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Vol.145 日本の医療を崩壊させる看護師不足に打開策あり ~ボトルネックは優秀な教員不足、ITを使い通信教育の充実を

医療ガバナンス学会 (2015年7月27日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44088

星槎大学大学院教育学研究科教授
看護教育研究コース
佐藤 智彦

2015年7月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は、これまで内科医として12年、主に大学病院で研究・臨床・教育に従事してきたが、今年度から星槎大学大学院専任教授として看護教育研究コースを主宰している。これは、通信教育による教員養成や発達障害児の教育を長きにわたって実施してきた星槎大学における、看護師を対象とした新設コースであり、看護師養成施設の教員育成を主眼としている。
臨床現場でその中心的役割を担っている経験豊富な40代以上の看護師たちの多くは専門学校卒であり、学士や修士の資格を取りたい、あるいは教養を身に着けたいと望んでいる。
しかし、大学や大学院に通学するために休職することは、個人のスキルアップにとっても、臨床現場にとっても大きな痛手となる。
そこで、通信教育の利用がクローズアップされている。

◆看護師不足で病室閉鎖

働きながら学び、看護教員を目指すことが可能となるからである。最近はメールやビデオ通話などICT(情報通信技術)を駆使して、指導教員と学生間の密なコミュニケーションも取れるため、これまでの通信教育にありがちな「孤独感」や「疎外感」も縁遠いものとなる。
以前に勤務していた個人病院で、ある日を境にいつも使われていた病室が閉ざされた。聞くと、看護師不足で病床数を減らすことになったという。
その後も、「使えるはずの」病室は使われないままとなった。看護師不足と聞いてもすでに真新しさは感じないであろうが、病院のベッド数の削減、ひどければ病棟閉鎖に直結する大きな問題である。

2006年からの、病床における「7対1」配置基準の新設で、不足状態の看護師の「売り手市場」はますます顕著になり、大病院への偏在が加速した。看護師、准看護師、助産師、保健師を含む看護職は、2015年現在、約150万人いて、働く女性の20人に1人が看護職という時代になっている。とは言え、ここ数年は毎年3万~4万人の看護師が供給不足となっている。
団塊世代が一斉に後期高齢者になる「2025年問題」があと10年まで迫っており、それまでに必要な看護師は200万人と予測される。
現状では、毎年約4.9万人の新規看護資格取得者に対して、様々な理由による約2.4万人の離職者がいるため、1年あたりの看護師増加は2.5万人にとどまる。このペースでは、今後10年で必要とされる50万人の看護師増員には到底及ばず、25万人の供給不足という極めて深刻な事態が待っている。
1992年の「看護師等の人材確保に関する法律」の制定以降、看護系大学や看護学校といった看護師養成施設の新設や定員増加が進んでいるものの、その看護系学生を教育・指導する看護教員の不足がその大きなボトルネックとなっている。

◆優秀な教員の確保が重要

議論されることがあまり多くないが、看護系学生に対する教育の質の担保には、十分な看護教員の確保が重要である。3年課程の看護師養成所を例に取ると、法令上では、最低限必要な専任教員は8人で、学生数に応じて増員する必要がある。看護学生の定員が増えれば増えるほど看護教員の需要も高まるが、現状では「看護教員の入れ替わりはよく起きるし、後任探しにいつも苦労する」(現役看護学校教員)だという。
離職者が出た後に残された看護教員の負担が増え労働環境が悪化するのは、病院勤務の看護師におけるものと酷似する。

このような現状を踏まえて、前述の看護教育研究コースは、今年度6人の入学生を迎えた。全員が社会人学生であり、看護教育にとても熱意を持っている。さらにこの中には、福島県の現役看護師が4人含まれており、東日本大震災以降の福島県の深刻な看護師不足の解消に向けた意識の高さが表れていると言えよう。
先頃、各学生と面談したところ、入学を決めた理由として「働きながら修士を目指せること」を挙げていた。学生たちは、日々の臨床で忙しい中でもいかに新人や後輩看護師に十分な教育をできるか考え、より働きやすい職場を目指して、大学院で教養を深め、新規の看護研究を立ち上げ、研究論文としてまとめ、教育学修士取得を目指していく。

◆OECD加盟国中最低の日本

近年高まっている生涯学習へのニーズに対して、学び続けるための場所は意外なほどに少ない。日本における25歳以上の社会人入学生の割合は2.7%と過去5年で1%の増加を認めているが、OECD(経済協力開発機構)加盟34か国の平均20%を大きく下回り、最下位である。
教育基本法に規定されている「生涯学習の理念」の実現にはまだほど遠い状況と言える。看護資格は有するが実際には働いていない「潜在看護師」が国内に約70万人いること、学士や修士を希望しながら種々の要因でその進路を取れない看護師がいることも大きな問題として残っている。
「学び続ける場所」の提供が、看護師不足の改善策として有用といえる。これからは、チーム医療のキーパーソンになる質の高い看護師を育てる一助として、学びを求める声に答えていきたい。

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