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Vol.170 妊婦体験しながら世界一周の旅 ~インド、ネパール、イランの報告~

医療ガバナンス学会 (2015年8月27日 15:00)


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北海道大学医学部医学科4年
箱山昂汰

2015年8月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


現在、私は大学を休学し、妊婦体験をしながら世界一周の旅をしている。この旅を通して世界の人々、とりわけ男性に妊婦体験をしてもらい、妊娠や出産、子育てに関して考えるきっかけを提供したい。
私の世界一周の旅はおよそ400日間を予定している。記事を執筆している時点で、160日が経過した。これまでに中国、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド、ネパール、イラン、アゼルバイジャン、グルジア、アルメニア、トルコ、フィンランドの14か国で活動を実施し、合計486人に妊婦体験をしていただいた。今回のレポートではインドから後の3か国に関して、どのような旅をしたのか紹介したい。

【インド】妊婦体験をしてもらった人数 75人
10kgほどの妊婦体験ジャケットをつけてインドの道を歩くのは、大変しんどかった。私が訪れた5月から6月は暑季で、記録的な熱波が来ていた時期には50℃近くまで気温が上がり、首都のデリーではアスファルトが溶けていたらしい。通気性の悪いジャケットを着ていると非常に暑く、ほんの少しの時間でフラフラになってしまった。
さらに、インドの道を歩くときには様々なトラップがある。野良イヌがたくさんいるため、噛まれて狂犬病にならぬかと冷や冷やするし、野良ウシがただでさえ狭い路地をふさいでしまっていることもあった。そして、ヒトもさまざまあった。貧しい人、豊かな人、騙そうとしてくる人、助けようとしてくれる人、いろんな人がごちゃ混ぜになって暮らしていた。
インド滞在当初は、悪さをする人を警戒し過ぎるあまりインド人不信に陥っていた。その時は、活動も全く上手く行かなかった。「妊婦体験をしませんか?」と声をかける時に大事なのは、ある程度私自身がその人に心を許すことだ。現地の言葉でしっかりと話すことができない分、ジェスチャーや表情、雰囲気でコミュニケーションをしていくため、「この人はもしかしたら睡眠薬強盗かも…」などと考えていては、上手く笑えず、話が出来ない。「インド人を信じるのだ!」と心に念じるところからスタートした。
最低限の防御策を携え、心をオープンにして臨むと、インドはとてつもなく楽しかった。ヒンドゥ教の聖地ヴァラナシの飲み物屋さんで、ある人に妊婦体験してもらったところ、何を思ったのか赤ちゃんがいる設定のお腹を強打し始める。私がそれを止めている隙に、妊婦体験の説明の紙に卑猥な落書きをしている人もいる。その一方で、一生懸命に「子供は5人とかではなく、2人の方が良い!」という家族計画の重要性を説いてくれる人もいた。
冒頭でインド人不信と表現したが、「インド人」と一括りにして決めつけるのが良くないと考えるようになった。本当に多種多様な人が混じりあっている中で、この国にしかない人の面白さがあるように思う。汚い、臭い、暑い、うっとうしい。嫌いになる理由ははっきりとあるのだが、私はなぜだかインドがとても好きになった。

http://expres.umin.jp/mric/mric170-1_paco.pdf

【ネパール】妊婦体験をしてもらった人数 15人
インドがあまりにも暑過ぎたので、どこか涼しいところに行きたかった。ネパールは私にとって避暑地という位置づけであったが、もちろん4月に起きた地震のことを意識していた。地震発生から約1か月の時期で、周辺国を旅した際、ポカラやカトマンズといった街は被害が少なく、訪問可能だという情報を得ていた。「自分はただの旅行者であり、少しの力にもなれないだろう。もしかしたら被災地の負担になるかもしれない。でも、現場を見て感じてくることに少しは意味があるはずだ。何よりインドの暑さは耐え難い、行こう!」と考えたのであった。
ポカラは私の見た限りでは、地震の影響はほぼ無かったように思う。少し緊張していたところもあり、拍子抜けしてしまった。灼熱のインドから来た私にとって、ポカラは天国のような場所であった。ご飯も美味しくて、涼しい。山がちな地形と穏やかな人々は、どこか日本を彷彿とさせる。妊婦体験ジャケットを着けて歩いた際は、暖かく迎えてくれる人ばかりであった。
一方で、カトマンズで妊婦体験ジャケットを着けて歩くのは、少し気が引けてしまった。街の雰囲気は活気に満ち溢れて、人の往来も盛んであったけれど、市街地の建物のいくつかとダルバール広場の寺院などの歴史的建造物は深く損傷していた。ある人が世界遺産の大半がダメになってしまったと言っていた。広場には多くのテントが建っていた。
カトマンズの南にあるパタンという街で、「Do not pray Nepal. But Do something for Nepal.」と書かれたビニールシートを見つけた時は、呆然とした。「つべこべ言ってないで何かしてくれ。」と言われているように思ったが、私のトレードマークである妊婦体験の提供という啓蒙活動は、あまりにも間接的であるように思えてならなかった。今ちょうど困っているところに自分が立っていても、やはり何もできない。力不足な自分を苦々しく思いつつ、ネパールを後にした。

http://expres.umin.jp/mric/mric170-2_paco.pdf

【イラン】妊婦体験してもらった人数 48人
出発する前に友人や先生から、「中東には気をつけろ!というか行くな!」とよく言われた。大変な事件が起きた直後であったし、かなり危険な地域は間違いなくある。けれど、中東と一口に言っても広い。ムスリムの文化に自分の活動が受け入れてもらえるのか、とても気になっていた。イランは旅人の中でも好評な国であるし、行く場所を間違えなければ問題ないはず。気を引き締めて乗り込んだ。
首都テヘランに到着した日はちょうど、ラマダン(断食月)が始まった日であった。日が出ている間は飲まず食わずで過ごすのだが、夏至の時期でとても日が長い。1日だけトライしてみようとしたが、早々に挫折してしまった。一方で意外と、「ラマダンなんて知らないもん!」と言って飲み食いをしている現地の人を見かけた。信仰の度合いは人それぞれのようだ。
この国で妊婦体験をしてみないかと誘うと、他では無かった反応が返ってきた。「私たちは敬虔なムスリムであって、教えをもとに既に奥さんを大事にしている。だから必要ない。」という内容のことを数人から言われた。最初は、「変なプライド持ってないでやってみればいいじゃないか!」と少しケンカ腰で話をしていたのだが、よくよく話を聞いてみると本当にしっかりと考えて行動に移している人が多かった。私自身イスラム教の文化への偏見のようなものを持っていたように思うが、話を聞く中で、ある側面では女性を大切にする宗教なのかもしれないと思うようになった。
イランの人のおもてなしは有名だ。テヘランの街で活動をしていたら、双子の女の子に声をかけられて、宮殿を案内してもらったりジュースをおごってもらったりした。「本当にありがとう。でもなんで?」と聞いたところ、「あなたが喜ぶのが嬉しいからよ。」と言われて感動した。妊婦体験をしてくれたある花屋さんは、一輪のバラをくれた。
世界の街を変な格好をして歩く日々は、現地の人に分かってもらえなかったり、自分自身で意義を見出せなくなったりで、挫けてばかりだ。しかし、少しずつ手ごたえも感じつつある。これからも地道に世界をまわって行き、世界を良い方に動かしたい。

http://expres.umin.jp/mric/mric170-3_paco.pdf

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