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vol 11 「新興国の医療 1」

医療ガバナンス学会 (2007年6月11日 15:53)


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新興国の医療 1
多摩大学 医療リスク研究所教授
(医師、MBA) 真野俊樹先生

今回と次回は、新興国の病院、今回はタイとシンガポールの病院、次回はシンガポールの介護施設と韓国の病院を紹介したい。
●タイの病院

タイの病院は外来、入院の両サービスを提供しているという点では日本の病院に似ているが、取り扱い医療保険の種別については、病院によって異なるという点では大きく異なっている。農村地域など、病院が不足している地域では、医療保険制度の取り扱いがあるものの、都市部の大規模な民間病院などでは、民間保険のみの契約となっている場合も多い。特に貧しい人用の30バーツ制度については、民間病院などで取り扱いがない場合が多い。

タイでは、高額な医療と庶民が受けることができる医療が分かれている。バンコクホスピタルとバムルンラート病院は、株式会社による民間病院で高額な医療、チュラロンコン国立大学病院は庶民もかかることができる病院である。政府系病院は各省庁の管轄のもとに運営されており、医療提供において中心的な役割を担っている保健省の管轄病院は全病院の約63%となっている(1999 年)。また民間の運営する病院もタイ全体で373 病院ある。これらのうちバンコク市内の民間病院は、主に民間保険加入者向けのサービスを提供している。
●バンコクホスピタル

1972年設立、16階だて、他にも14グループ病院を持つ巨大病院グループ。株式会社として上場している。

バンコクホスピタルはタイの株式市場に上場している私立病院で、バンコク国民の3%の富裕層と海外企業の駐在員や旅行者、安くて質の高い医療を受けるためにバンコクを訪れる患者をターゲットにしている。バンコク内での競争はもちろんのこと、海外でも顧客獲得の競争をしているといえる。経営に関してはBSCを導入したりISOを取得して積極的に取り組んでいる。

バンコクホスピタルでは、従来からタイ及び近隣国駐在外国人対象の医療サービスを行ってきたが、タイをアジアの健康リゾートの中心とする政府の政策にも呼応する形で、外国人対象のサービスを抜本的に拡充すべく、バンコク国際病院のほか、アメリカで世界的な心臓外科の権威として活躍していたタイ人を招いてバンコク心臓病院を開設するなど、施設・陣容の拡大を進めている。外国人の医療ニーズは特に中東のイスラム教徒を中心に大幅に増加している。これはテロによりアメリカ入国が困難或いはアメリカ滞在のための障害が増大した、中東のイスラム教徒が、タイに多数代替地として来訪し始めたことが大きく影響している。

タイは宗教的に寛容であり、従来からイスラム教徒も3%程度居て、食・生活習慣面でも対応が容易である。この傾向は後述するバムルンラート病院のほうが顕著であった。

特に、日本人対応に関しては、日本留学医師がタイで最も多数揃っている。
●バムルンラート病院

1996年には今回訪問した、256 病床を有する総合病院のバムルンラ ート病院が開設された。バムルンラート病院は、タイ航空を主要株主とする株式会社病院で、タイの株式市場に上場している。CEOは米国人で非医師であった。また、医療と経営を完全に分離していた。

開設当初には日本人を治療可能としていたが、単に日本への留学経験者が通訳して、病状を伝えているだけであった。

しかし最近では、各国語に対応した医療が行われている。外国語対応についても、英語、アラブ語、中国語、日本語などのサービスデスクを揃えている。但し、医師は基本的に英米の医学部卒が大半で、日本留学医はほとんどいない。

中心はインドネシアなどの南アジアや東南アジアの富裕層、アラブであるといった点はバンコクホスピタルと同様である。しかし、海外からの治療者は40万人を越え、日本人中心というわけではなかったようである。

日本から医療を受けにツアーを組んでくる、といった話も聞かれたが、実際に一般の医療を日本から受けに来る患者さんは少ないようであった。

豪華なロビーと病院内のマクドナルドやスターバックスといったファストフード、日本の居酒屋様のレストランまである。食事制限が無い限り、病院内にある日本料理レストラン、マクドナルドやスターバックスからの注文もOKで、部屋までデリバリーしてくれる。

ホテルのような病院で、ワールドクラスの医療ケア、親しみを込めた献身的なサービス、そして優しさを目標としている株式会社病院である。タイの中で治療水準、サービス水準の高さで定評のある病院であり、施設面でもバンコク病院同様に高級ホテル並みの病室が揃っている。

最近の外国人顧客の状況は、上記と同様の理由でアラブ人が急増しており、ほぼ満室状態である。
●チュラロンコン大学医学部附属病院

チュラロンコン大学は、タイの東大にあたり、1917年に国王によってたてられたタイで最初の大学である。付属病院であるチュラロンコン大学医学部附属病院も医療レベルには定評があり、医大であるマヒドン大学とともにタイの医療の双峰を成す病院である。しかし、庶民でごったがえし、アメニティが高い病院とはいえなかった。

ここが難しい。おそらく医療レベルはかなり高い、しかしアメニティが低い、これが上述した株式会社の病院との大きな差であろう。個室もあるが、ほとんどが大部屋でクーラーはない。

ところで、なぜ、医療レベルの差がないか少なくて、アメニティの差といえるのか。それは少なくとも医師に関しては、バムルンラート病院や、バンコクホスピタルには、このチュラロンコンなどの大学病院の医師が診察や手術に行くからである。この国では、医師の兼業が厳密に禁止されていないのである。ただし、日中の業務時間に抜け出すのは限界があるようで、土日とか早朝、深夜の回診が多い、という話であった。医師としても、安い国立大学病院の給与を兼業でカバーしている様子である。

また看護師のレベルも、株式会社病院とチュラロンコンは遜色ないようであった。
●まとめ

王国であるせいもあって、タイでは格差が容認されている。実際、株式会社病院の豪華さは目を見張る、次に述べるシンガポールの病院よりもきれいかもしれない。

医療の質にアメニティがどこまで影響するのかには議論があろう。しかし、ここまで差がつくと、治療そのものにも影響するのではないかと思ってしまう。
○ シンガポールの病院

一方シンガポールの病院は、大きく分けて政府系の病院と私立の病院に分かれる。政府系の医療機関には、ポリクリニックと呼ばれる診療所(基本的にGPのクリニック)、SGH(シンガポール・ジェネラル・ホスピタル)やNUH(シンガポール大学病院)、アレキサンドリア病院といった総合病院、KKH(KKウィメンズ・アンド・チルドレンズ・ホスピタル)といった専門のセンターがある。しかしながら、これらの病院も効率化の視点で民営化が進んでいる。多くは、建物の建て替えを補助金で行って、それを土産に民営化という形をとるようだが、もちろん、民営化したからすぐ黒字転換しているわけではない。

私立病院と旧政府系病院の数はほぼ同数であるが、シンガポール国内での医療は80%が旧政府系病院でなされ、私立病院は株式会社によって経営されているが、海外からの患者の比率が高い。旧政府系の8病院及び5専門診療所が84%を占める。残りの13の私立病院は規模が小さく、25~500床の範囲となっている。私立病院のうち最大のものは、シンガポール証券取引所に上場されているパークウ
エイヘルスケアグループである。もうひとつは、ラッフルズメディカルグループがある。ラッフルズホスピタルは380ベッド、シンガポールにおける40あまりのクリニックと、香港で6つのクリニックを運営しているラッフルズメディカルグループの病院である。このふたつはシンガポール証券取引所に上場している。
○シンガポール国立大学病院

シンガポール唯一の医学部のあるシンガポール国立大学(NationalUniversity of Singapore = NUS)に隣接するシンガポール国立大学病院(National University Hospital = NUH)は、唯一の「大学病院」である。しかし、日本のような「医学部附属」ではない。

日本の厚生労働省にあたる保健省から、民営化についての方針が出されたのは1980年代である。それをうけて、シンガポール国立大学病院がその先陣をきって1985年に民営化された。それまでは固定の予算性であった病院が民間で利益も追求していく、という形になったのである。

シンガポール全体の国立病院を2つのグループに分けて、民営化が始まった。シンガポール国立大学病院が所属するのはナショナルヘルスグループで、このグループには1000床を誇るタントクセン病院や、メンタル専門病院、最後に民営化された旧軍人病院のアレキサンドラ病院が属する。

シンガポール国立大学病院は952ベッド、6つのICU、15のオペ室を持つ巨大病院である。スタッフも総計で3670人、医師は523人、看護師は1600人である。

研究もさることながら、マネジメントについても特筆すべきことが多い。たとえば、BSCやISO、シンガポール品質クラブといった章を獲得し、医療機能評価の国際版であるJCIの認定も受けている。
○アレキサンドラ病院

シンガポール西部に位置するアレキサンドラ病院(Alexandra Hospital)は、英国軍の極東における基幹病院として1938年に開設され、1971年に英国軍が引き上げた際、アレキサンドラ病院と命名され一般市民に開放された。現在は一般及び急性期患者を対象とした400床、スタッフ数が1,020人(医師117人、看護師373人、経営管理その他378人)の病院(Exhibit-1)で、緑と青色の美しいコロニアル調で統一されたホテル並みの建物、手入れの行き届いた美しい庭園を持ち、いわゆる公的なイメージを連想させない。

もちろん、NUHに比すれば規模は小さく、医師は100名強、総スタッフは1000名強である。しかしながら、BSCやISO、シンガポール品質クラブといった章等は、NUHと同等のものを取得している。
○まとめ

シンガポールは国土が小さいので、医療を産業として展開し、海外からの患者を招聘している。病院の民営化は成功し、国際競争力もある。

次回は、シンガポールの介護施設、韓国の病院について考えたい。

 

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