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臨時 vol 68 「医の中の蛙」2 医療リテラシー

医療ガバナンス学会 (2009年3月30日 14:01)


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久住英二

前回に引き続き、「医の中の蛙」では、”蛙でも納得”のやさしい医療の話を
お伝えしていきたいと思います。ちなみに「医の中の蛙」とは、医者の世界が狭
い(=「大海を知らず」)ということを揶揄した私の造語です。医者も大海、す
なわち一般社会に出ようといろいろ頑張ってますよ!という気持ちを、せめてタ
イトルに込めてみたというわけです。

さて今回は、「医療リテラシー」に関する活動について。医療リテラシーとは、
医療情報を理解し、それを使って、自身の健康とケアの良い意志決定をするため
の能力のことです。

例えば魚屋でおいしい魚を買うには、眼(め)が透き通っていて黒いのが良い
など、魚の良しあしを判定する知識がないといけません。医療も同じで、良い医
療を受けるためには、ある程度の医療リテラシーが必要です。

とはいえ知識には限界がありますから、知らないこともたくさんあるでしょう。
そういうときは、どうすれば良いのでしょうか? 

これが魚でしたら、魚屋さんに聞けば良いのです。そのためには、普段から頼
れる魚屋さんを見つけ、良好なコミュニケーションをとっておく必要があります。

医療でも同じこと。まずは、何でも聞けて頼りになる、かかりつけ医を持つと
いうことでしょうか。

ところが、それだけでは足りないことがあります。かかりつけの医師にベスト
の治療を受けているのに、「大病院に行けばもっと良い治療法があったかも知れ
ない」などと考えてしまうのです。これは医療リテラシーがないせいで、良い治
療を受けても結果に満足できないという状況です。これは、患者さんと医療者、
双方にとって、とても不幸なことです。果ては医療不信につながります。

われわれが、医療リテラシーの普及が必要だと痛切に感じた具体的な事例があ
ります。2005年のNHKスペシャル「日本のがん医療を問う」で、オキサリプラ
チンという抗がん剤が特効薬であるかのような取り上げ方をされ、医師の間では
大きな議論を呼びました。また、放映直後からオキサリプラチンの使用量が急激
に増えるという現象が起きました。抗がん剤ですから、誰に使っても一様に効く
ものではありません。逆に、効果が見られず、副作用だけ出る可能性が高いので
す。

この事例を通して、われわれは、正しい医療情報や医療者の思いを、自らの手
で発信する必要があることを痛感しました。

そうは言うものの、情報を発信するのは容易なことではありません。われわれ
が重要だと思っていても、メディア側が重要性に気付いてくれない限り、情報発
信の機会は得られません。私たちは幸い、同じ問題意識を持っていた元朝日新聞
記者の川口恭さんの協力を得ることができました。

こうして創刊されたのが『ロハス・メディカル』誌です。われわれ医師のグルー
プが編集に携わるかたちで、川口さんが創刊しました。「治りたい」と「治した
い」を近づけるフリーペーパーとして、毎月20に地に発行され、病院の待合に設
置されています(www.lohasmedical.jp)。去る10月には、発行3年目を迎えまし
た。医療者の本音が書いてありますので、辛口に感じる方もおられるかも知れま
せんが、難解になりがちな内容をわかりやすく伝えるよう工夫しています。この
ような活動を通じて、皆さんの医療リテラシー向上のお役に立てればと思ってい
ます。ぜひ一度『ロハス・メディカル』をご覧になり、納得のいく医療をお受け
になってください。

くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業、国家
公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。2006年から
東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」開設。

※今回の記事は、2008年9月22日に新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。
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