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Vol.110 日本の将来を救う福島県浜通りの高齢化対策 ~大きな実を結び始めた大震災後の様々な取り組み~

医療ガバナンス学会 (2015年6月5日 06:00)


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相馬中央病院
森田知宏

2015年6月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


日本の高齢化率(総人口に占める65才以上の人口の割合)が25%を超えた。人類が経験したことがない超高齢社会に突入したと言っていい。
特に深刻なのは東北地方だ。中でも福島県浜通り地方は、2011年の福島第一原子力発電所の事故後に若年層が避難したため、高齢化が急速に進んだ。その結果、南相馬市の高齢化率は震災前の25.9%から33.2%に上昇した。

これは予想されている2040年の東京の高齢化率(33.5%)と同レベルだ。東北地方は東京の将来を映す鏡であるという見方もできる。実に多くの学ぶべき点がある。
急激な高齢化は社会に様々な問題をもたらした。特に深刻なのは高齢者の社会的孤立、そして孤独死だ。仮設住宅を中心に、死後1週間以上経ってから見つかる例が後を絶たない。
福島民報の取材では、福島県内の仮設住宅で孤独死したとされる数は、2014年3月31日時点で計34人に上るという。

◆高齢化先行地区としての貴重な経験

これは福島だけの問題ではない。早晩、全国でも問題となるだろう。高齢化とともに独居高齢者も増加しているからだ。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2035年には2010年(498万人)に比べて50%増加(762万人)するという。特に増加率が高いのは東京圏(71.0%)や宮城県(74.7%)などの東日本や沖縄県(92.3%)だ。高齢化先行地域として福島県浜通りの経験は参考になるかもしれない。
私は昨年から福島県浜通り地方の相馬市にある相馬中央病院で勤務している。東日本大震災を機に、医学生、研修医として何度か浜通りに来ており、現在は内科医として、浜通りの高齢化に危機感を覚えている立場だ。
福島県相馬市では、高齢の被災者のために「井戸端長屋」(以下「長屋」)と呼ばれる集合住宅を造成した。これは東日本大震災で家を失った高齢者のために建設された復興住宅だ。
設計図は震災の翌月から作成されており、1号棟は震災から約1年後の2012年5月に竣工した。現在は5棟58戸が建設され、57人が入居している。そのうち52人が高齢者、38人が一人暮らしだ。
介護保険で「要介護」と認定されたのは12人に上る。この集合住宅は、孤独死対策で重要な役割を担っている。

http://expres.umin.jp/mric/nagaya.pdf

「長屋」には様々な支援が提供されている。例えば、NPOによる昼食の配食サービスや、地元スーパーマーケットの移動店舗バスなど。しかしながら、その最大の特徴は、住民同士の支え合いだ。
高齢者向けの住宅として、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が知られている。これは高齢者向けの安否確認サービスなどが提供されるバリアフリーの住宅だが、住民同士のコミュニティについてあまり考慮されていない。
利益至上主義の業者は、併設する介護サービスの利用者を囲い込むためにサ高住を利用している。国土交通省の発表(2015年1月22日)では、全国のサ高住のうち35%で、運営事業者や提携事業者が入居者の介護サービスを独占していた。
なかには、介護サービス料の高い重度の要介護度の入居者しか受け入れないところもあるという。このような場所では、住民同士の支え合いなど望むべくもない。

◆近所づき合いから支え合いに発展

一方「長屋」では、部屋の中央には共同の食堂があり、昼食の弁当はそこで配られる。さらに、洗濯機も共同スペースにある。このように、日常生活の中で自然と顔を合わせる機会が生じる仕かけがある。そこで生まれた近所づき合いから、支え合いに発展する例もある。

例えば、車いすに座った85歳女性が介護施設へ通うバスに乗り込むのを、隣に住む元気な80歳女性が押していたり、63歳の女性が昼食時に「お漬物どうぞ」と自分で作ったおかずを持って来たりする。
住民の中に「まあここは何かあってもみんながいるから」と口にする方は多い。緊急時に誰かが気づいてくれるという安心感につながっている。

「長屋」は高齢者の所得問題の点でも重要な役割を担っている。「長屋」の家賃は入居者の収入などに応じて定められ、月額1万円程度で済む場合もある。
要介護2と認定されて、訪問看護などの介護サービスを導入したいが、1割の自己負担料金でさえも「高くて払えない」という住民もいる。そういった住民は、近所の住民に支えられながら何とか暮らしている。

今後、介護費用を捻出できない高齢者は日本全国で続出する。現在は、高齢者世帯の平均年収は309万円であり、世帯人員1人あたりでは194万円と、全世帯平均の204万円とほとんど差がない(平成25年国民生活基礎調査)。
しかし、彼らの収入の多くが公的年金や恩給である。公的年金・恩給を受給している68.5%の世帯のうち、公的年金・恩給が総所得の80%以上を占める世帯は69.7%である。つまり、全体の47.7%が、公的年金に依存している。

財政難に悩む我が国は、早晩、公的年金の支給年齢が上昇し、給付額は減るだろう。現に、2015年4月から導入されたマクロ経済スライド制度により、年金が実質目減りすることが決まった。
これが続くと、要介護状態になり誰かの支えを必要としても、行き場がない高齢者が続出するだろう。

◆東京で問題となった高齢者の拘束

東京都北区で高齢者を拘束していて問題となった高齢者向けマンションなどもこの問題の裏返しだ。相馬市の「長屋」はこういった高齢者の受け皿としても機能するかもしれない。
「長屋」が整備できたのは相馬市特有の事情もある。まず、相馬市は震災前から孤独死対策に力を入れていた。独居高齢者の自宅へ声かけ訪問を行っているNPO「ライフネットそうま」は2003年に設立され、震災後も仮設住宅で見回り活動や配食サービスなどで活躍している。
さらに、「長屋」は復興住宅であるため移住へのハードルが低い。津波で自宅を失った市民への復興住宅として計画されたため、58戸という大規模な集合住宅を一度に建設できた。
高齢者は元から住んでいる家を離れることに心理的抵抗が強い。このことを経験したのが群馬県上野村である。ここは、1989年から高齢者の集合住宅「いこいの里」を運営している。診療所や福祉センターと連絡通路でつながっている独創的なものだ。
今では18世帯の高齢者が住み、発展を続けている。しかし設立当初は、移住したくない高齢者からの理解は得られず入居希望も増えなかった。
数年に及ぶ自治体職員の啓蒙活動の甲斐あってこそ、現在の形ができている。他の地域で高齢者の集合住宅を作っても、入居者が増えるまでには時間がかかるだろう。

また、歴史の長さも無視できない。相馬市は鎌倉時代から続く相馬家の城下町であり、「野馬追い」などの伝統的な行事が盛んな地域である。500年以上にわたってコミュニティが形成されてきたと言っても過言ではない。
自然、住民同士の結びつきは強く、助け合いもできやすい。首都圏近郊のベッドタウンのように1970年代頃から開発された地域は、住民の助け合いがどこまで実現できるのか不明だ。
このように、相馬の「長屋」は、超高齢社会の中で孤独を防ぐ対策として参考になる。ただ、課題も多い。まず、住民同士の交流が自然に生まれるとは限らない。現時点でも棟によって交流の度合いは異なる。
昼食を食堂で揃って食べる棟もあれば、食堂ではみんなお茶を飲むだけで、昼食は部屋に持って帰って食べる棟もある。例えば、イベントなど、昼食以外に交流を促す方策も重要である。現在も保健師が回って体操をする、歌を歌うなどのイベントが行われている。

◆互いを知り、認め合うようになった住民

さらに、プライバシー問題は避けられない。郵便受けにあった郵便物を部屋に届けたら「勝手にするなと怒鳴られた」という話も聞いた。「死ぬときには静かに死にたいから放っておいてほしい」という住民もいる。
もちろん個人の権利は尊重すべきだ。しかし、遺体は速やかに発見されるべきだし、異変を感じたときの安否確認くらいは許されるはずだ。バランスが難しい問題だ。
とは言え、住民同士が慣れた後はお互いの許容範囲を理解できるので問題は少ないだろう。実際、1年以上「長屋」に住む80代女性などは、「あの人はあんまり言うと怒るからそっとしとく」、「あの人は危なっかしいから見てないとダメよ」など、他の住民についてよく把握している。
さらに、住民同士の交流に入りづらい住民への対策も必要だ。特に男性は住民との交流に積極的でない場合が多く、取り残される危険が高い。住民の交流を、ボランティアの戸別訪問などで補完することが重要だ。

「長屋」は2012年から入居が開始されたばかりで、まだ試行錯誤の段階である。しかし、この5棟の集合住宅が日本、世界の高齢化社会に対して持つ意義は大きい。相馬市で勤務する医師として、超高齢社会に生きる医師として、私はその成果を見届けたい。

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