業を経験してみて、従来の観察医務院での作業に付け加えるできことはあったか」
福永
「第三者の臨床専門家の立ち合いがあったほかは従来と変わらなかった」
深山委員が割って入る。
「モデル事業の場合は解剖だけで評価が終わったのでなく、臨床の専門家が2名加わって、そちらで評価が行われている。これは行政解剖にはなかったはずだと思っている」
先ほどのプレゼンの時から気にはなっていたのだが、本来の興味とは別の意味でおや?と思った。法医学会と病理学会は、なにやらさや当てしあっているのか?
堺委員
「病理学会の方にお聞きしたいのは、医療アドバイザーの件。調査結果の説明を考えているのか、調査機関へ患者側になりかわって質問することを考えているのか」
深山委員
「私どもが考えているのは、ご遺族への解説を主目的としている。モデル事業の経験から言っても、医療者が当たり前に使っている用語の意味が伝わっていないことがあり、その意味を明確に伝えることが重要だと考える」
これは、まさにごもっともである。『ロハス・メディカル』のような媒体が成立したのも、医療者が当たり前に使う言葉が業界用語ばかりで、そのことに医療者が気づいていない現実があるからだ。
堺委員
「飯田参考人にお聞きしたいのは、医師法21条の問題は自ずから解決の道筋がつく、と言うけれど、21条も含め整合性のある法体系の整備が必要でないか」
飯田氏
「21条の問題というのは、広尾病院事件について最高裁判決が出て、法律家の間では見方が決着している。問題はこの後どう処理するかであり、広尾病院まで適用がなかったのだし、どんどん訴追していく考え方なんて元々なかった。調査機関がきちんと機能すれば、21条の活用の余地が相対的に低下するので、そのまま置いておいても使われなくなれば問題ない」
鼻水が出そうになった! 要は法律家の裁量に任せよと言っているわけだ。ここまで法律家が一番偉いと思っていて、しかも、それを広言するというのは、ある意味凄い。自然法則よりも、人間界のルールの方が上だというのだから、世の中の見え方が私なんかとは違うと思わざるを得ない。
さすがに堺委員も食い下がる。
「置いておいても使われなければ良いでないかということだが、それでは医療者は不安をぬぐえない」
飯田氏
「置いておいても活用されないような状況を作ればいい」
堺委員
「明確に区分けしていただけないものか」
飯田氏
「法律にすべてを書き込むことは不可能であり、ある程度は抽象的なものにならざるを得ない。だから運用という問題が出てくる。おかしな運用をすれば検察も批判を受ける」
絶対におかしな運用がないようにしたい医療者側と少々おかしな運用があっても最終的にバランスが取れればよいという法律家の論理が全くと言っていいほど噛み合っていない。
続いて樋口委員が質問する。
「法医学会はかつて全ての診療関連死を警察へつなげと言っていた。明らかな病死を含む80万件とか100万件をとりあえず報告し全例解剖を原則とするのか」
中園氏
「何万件も届け出られたらパンクする。一方で解剖しないと分からないものもある。どういうものを届け出るか、ガイドラインに決めるべき」
前田座長
「届け出られたもののうち解剖するものの割合は?」
中園氏
「言葉としては原則解剖、になる」
加藤弁護士。
「専門家はどれ位不足しているのか。どうやって育成していくのか」
中園氏
「10数年前から法医・病理研究会というのを作って育成に力を入れている。基礎系を先行する医者を、具体的には夏季セミナーでリクルートしている。ただ残念ながら、ずっと法医病理をずっとやりたいという人がいても続けていくためのポストがない。大学が独立法人化して毎年1%の定員削減があるので、私の教室でも教員枠が1人減らされた。しかも大学以外では東京都の監察医務院しか仕事がない。病理は大学病院以外にも勤務する場所がある」
続けて福永氏
「全国的に教官ポストが削減されている。そんな中東京都監察医務院では23区から全域へと対象地区を拡充する方向で、それに伴い定員の補完に動いている」
深山氏
「調査件数が年間2000件くらいまでは耐えられる」(4千と言ったような気もするがメモは2千になっている)
ここで木下委員(日本医師会常任理事)が発言する。頭から湯気が出ているのでないかと思った。
「飯田参考人から日本医師会の名前が出たので言うが、我々は医師だけを免責せよと申しているわけではない。明らかに刑事事件で裁かれるべきものの免責も言うつもりはない。司法がしかるべき判断をするのは大前提だけれど、しかし真剣に真面目にやっている連中でも思いもよらないことで訴追されかねない状況がある。警察へ届け出られても起訴されている例が少ないのは配慮いただいているのだなと思うけれど、捜査が入っただけでも医療現場は混乱する。第三者機関が届け出るのは警察ではなく厚生労働省にならないか。運用で何とかなるというのなら、医療関連死は医師法21条の異状死に含めないと変えてはいけないのか。それだって本来の趣旨は変わらないではないか」
木下委員の頭の中では警察・検察は、よほどトンデモない存在なのだろう。だからといって、言うに事欠いて厚労省へ届けたいとは。。。
飯田氏
「どちらが先かは鶏と卵の関係だが、医師会の提案では、ひどい例については刑事の対象になるとは読み込めない」
木下委員
「届けるところを警察でないところにしてほしい」
飯田氏
「すでに医師法21条は存在するのだから、まず受け皿を作るべき。受け皿も作らずに医師法21条から医療関連死を除いたら国民の反発がある」
前田座長が取りなすように割り込む。
「私も法律屋だから飯田参考人の言うことは分かるが、しかし大野病院の事件のこともあって、医療界に心配が高まっているというのは事実だと思う。21条変更ありきではないにしても、刑事訴追するかどうかについては医療側の判断を尊重する、そういうことは必要でないか。そのためにはガイドラインを厚生労働省が頑張って作らないと」
気だるそうだった事務方の1人がビクっと背筋を伸ばし目を剥いた。
飯田氏
「きちんと方向性が明らかになることが肝心」
危うく水掛け論になりかねないところで、前田座長がうまく話をそらす。
「21条を変えないと言いすぎても、積極的に刑事訴追しようとしていると誤解されかねない。参加者全員ほぼ同じところを向いていると思うので、あとちょっと距離を詰めてもらえたら。そこで一つ法医学会と病理学会に質問だが、少し温度差があるのかな、一緒にやっていくことでお互いの利益、利益と言っちゃいけないが、うまく一致してまとまることはできるのか」
中園氏
「法医学会は病理学会の1割しかマンパワーがない。既に1人で年間50~100例解剖しているし、法医解剖自体が増えている。行政解剖を入れると年1万3千件になるのでないか。全力で協力はするけれど可能な範囲は法医の方がパワーが低い」
非常に回りくどいが、要するに現状では調査機関の解剖は引き受けられない、ということを言っているのだろう。

対して深山氏は積極的だ。
「モデル事業に形態が近いのは病理解剖である。法医を排除するつもりはないが、監査の形で関与していただくのが良い。心肺停止で担ぎ込まれるものや在宅死は法医で、診療関連死は病理医が主体になるべき」
カチンと来たのか福永氏が嫌味を言う。
「監察医は病理と法医が協力してやっており、現在でも1割5分は病理医。もともとは半分病理医だったのだが、腐った死体があるからといった理由で減ってきた。グレーゾーンの解剖は監察医の仕事だ」
深山氏
「法医2人に病理1人で声の大きさが違うので、あえて再度発言したい。診療関連死から切り分けられるものは監察医の仕事ではない」
凄まじいさや当てである。そして、法医学会が及び腰なのに対して、病理学会の前のめりぶりが目につく。組織拡大には千載一遇のチャンスということなのだろう。
前田座長の狙い通りか。21条問題の議論は立ち消えになり、事の本質とはちょっと違うのでないかというところで、新たな紛争勃発である。
そして加藤委員(弁護士)が、その中に加わっていく。
「専門家の数を増やすのに学会の努力だけでは限界があるのでは。実は昭和35年から開かれていた医療制度調査会で、死因調査のために解剖体制の充実を図ることが提言されている。しかし、実際にはその提言が活かされていない」
中園氏
「本来は監察医制度を全国に設置してほしいと言い続けているのだが、徐々に縮小されてきたのが現実。監察医をほしいと言いたいところだが、遠慮深く剖検センターと言っている」
深山氏
「私どもも監察医の不足は重大な問題だと認識しているし病理医の不足も深刻。学会の努力が限界に達していることは確かなので政策的な誘導を取っていただけるとありがたい」
と、ここで唐突に前田座長が取りまとめに入る。
「ここまでの議論と厚生労働省試案の流れで言うと、各参考人とも組織を作ることには異論ない、むしろ積極的ですね。公平・透明なものを作るということも異論ない。調査機関へ届け出を義務化することも、ほとんど異論はなかった。届け出先は、まず医療の専門家がスクリーニングする場ということも概ね異論はなかった。残るは第三者機関のイメージになる。木下委員の案では保健所を使うことだったが、どのようなものが可能なのかアイデアがあれば出していただきたい」
本当に唐突な取りまとめである。確かに、誰も異論を述べてはいないが、ほとんど論点にもなっていないことばかりではないか。
山口委員(虎の門病院院長)が口を開く。
「モデル事業の経験から言うと解剖しなければ分からないグレーゾーンのものについて、法医・病理が扱うのは問題ないと思うが、明らかな過失を伴うという場合、その過失は臨床経過にあるので解剖して確かめるまでもないことが多い。むしろ診療行為に関する検討が必要だ」
前田座長
「ある意味、第三者機関の核となる意見だ」
深山氏
「警察への通報をいつするかだが、医療評価が定まった後にすべきである」
中園氏
「現状で法医解剖へ廻ってくるのは遺族が強い疑問を抱いて刑事告発したものばかり。鑑定書が遺族へも病院へも開示できない、フィードバックできないというのが大問題。すべて医療評価するというけれど、入院後1日か2日で亡くなる例も結構ある。そういうものは警察へ届け出た方が適切」
前田座長
「警察へ通報するのが故意のものに限るというのは考えられないが、未熟な過失があった場合に限るという考えた方はありうる。ただし、その場合でも全部含めて調べた後でないと警察へ届け出られないというのはどうなのか」
飯田氏
「明らかな過失の7割から8割は明白な過失に該当すると思っている。そういうものまで、調査が終わるまで待たせるというのは、遺族からの強い反発にさらされ現実的でない。そういうものにも警察は直ちに介入できないのか」
深山氏
「私どもの言っているのとは質が違う。患者の取り違い、投薬ミスなど明らかなものは確かに明らかだ。だが、ここで議論されているのは、もっと複雑な事例のはずだ。同列に議論するのはおかしい」
前田座長
「医療側も認めるような明らかな過失、そういうものまで第三者機関を通さないといけないのかというと刑事の方は不安になる。合併症の問題まで司法がズカズカ踏み込んでいくことはない。そうは言っても大野病院事件の例があるじゃないかというかもしれないが、腑分けできるのでないかと考える。これについては次回、モデル事業についてご説明をいただきたい。明らかな過失は警察へ行くということで、そのタイミングとして気になるのは刑事の証拠をキッチリ残していただけるか。透明性の原点はエビデンスが残っていること」
(ちょっと略)
と、すっかり収束ムードが漂い始めたところで、豊田委員(新葛飾病院セーフティーマネージャー)が手を挙げる。
「被害者家族の立場からお話しする。遺族の側から見て明らかな過失であっても病院が認めないことはある。私の場合、息子を亡くしたのだが、それは未熟な医療を施したというのではなく、何も処置してくれず、そのうちにショック死してしまった。警察へ行ったけれど事件性がないということで行政解剖へ回され、そもそも遺族は解剖の違いなんて分からないし、まして解剖結果が開示されないなんて思いもしなかった。
いまだにハッキリしない。中園氏の開示できるシステムにという発言を聴いて心が救われる思いがした。そういう医療者に対して、遺族としては警察で罰することまではなくても少なくとも再教育は受けてほしい。しかし現実は刑事処分と行政処分とがセットになっているので、その医者は今も普通に診療を続けている。遺族の気持ちを入れた形で組織を設計してほしい」
前田座長
「過程に遺族なり代理人が入るのはリアリティはあるか」
飯田氏
「臨床経過を調査する過程で遺族の知りたいことは出てくる」
前田座長
「情報開示の観点も非常に大事だ」
鮎澤委員(九州大准教授)
「議論が入口に終始している。結果説明は第三者組織がやるべきか、そうではないのか」
飯田氏
「調査委員会がやっちゃいけないわけではない。ただし説明義務を負うことになると病院側が丸投げして第三者的になりかねない」
深山氏
「専門家と一般の方との知識は思った以上に食い違う。用語の使い方や意味を解説する立場の人は必要だろう。そして、それがその後の裁判外紛争処理に活用され、双方納得を得られるような形になればと思うが」
辻本委員(COML理事長)
「患者側がもっと医療の限界性、不確実性を引き受けなければならないと思うが、その前に患者・国民は病理医、法医学者の存在を知らない。だから目の前に出てきても病院側の人で、医療者を守るための人間ではないのかという疑問を持ってしまう。医療アドバイザーを置くというが、モデル事業では調整看護師が遺族対応で疲弊し切っている。どうか国民の前に逃げずに出てきていただきたい」
深山氏
「重く受け止めている。学会でも病理医による説明を推進しているところだ」
中園氏
「鑑定書をフィードバックするよう活動していこうと考えている」
福永氏
「私も直接説明するよう心がけているし、監察医制度の場合は、情報公開請求すれば、親族に限って鑑定書を見ることができるので活用してほしい」
この辺りのやりとりも興味深かったのだが、前田座長がやはり強引に取りまとめる。
「時間を過ぎてしまったが非常に有意義な議論ができた。届け出を義務化する。刑事がしっかり噛む。振り分けは医療が行う、というところまではまとまったので、ここからは警察への通報のタイミングなど突っ込んで組織に肉付けしていければと思う」
と、こんな盛りだくさんの議論と、取ってつけたような結論とを得て検討会は終わった。
で、いよいよここから気づいたところを述べることにする。

飯田氏や前田座長の主張が正しいとするなら、検察は過去も現在も方針は変わらず、医療事故に関しては明確な過失のあるもののみ起訴していることになる。福島県立大野病院事件の場合は、捜査段階では明確な過失の裏付けがあると考えていたのに、素人の杜撰さゆえ公判に入ってから次々と証拠を覆された、単なる見込み違いということである。

そして今回の調査機関に関して、医療者と法律家との間で妙に食い違いがあるのは、明確な過失がない場合には立件・処罰されないという保証を欲しい医療者と、そもそもそんな事から議論を始めたのではないだろうという法律家・患者サイドとで出発点がずれているからだ。立ち去りが続発している状況の中、医療者の不安を取り除かないままで制度が立ち行くはずがない。そして残念ながら、前田座長や飯田氏が何を言おうが、現場の医療者たちは第三者機関ができた後できちんと運用されるということを全く信じていない。

なぜなら、立件しないという保証は厚生労働省の検討会だけから出てくるはずもなく、厚生労働省が汗をかいて検察と調整する必要があるからだ。そして百万言を費やすよりも医療者の心を掴むのに有効なのは、検察へ働きかけて福島県立大野病院事件の公訴を取り下げさせることだ。福島県立大野病院事件のような検察の凡ミスへの働きかけすらしない以上、第三者機関を作って調査と処分の権限を一手に握った厚生労働省がきちんと正義を実現する保証など、どこにもないではないか。検察へ働きかけられないのなら、第三者機関は厚生労働省の管轄外に置くべきである。
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jpにも掲載されています)

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