臨時 vol 68 「医の中の蛙」2 医療リテラシー
前回に引き続き、「医の中の蛙」では、”蛙でも納得”のやさしい医療の話をお伝えしていきたいと思います。ちなみに「医の中の蛙」とは、医者の世界が狭い(=「大海を知らず」)ということを揶揄した私の造語です。医者も大海、すなわち一般社会に出ようといろいろ頑張ってますよ!という気持ちを、せめてタイトルに込めてみたというわけです。さて今回は、「医療リテラシー」に関する活動について。医療リテラシーとは、医療情報を理解し、それを使って、自身の健康とケアの良い意志決定をするための能力のことです。例えば魚屋でおいしい魚を買うには、眼(め)が透き通っていて黒いのが良いなど、魚の良しあしを判定する知識がないといけません。医療も同じで、良い医療を受けるためには、ある程度の医療リテラシーが必要です。とはいえ知識には限界がありますから、知らないこともたくさんあるでしょう。そういうときは、どうすれば良いのでしょうか? これが魚でしたら、魚屋さんに聞けば良いのです。そのためには、普段から頼れる魚屋さんを見つけ、良好なコミュニケーションをとっておく必要があります。医療でも同じこと。まずは、何でも聞けて頼りになる、かかりつけ医を持つということでしょうか。ところが、それだけでは足りないことがあります。かかりつけの医師にベストの治療を受けているのに、「大病院に行けばもっと良い治療法があったかも知れない」などと考えてしまうのです。これは医療リテラシーがないせいで、良い治療を受けても結果に満足できないという状況です。これは、患者さんと医療者、双方にとって、とても不幸なことです。果ては医療不信につながります。われわれが、医療リテラシーの普及が必要だと痛切に感じた具体的な事例があります。2005年のNHKスペシャル「日本のがん医療を問う」で、オキサリプラチンという抗がん剤が特効薬であるかのような取り上げ方をされ、医師の間では大きな議論を呼びました。また、放映直後からオキサリプラチンの使用量が急激に増えるという現象が起きました。抗がん剤ですから、誰に使っても一様に効くものではありません。逆に、効果が見られず、副作用だけ出る可能性が高いのです。この事例を通して、われわれは、正しい医療情報や医療者の思いを、自らの手で発信する必要があることを痛感しました。そうは言うものの、情報を発信するのは容易なことではありません。われわれが重要だと思っていても、メディア側が重要性に気付いてくれない限り、情報発信の機会は得られません。私たちは幸い、同じ問題意識を持っていた元朝日新聞記者の川口恭さんの協力を得ることができました。こうして創刊されたのが『ロハス・メディカル』誌です。われわれ医師のグループが編集に携わるかたちで、川口さんが創刊しました。「治りたい」と「治したい」を近づけるフリーペーパーとして、毎月20に地に発行され、病院の待合に設置されています(www.lohasmedical.jp)。去る10月には、発行3年目を迎えました。医療者の本音が書いてありますので、辛口に感じる方もおられるかも知れませんが、難解になりがちな内容をわかりやすく伝えるよう工夫しています。このような活動を通じて、皆さんの医療リテラシー向上のお役に立てればと思っています。ぜひ一度『ロハス・メディカル』をご覧になり、納得のいく医療をお受けになってください。くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」開設。※今回の記事は、2008年9月22日に新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです
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