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Vol.195 ちゃんと使えるWEB自動問診システムを作ってみた ~IT活用を進めて医療コストの削減を!~

医療ガバナンス学会 (2015年10月2日 06:00)


※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/search/author/%E5%A4%9A%E7%94%B0%20%E6%99%BA%E8%A3%95

ただともひろ胃腸肛門科院長
多田 智裕

2015年10月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


8月24日、塩崎恭久 厚生労働相が設けた懇談会「保健医療2035」http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/hokeniryou2035/future/ のシンポジウムが開催されました。

この提言では、
・総合的な診療を行う“かかりつけ医“の全地域への配置
・医療費適正化のため、地域ごとに医療費単価の調整を行う
・たばこフリー社会の実現
・ICTを活用した医療
・世界をリードする医療実現のための「医療イノベーション推進局」の創設などが議論されています。

ご存じのとおり日本の医療費は50年以上にわたり全国一律の単価です。それがここに来て、医療サービス目標量に応じて地域ごとに医療費の価格を調整することで医療費適正化を図る方策が、厚生労働省の関連会議から提言されたのです。

これは、驚きに値することと言えます。従来の諮問機関とは異なり、30~40代のメンバーが中心となって、20年後に自分たちが医療を受けることを想定して作成したことの成果とも言えるでしょう。

今回は、同世代(40代)の私がささやかながら現場で取り組んでいる、ICTを活用した新しい医療(WEB自動問診診断システム)を紹介したいと思います。

◆問診だけで8割方の病気の診断はつく

今年3月、米IBMの人工知能(AI)を搭載した質問応答システム「ワトソン」が、三井住友銀行コールセンターの銀行員として“内定”したことが話題になりました。専門用語を読み込ませたところ、応対スピードは人間と五分五分、正答率は80%程度と報道されています。

医療においても、問診だけで病気の8割は診断がつくと言われています。私も、開業医となって以来10年にわたり数万人を診察してきた経験から、来院時に記入してもらう問診票を見るだけで8割方は病気の診断がつきます。

それならば、医療においても自動問診診断システムを開発すれば、8割くらいの正しい診断が下せる可能性は十分にあるわけです。もちろん、IBMのワトソンも、症状から病気の診断ができるように開発が続けられています。

◆科目を絞れば自動問診診断システムの開発は可能

他にも、自動問診診断システムの開発に挑んだ日本の会社はあります。けれども、これまでのところ、一般向けにリリースできるほどの精度を達成することはできていません。

巨額の資金とマンパワーを開発につぎ込んでも完成に至っていない理由の1つは、医療全体をカバーする自動問診診断システムを作ろうとしていたことです。そこで私が開発するにあたっては、まず自分の専門分野である肛門科に絞って開発することにしました。

診断する科目を1つに絞れば、主な症状は10程度にまとめることが可能です。医療全体をカバーするものをいきなり開発するのではなく、1科目ごとに開発していけば、最終的には、ほぼ全ての科目をカバーできるところまで行く可能性があると考えています。

肛門科バージョンのWEB自動問診診断システムは、システム開発に半年以上、コンテンツ作成(当院を受診された方1000名以上に使用してもらい、実際の診断と一致しているかを確認して修正する作業)にさらに半年をかけ、なんとか一般に出しても問題ないレベルのものが仕上がりました。続いて現在は胃腸科バージョンを開発中です。

ちなみに小児科については、国立成育医療センターが今年5月からWEB問診票システムをスタートさせています。

◆選択肢型の問診診断システムの利点と欠点

診察前の問診の取り方には大きく分けて2つの方法があります。1つは受診に至った経過や困っている症状を自由に記入してもらう方法。もう1つは、病気の診断治療に必要な問診の回答をあらかじめ選択肢型に設定しておいて、質問に答えてもらう方法です。

問診診断システムを作る際は、後者の選択肢型で質問に答えてもらう形の方が簡素化できます。診断に必要な項目の聞き漏らしがなくなるというメリットもあります。

ただしその場合、困っている症状がどのような状況で発生しているかといったストーリー(経過)を十分に把握できないというデメリットがあります。

ですから現場レベルとしては、問診診断システムを受診前に利用してもらい、その上で細かな経過の問診を追加することで診察に要する時間を短縮し、質の高い診察をすることが可能になると考えています。

◆オンライン問診診断システムで医療費は大幅に削減可能

イギリスの国民医療サービス(NHS)の試算によると、医療従事者による対面での診察は1回当たりのコストが8.5ポンド(約1620円)かかるのに対して、オンライン化すると、そのコストは0.15ポンド(約30円)に押さえられるとのことです。

このように書くと、「オンラインでの問診診察は医師の診察に代わるものではない。同列に議論すべきではない」「質の低い医療を蔓延させることになる」という意見が出てくるでしょう。

もちろん専門医による対面での診察が大切なのは確かです。しかし、もっと重要なのは、患者に“適切な情報”を提供することではないでしょうか。情報不足の患者は誤った決断に走り、不必要な受診や再治療を繰り返してしまう可能性があるからです。

現在では、ネットで自分の症状から病気を検索することが簡単にできます。例えば、便に血が混じり、不安を感じたとしましょう。どのサイトを見ても、大腸がん、潰瘍性大腸炎(難治性の腸炎)、内痔核(いぼ痔)、急性胃腸炎(虚血性腸炎)などの可能性があることが分かるはずです。

問題はそこからです。可能性のある病気が分かったとしても、自分がどの病気に当てはまるのかの判断がつかないため、真っ先に目にとまる大腸がんではないかと心配して、病医院に駆け込む方が多数いらっしゃるのです。

当たり前のことですが、「下血=大腸がん」ではありません。WEB自動問診診断システムで、ある程度自分の症状を把握して、一番可能性の高い疾患について事前に調べてから来ていただくことで、通院回数が減り、問診時間を短縮することが可能になります。その分、じっくりと経過を把握でき、質の高い医療を提供できるようになると私は考えています。
多田 智裕:
ただともひろ胃腸肛門科院長。東京大学医学部卒業。東京大学大腸肛門外科、東葛辻仲病院の勤務医を経て、2006年にただともひろ胃腸肛門科(埼玉県さいたま市)を開業。医療技術の高さとホスピタリティーが評判となり、県外からも患者が訪れる人気クリニックに。ブログはこちら。

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