医療制度研究会では、前回参議院選挙より、医療に関するマニフェストを各政党
本部に持参し回答をいただく活動を行っています。今回の衆議院選挙は医療が大き
な争点の一つですが、各政党間のマニフェストには大きな差がなく、少し踏み込
んで見るつもりで項目を多くさせていただきました。各政党とも真摯に解答をいた
だき、医療の考え方の違いが少し見えたと思います。正解がないことを前提に比較
をお届けします。
■ 社会保障および医療の現状認識について
各政党ともに医療の優先度は高く、ひところの常識であった、社会保障は経済成
長にはマイナス要因、と考えている党はありませんでした。
■ 財源確保について
「消費税率アップ」を主な財源とする自民・公明と、「公共投資の無駄削減」で賄
おうとする民主・社民・共産が対立する構造になっています。消費税派の自民・公
明の間でも多少の違いがあり、自民は対案である公共投資の無駄削減を否定し、公
明党は両方とも推進する考えとなっています。
上記二つ以外の財源確保として、「所得税率のアップ」、「企業増税」、「保険
料率のアップ」が考えられますが、これにはまた別な反応が見られます。自民、公
明、民主はこれらの財源調達の考えがないと回答しているのに対し、社民、共産
は必要性を強く考えているようです。
■ 人材確保について
人材確保の必要性は各政党とも強く認識していますが、具体的な内容は多少変り
ます。外国人に頼る考えは自民、公明、共産が”中”の回答で、民主、社民は否定
的。ナースプラクティショナーなどの新職種を認可し養成する考えは、民主、公明、
社民が積極的で、自民、共産はやや消極的。
人材確保に有効と考えられる看護師・介護士の教育無料化は、自民、民主、公明
が否定的で、社民は中程度で、共産が積極的という回答でした。
■ 療養病床政策について
療養病床削減の撤回を求めているのは、民主、社民、共産で、自民と公明は撤回
しないで他の対策で補完するとしています。療養病床を削減してはならないとして
いるのは民主、社民、共産で、自民、公明は中間の意見です。介護施設は全ての政
党が強く重要性を考えています。
■ 在宅医療について
在宅診療の推進には自民、公明が積極的で、社民、民主、共産の順序で、熱がさ
めますが、否定する党はありません。
■ 医療・看護・介護費について
医療費の自然増を確保した上で増額を認めるのは全政党の考えです。経済成長に
合わせて増減という考えは全ての政党が否定しています。
総額を出来るだけ抑えてその中の配分で調整するという考えは、公明党が”中”
と回答し、他の党は”否”と回答しています。
訪問看護師の報酬の引き上げは、民主党が検討中、他は強く考えているとの答え
です。介護の報酬引き上げは全ての政党が賛成しています。
■ 患者の自己負担について
ほとんどの政党は自己負担を軽減する考えで一致し、自己負担をゼロにする考え
に対して、社民は中程度、共産は強く考えるとしていますが、自民、公明、民主
は否定しています。
■ 医療財源の確保について
自民党は消費税を含む税制抜本改革で議論しなおすとしており、はっきりした回
答がありませんでしたが、その他の党は、国債発行、公共事業見直し、特別会計埋
蔵金を財源とするという考えが共通認識です。
注目すべきは、”医療費の無駄を削減することで賄う考えは?”という問
いに、全ての党が中程度考えると答えていることです。共産党が詳しいコメントを
つけており、費用の増大を認めるが、医療側も「高薬価」、「高額医療機器」など
医療保険財政の無駄を正す改革が必要としています。
■ 将来目標とする国家像について
「高福祉高負担」を目指すことについて、否定をしたのは自民と公明で、公明はコ
メントで、経済成長を持続し、個人の自立を残した「中福祉中負担」を目指すと
しています。民主、共産は中くらいで、「自律自助、自己責任」から「応能負担」
へという路線変更したというのが認識です。「高福祉高負担」を強く目指すとした
のは社民でした。
■ その他
1)病人権利の擁護の重要性について
自民は”中”、民主は病人権利とは何か?と質問が帰ってきました。他の党は強
く重要性を認識するという回答でした。
2)医療安全調査委員会設置法案について
公明は強く成立を望み、自民と共産が”中”の回答で、共産は政府案を基に第三
者委員会の設置を求める考えで、民主は独自案を提出中、社民は成立を望まないと
の回答でした。
■ おわりに
政党は大きな政策変更をうたっていますが、厚生労働省の意見を確かめたくなり
ます。選挙の結果これら政党の方針が国の方針となりますが、厚労省の一言で全部
ひっくり返ってしまうことのないように願っています。