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臨時 vol 193 「医の中の蛙 12」

医療ガバナンス学会 (2009年8月17日 12:15)


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          「慢性骨髄性白血病とグリベック」
                              久住英二

 衆議院が解散し、もうすぐ選挙です。近々、各政党のマニフェストが発表され
ると思います。ぜひ今回の選挙では、医療政策に注目してください。ソネット・
エムスリー社による医師を対象にしたアンケート調査では、「民主党に追い風が
吹く」と考える人が87・6%との結果が出ています。皆さんは、どのようにお
考えになるでしょうか。
 さて、今回の本題です。皆さんは慢性骨髄性白血病という病気をご存じでしょ
うか。1年あたり10万人に1人が発病するまれな疾患です。かつては「不治の
病」とされ、骨髄移植だけが根治的な治療方法でした。ところが、1999年に
グリベックという薬が出現し、治療法が大きく変わりました。この薬さえ内服し
ていれば長期にわたって病気が抑えられるようになったのです。おかげで、患者
さんは移植という危険な治療を受ける必要がなくなり、薬さえ服用すれば通常の
社会生活が送れるようになったのです。
 しかし、良い面ばかりではありませんでした。この薬は、1年間の薬代が45
0万円ほどかかるのです。健康保険、高額療養費返還制度、長期処方を併用して
も、年間18万円ほどの費用が生きている限りかかります。そのため、若い患者
さんでは、経済的理由で親元を離れられない、結婚できないなどの問題が生じて
います。年金生活の患者さんでは、負担に耐えきれません。調査してみると、7
5%の方が医療費の支払いに負担を感じており、3人に1人は内服中止を考えた
ことがあるという結果が得られました(http://ptsupport.j
p/cmlresult)。
 日本には、治癒が困難で、治療に伴う経済的負担が大きい特定の疾病に対し、
治療費の補助が受けられる制度があります。中でも人工透析、血友病、エイズは
「高額長期疾病(特定疾病)にかかる高額医療費の支給の特例」とされ、毎月の
医療費自己負担の上限が1万円となっています。
 今回、慢性骨髄性白血病の特例入りを目指して、患者さんたちが署名を集め、
舛添要一厚生労働大臣に手渡しました(詳しいリポートはウェブ上で「ロハス・
メディカル」ニュースにも掲載されています)。何ら罪のない患者さんが、降っ
てわいたような病気に肉体的にも経済的にも苦しめられ、人生を全うできないの
は、とても不幸なことだと思います。医師として、何とかしてあげたいと常々感
じていました。患者さんたちが自ら行動し始めたことを非常に頼もしく感じ、応
援していきたいと思っています。
 ちなみに、グリベックを公費負担することで発生する費用は15億円程度と予
想されます。日本が導入を希望しているF22戦闘機1台で、10年間の費用が
まかなえる計算になります。国民が幸せになれるのはどちらの選択肢でしょうか。
くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。
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