医療ガバナンス学会 (2015年6月15日 06:00)
◆19種類の病気の死亡率を検討
この研究は、死因になりやすい病気を対象として、スクリーニングを行うことで死亡率が下がるかどうかの検証を目的としました。
研究班は米国予防医学専門委員会などの論文データベースから、死因になりやすい19種類の病気についての研究で、ランダム化研究という信頼度の高い種類の研究と、メタアナリシスという複数の論文を統合する研究を集め、その内容を詳しく調べました。
スクリーニングの効果は、検査対象とする病気による死亡率(疾患特異的死亡率)と、全ての死因をあわせた死亡率の変化で評価しました。
◆4種類のスクリーニングで死亡率が低下
集まった研究では、19の病気について39種類のスクリーニングが検討されていました。そのうち6種類の病気に対する12種類のスクリーニングは、米国予防医学専門委員会によって推奨されているものでした。
19の病気について、9件のメタアナリシスと48件のランダム化研究を検討したところ、メタアナリシスのうちで疾患特異的死亡率を下げるとされた検査は4種類あり、男性の腹部大動脈瘤を探す超音波検査、乳がんを探すマンモグラフィー、大腸がんを探す便潜血検査と大腸カメラでした。
全死因の死亡率を下げるとされた検査はありませんでした。個別のランダム化研究では、疾患特異的死亡率を下げる効果が見られた検査は研究対象とされた検査のうち30%、全死因の死亡率を下げると見られた検査は研究対象のうち11%でした。
研究班は、いま行われているスクリーニングが疾患特異的死亡率を下げることは「多くない」、また、全死因の死亡率を下げることは「非常にまれ、または存在しない」と述べています。
この結果からただちに「スクリーニングには意義のないものが多い」と言うことはできませんが、限定された見方にせよ、このような結果が提示されたことには驚かされます。スクリーニングの意義を話し合ってみるきっかけにはなるかもしれません。実際にここで挙がったような病気を治療している医師の方は、どう思われますか?
◆参照文献
Does screening for disease save lives in asymptomatic adults? Systematic review of meta-analyses andrandomized trials.
Int J Epidemiol. 2015 Feb
[PMID: 25596211 ]
大脇 幸志郎
1983年生まれ。東京大学医学部卒業。卒後株式会社コングレに勤務し、医学会の運営に携わる。医療者と患者の情報格差に疑問を抱き、2011年から合同会社コンテクチュアズ(2012年、株式会社ゲンロンに社名変更)に勤務し、人文思想を扱う出版・イベント運営を行う。2014年には医療をテーマにした公開インタビューシリーズの聞き手として、医療事故調査制度、患者申出療養(仮称)などの時事に触れる。2015年3月、株式会社メドレーに参加。