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Vol.115 デザイナの力

医療ガバナンス学会 (2015年6月12日 06:00)


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グラフィックデザイナ
山本百合子

2015年6月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


デザインには単純にモノをきれいに見せるというだけでなく、確固たる力があります。
デザインを日本語に訳すと「意匠」。「意志」を匠むことでしょうか。
デザインの力で医療に対して何ができるか、考えてみたいと思います。
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何年か前、或る行政関係の人と話していて「自殺を減らすポスターを作りたいんだけれど」と言われたことがある。聞くと、予算がいくらついて、できるだけいろんな所に貼れるように、考えているとのこと。どういうものが良いかということだった。おそらくその手のデザイン事務所かどこかに依頼して、予算に応じて俳優を使い、それらしいポスターに仕上げたのだろう。

でも、こんなことで、本当に自殺が減らせるのだろうか。ポスターを見て、そこに「自殺しないで」と書かれていたとして、それによって思いとどまる人がどれほどいるか。ポスターが無力だとは言わないが、デザインとはそんなものじゃない。そこが分かっていないのではと思った。
そもそも、「ポスターを作る」という依頼をデザイナにするという時点で、もうデザインは終わってしまっていると言える。デザイナでは無い人が、デザイナを使わずにデザインを終わらせてしまっているのだ。本当のデザイナの使い方を分かっていない。

では、本当にデザイナを使うには、どうしたら良いのか。

私だったら、どう「自殺防止」をデザインするか。
いささか妄想的に書いてみたい。

◆デザイナの使い方
先ず、デザインで最も重要なことは、「目的をはっきりさせる」ということだ。この場合むろん、「ポスターを作る」が目的ではない。「自殺を減らす」ということだ。
では、どう、自殺が減らせるだろうか。漠然と自殺は誰もしなくなるようにする。などというのは無理。10代の女性から80代のおじいさんまで、皆が自殺を思いとどまるような方策は誰にも作れないと言って良い。人は皆違う。細かくグループに分けて、その人にあった訴求をしなければ効果がない。二兎も三兎も一度に追っては皆に逃げられてしまう。一兎ずつ、ターゲットを絞る事。これが、デザインの基本。
では、どう、ターゲットを絞るか。
以下は一つの例として。

多くが知る通り、50代の男性の自殺率は高い。内閣府の平成26年版自殺対策白書でも、ここ数年減ってはいるものの、一番大きな塊であることが分かる。

http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2014/pdf/gaiyou/pdf/1-1.pdf

だが、彼らは全自殺者の中で最も「有配偶者」率が高い。家族が力になる!

おそらく、ここまでの分析は、デザイナでなくとも誰でも考えているだろう。が、ここからが、デザインの力だ。

◆デザイナ的アイデア
50代男性で家族がいる。何かで悩んでいる。仕事、もしくは健康問題、家族の軋轢かもしれない。そんな人がポスターや冊子を見て自殺を思いとどまるだろうか。否、そんな簡単なものなら、自殺なんてしないだろう。彼らへの答えはポスターでは無い。
家族の力を借りる為にはどうしたら良いだろうか。妻か娘、もしくは息子に声をかけてもらう、「パパ、元気出して。」と。だが、そんな言葉、テレビドラマで無いかぎりありえない。そんなコミュニケーションが無いからこそ、追い込まれていくのだ。どう、話しかけたら良いか分からない。言葉が見つからないのではないか。

デザインは、自殺を思いとどまらせることはできないが、その言葉の形を与えることはできる。
「パパ」に声をかける娘もしくは息子は、50代の場合、中、高校生から20代であろう。彼らに最も繋がっているメディアは、FacebookやLineのようなSNSだ。しかし、こういうのに、国から「パパに声をかけましょう」とメールを送ったとしたら、彼らは見るだろうか。望みは薄いだろう。が、人気の歌手やスイーツ、話題のレストランなどの情報なら、比較的見てくれる。
そこで、デザイナのアイデア。コンビニのスイーツに、娘か妻が「パパ」とコミュニケーションを取るきっかけになるような「仕掛け」を仕込む。
一人で食べるには大きなケーキ。多少、値段は高めだが、話題性のある素材を使う。名前は「Some Day」:いつか。それを「パパ」に帰りにコンビニで買ってきて欲しいと、娘がねだる。Lineには、「パパ」のケイタイに「ケーキを買って来て」と送れるようなクーポンをつけ、それをコンビニで提示すると、割引になる。そこには、シールがついていて、心温まるストーリーが書かれている。
最初の夜は娘に会うこともなく、冷蔵庫に「買って来たよ」と入れておくだけだろう。だけど、何回目かには、一緒に食べようということになるかもしれない。クーポンにはケーキを食べながら「Some Day:いつか」、近い未来を考えさせる仕掛けをする。ケーキを食べながら、「Some Day:いつか」、何をしたいかという約束をし、投稿すると、次のケーキのクーポンがもらえるなどというのも良い。「パパ、いつか、ディズニーランド、行かない?」そういう言葉で、「パパ」は自殺を思いとどまるかもしれない。
こんな仕掛けなら、ほとんど予算はかからないだろう。国は便宜を図る程度で良い。妻向けであれば、おしゃれなカクテル「Some Day」。これにはポスターも良いだろう。スーパーなどにクーポンとともに置いておくこともできる。ポスターには、人生の決断を思いとどまらせる程の力を持たせることはできない。だけどカクテルを買わせることはできるのだ。
息子向けであれば、映画も良いかもしれない。高校生が好みそうなものを「父と」2枚セットで割引するなどはどうだろう。

もちろん、これは単なるアイデアである。が、要するにはじめに「ポスター」有りきではない。ポスターはただのツールにすぎない。全体プランの中で何が必要かということだろう。

◆デザイン料 企画料
ところで、デザインの世界には、「デザイン」と「企画」というのがある。デザイナは、本来上で書いたようなプランニング:企画を含めてデザインという仕事をするのだが、「ポスターのデザイン」のような仕事として来てしまうと、Lineのクーポンやコンビニスイーツのシールのようなアイデアまで逸脱できない。
ところが広告代理店のようなところは、この「企画」から請け負い、「売り上げを20% のばす」というような依頼に対して仕事をする。だから、いろいろなアイデアが生まれ、成果も大きい。個人的には、官と民のパフォーマンスの違いはそこにあると思っている。官にはデザイナはいないだろう。私自身、美大を出てから公務員試験を受けてみようなどということを思いついたことは無かった。なので、本当にお役所がデザイナを採用しているのかどうなのか知らないが、多くのお役所にとって、デザイナというのは縁の無い存在だろう。
なら、アウトソース、代理店に依頼すれば良いのだろうが、おそらくコスト的に難しい。
上の案で、もし「ポスターのデザイン」をデザイン事務所に依頼するなら、せいぜい100万の単位だろう。だが、「企画」として自殺を10%減らすというのを、代理店に頼むと、何千万単位の請求書が来ることになる。企業の場合、これがそのまま売り上げになるので、それを計算の上、利益計画を立てている。だが、この差をお役所が国民に説明するのは難しいはずだ。

ここでは、「お役所」という存在を例にとってみた。この言葉はそのまま「病院」「医療施設」にも当てはまるのではないだろうか。なぜ大きな病院の外来が軽症で溢れるのか。なぜヘンなクレームで忙殺されるのか。意志を匠む力によって、何かできるのではないかと、思う。

みなさま、デザイナにお声をおかけください。

山本百合子
グラフィックデザイナ
多摩美術大学(グラフィックデザイン専修)卒
東京大学大学院総合文化 国際社会科学 修士
日本人間工学会会員
日本ロービジョン学会会員

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