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臨時 vol 67 「報道されない臨床試験 ―新聞の限界とオンラインメディアへの期待」

医療ガバナンス学会 (2009年3月27日 14:02)


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東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
客員研究員
成松宏人



筆者らの研究グループはこれまで、主要新聞における臨床試験の報道実態につ
いて調査を進めてきました。その調査結果が3月16日、Journal of Clinical
Oncology 誌 (電子版)に掲載されました。本稿では、この研究の紹介をさせても
らいながら、これからのメディアと臨床研究の関係について考えていきたいと思
います。


【 臨床試験の結果は市民みんなの財産 】

臨床試験は医学の進歩に必須です。すなわち、新しい薬剤や治療法を開発する
ためには、同意を得た上で実際に患者さんそれらを使用し、その有効性と安全性
を検証しなければなりません。もちろん臨床試験の結果は、最終的には社会に還
元されることが目標です。

しかしながら、臨床試験の結果は医学専門誌に掲載されるだけのことがほとん
どで、一般市民の目に触れることはあまりありません。その結果、一般市民が、
臨床試験の結果を読みこなして理解するのは極めて難しいのが現実です。そこで、
市民に臨床試験について伝えるために重要な役割を果たすのが新聞などのマスメ
ディアです。


【 臨床試験とマスメディア報道 】

ただ、臨床試験について、どの様な報道がマスメディアでなされているか、そ
の実態について明らかにした研究はこれまでありませんでした。そこで筆者らの
研究グループが主要新聞における臨床試験に関する報道の実態を調査し、結果、
今回の Journal of Clinical Oncology 誌 (電子版)掲載に至りました。

Journal of Clinical Oncology 誌は世界のがん医療研究者に最も読まれてい
る学術誌の一つです。そこに掲載されたということは、臨床試験と社会をつなぐ
媒体としてのマスメディアの役割について、世界の研究者が注目しはじめている
ことを示しています。


【 5大新聞の15年間分を調査 】

筆者らは、最近15 年間に主要5大新聞(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経
新聞、日経新聞)に掲載された臨床試験に関連する記事数や内容を調べました。
調査のために使用したのは日経テレコン21という、会員制のデータベースです
http://t21.nikkei.co.jp/g3/CMN0F11.do)。これは、有料コンテンツを含む
ウェブサイトですが、いろいろな過去から現在にわたっての新聞報道の検索が簡
単にできるという優れものです。


【 新聞で臨床試験はどれくらい取り上げられているか? 】

臨床試験についての報道は1日あたり2-3件ほどですが、これはこの15年間、
ほとんど増えていないことが分かりました。近年、市民の医療への関心が高まっ
ているため、筆者たちは新聞報道も増えていると予想していましたので、意外な
結果でした。多くの市民は新聞から医療に関する情報を入手することを考えると
臨床試験に関する理解は、それほど深まっていないということが言えそうです。

ちなみに、日経新聞だけは臨床試験関連の記事の比率が増加していました。製
薬企業などの医療関連ビジネスを我が国の成長分野と見なし、臨床試験を製薬産
業の投資や業績という視点から報道したためです。


【 それでも事件がおこれば扱いは増える 】

臨床試験関連の記事が一時期だけ、突出して増えていた時期があります。1994
年と1996年です。いずれの年も、薬害エイズ事件、薬害ヤコブ病事件、ソリブジ
ン治験に関する不祥事が明らかになり、これらが取り上げられた結果でした。

そもそもマスメディアは事件や新しいこと(ニュース)を好んで取り扱います
が、臨床試験についても同じことがいえることが分かりました。主要新聞が、臨
床試験について薬害事件や不祥事との関連で報道することは、臨床試験に関し一
面的な(この場合は悪い)イメージしか理解されないことにつながる可能性があ
ります。そして実際、多くの新聞報道が製薬企業の業績や薬害事件など不祥事に
重点をおき、臨床試験そのものについて十分な情報を提供していないことも、調
査によって明らかになりました。


【 専門家と市民の間のミゾをうめるものは? 】

多くの新聞報道が臨床試験について十分な情報提供を行わないのは、新聞が多
くの読者を抱え、扱う範囲も広いため、臨床試験に割ける紙面に限界があるある
からではないかと考えます。紙面が限られている以上、どうしてもセンセーショ
ナルな情報を伝えることが優先されるのでしょう。

では、臨床試験についてよりよく市民に知ってもらうためにはどのようにすれ
ばいいでしょうか。筆者らは新しいジャンルであるオンラインメディアに注目し
ています。たとえば、この原稿が配信されているMRICや日経メディカルオンライ
ン、もしくは、個人個人が自由に情報発信できるブログです。

オンラインメディアは読者の数は新聞一般誌には遠く及びませんが、いろいろ
な角度から、詳細に、臨床試験制度やその結果について発信することができます。
ブログを使えば、誰でも自由に臨床試験について発信したり議論をしたりするこ
とができます。

新しいメディアがそれぞれの角度で取り上げることで、まず、比較的関心のあ
る層が臨床試験の結果について知り、議論が盛り上がることが期待されます。そ
れによってアイデアが次々に出され、その内容が今後の臨床試験にフィードバッ
クされる――そんな将来像を筆者は描いているのです。

今後、私たちの研究グループは、オンラインメディアやブログにおける医療報
道について研究したいと考えています。ご興味のある方は、是非、一緒にやりま
せんか?連絡先はexp-office@umin.netです。お待ちしています。


● 研究の詳細は・・・・

今回ご紹介した研究の詳細は以下ご参照下さい。

Takita M, Narimatsu H, Matsumuira T, et al: Study of Newspaper Reports
Regarding Clinical Trials in Japan. J Clin Oncol, 2009
http://jco.ascopubs.org/cgi/reprint/JCO.2008.21.3967v1

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