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臨時 vol 63 「医療界でも「かんぽの宿」騒動が勃発?」

医療ガバナンス学会 (2009年3月23日 14:06)


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武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)
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●医療界でも「かんぽの宿」騒動が勃発?

日本郵政による「かんぽの宿」のオリックス不動産への一括譲渡が白紙に戻り
ました。

日本郵政は、「かんぽの宿」70施設と首都圏の社宅9カ所の計79施設を約109億
円でオリックス不動産に一括譲渡する契約を結んでいました。ところが、この契
約を解約することで合意したと、2月16日に正式に発表したのです。

この売却騒動において、当初、鳩山邦夫総務相は「入札の経緯が不透明」だと
して精査を指示していたようです。しかし、譲渡契約の白紙撤回直前からは、
「価格が安すぎる」という部分を強調した発言が多くなりました。

そして譲渡契約が撤回され、入札資料が提出された後の2月17日には、「客室
稼働率が70%を超えているのに赤字になるのは普通は考えられない。まず黒字化
の努力をすべきだ」と述べました。

鳩山邦夫大臣の発言を整理してみると、(1)「入札が不透明なので譲渡を認
めない」、(2)「価格が安すぎるので入札過程を開示しろ」、(3)「黒字化の
努力をしろ」ということになります。発言の趣旨が微妙にずれてきているのは気
になりますが、理屈としては全くその通りなのでしょう。


●すぐそこに迫ってきている病院の売却問題

さて、医療業界でも、かんぽの宿売却に匹敵するくらいの大きな整理・売却案
件が進められていることをご存知でしょうか。

それは、社会保険庁管轄下にあり、来年9月に解散予定の時限的な行政法人
「年金・健康保険福祉施設整理機構」が保有している全国計63カ所の「社会保険
病院」と「厚生年金病院」の整理・売却です。

この整理・売却に、鳩山大臣の発言を当てはめてみましょう。かんぽの宿売却
に向けた批判はやはり当てはまるでしょうか。


●売却基準を透明に

まず「入札の経緯が不透明」という点から考えてみましょう。社会保険病院と
厚生年金病院の売却では、入札が行われるわけではありません。ここで問題とな
るのは、売却先の対象や売却基準です。

売却先の対象は、確かに不透明感があります。社会保険庁によれば、「売却先
は医療法人、地方自治体、公益性のある法人に限定」するそうです。ただし、
「限定」と言っても、「公益性のある法人」となると、大部分の上場企業が対象
になるでしょう。

また、「医療法人」ということになると、実際は医療法人でない病院はほとん
どありません。極端な話、クリニックの多くも医療法人ですので、私のクリニッ
クでもかまわないということになります。そういう意味で、売却の対象がはっき
り絞られていないと思いました。

売却基準の透明化も求められます。公的機関から民間へ売却される際には、売
却基準がはっきりしていないと後からいろいろな問題が起きてきます。例えば、
買って大変な思いをして改革し、うまくいった際に、「癒着による出来レースで
有利な条件で購入して、不当な利益を得た」という批判を受けることもあるので
す。実際にJTが国際医療福祉大学へ売却した病院(国際医療福祉大学三田病院)
では、そのような批判が起きました。

必死で頑張る人たちが後から文句を言われないように、不透明だという批判が
出ないような売却基準を設けてほしいと思います。


●今まで黒字化を阻んでいたものとは

次の、「価格が安すぎる」についてです。

病院の売却価格が安すぎると批判を浴びることは十分に予測できます。しかし、
更地にして土地として売るわけでも、ホテルや療養施設などに転用するのもダメ
なのであれば、不動産鑑定価格と比較するのは、ちょっと違う感じがします。

それに、医療機器の場合、たとえどんなに高価な機種でも、数年もたてばタダ
同然となり、逆に廃棄するのに何百万円もかかる場合も決して珍しくありません

私が専門とする内視鏡機器は中古市場がしっかりあるのでまだいい方ですが、
それでも6年前の機種であれば、オーバーホールした状態で2割程度の値段で販売
されています。6年経過してしまったら、1割程度の金額で売却できれば御の字と
いうことです。

なので、「これまでつぎ込んだ金額に対して売却金額が低すぎる」という批判
があったら、私は「それはちょっと違うのではないか」と言いたくなることでしょ
う。

そして、「黒字化の努力をしろ」と言われた場合はどうでしょうか。

国立がんセンターで問題になったように、「準公務員」という枠組の場合では、
ちょっとした人員配置や勤務時間の変更すら簡単には進めることができません。
天下りの職員の受け入れや、補助金カットをちらつかせた抵抗があるからです。

もちろん補助金が出ている以上はなんらかの縛りが必要なのでしょうが、そう
いう枠組みの中で改革しようとしても思い切った手が打てず、にっちにもさっち
にもいかなくなってしまった。だから、いったん整理売却し、枠組みを変えて再
建しようというのが改革の出発点でした。

だから病院を購入した医療法人や地方自治体は、そうした縛りがない状態で、
当然、黒字化に向けて様々な手を打つことになるでしょう。


●赤字と黒字病院の抱き合わせ売却はやめてほしい

最後に、私が今回の整理・売却方法について非常に気になっている点を1つ挙
げたいと思います。

報道によれば、社会保険庁は「個別の売却を基本とするが、複数の病院を一括
売却することも検討する」そうです。

赤字病院でつらい思いをした勤務経験のある私としては、赤字を解消しようと
死ぬ思いで努力をして黒字化を達成した病院と、できなかった病院とを、最終段
階でまとめて処理されてしまうのが、現場の努力を評価していないようで、歯が
ゆい感じがするのです。

消えた年金記録のように5000万件もあるわけではありません。合計で63カ所な
のですから、「売れないから赤字と黒字の施設を抱き合わせて一括売却」とする
のではなく、一つひとつの病院の売却を個別に真剣に考えてほしいと願います。
抱き合わせ売却は、問題を解決しようと向き合わずに先送りするような気がして
なりません。

もちろんそうすることによって、整理・売却に関わる人たちにのしかかる仕事
が増えてしまうのは分かります。それでも、そのくらいの労力を費やしてもいい
くらい、社会保険病院と厚生年金病院は、どの地域においてもこれまで中核病院
として大きな役割を果たしてきたものばかりだと思うのです。

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