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Vol.201 消費増税で厚労省が省益拡大、私立病院に人事介入 ~言論封殺を狙った亀田総合病院・小松秀樹副院長解任劇

医療ガバナンス学会 (2015年10月9日 06:00)


※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44892

医療・教育未来創生研究所
研究員 関家 一樹

2015年10月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


9月25日に亀田総合病院の副院長である小松秀樹医師が、同病院を懲戒解雇された。
今この問題が医療関係者の間で話題となっている。理由は亀田側が出した通知書(https://drive.google.com/file/d/0B7HwWjvjN_PLMnMtaHBqd3ZuNU0/view)の文言が強烈だったからだ。以下はその引用である。
「なお、既に繰り返し指示してきたところですが、爾後、メール、メールマガジン、記者会見等、手段の如何を問わず、厚生労働省及び千葉県に対する一切の非難行為を厳に慎むことを命じます。」

亀田総合病院は千葉県鴨川市にあり、一般病床865・精神病床52、常勤医約450人と、日本最大級の総合病院である。さまざまな拠点病院に指定されており、千葉県南部の救命医療を担う基幹病院にもなっていることから、私立病院でありながら事実上千葉県南部の医療を一手に担っている。
亀田は同病院以外にもさまざまなクリニックや医療団体を運営しており、亀田グループという一大医療集団を形成している。総スタッフ数が約4000人という巨大組織であるが、経営体制は江戸時代以来の亀田一族による親族経営である。

小松医師は東京大学医学部を卒業後、2010年に虎の門病院を定年退職し、亀田側から誘われる形で現職となっていた。
2006年に『医療崩壊』を出版以来、積極的な言論活動を展開し医療業界の論客として知られる人物である。
小松医師が以前から行政に対して歯に衣着せぬ言論活動をしていたのは周知の事実であり、そもそも、そうした有名人であるから亀田側が採用したともいえる。
なのになぜこのような事態になってしまったのであろうか?
意外に思われるかもしれないが実はこの問題には「消費税増税」が深くかかわっている。

ことの発端は、亀田が千葉県から依頼されて行っていた補助金事業に対して、県が突然「補助金を打ち切る」と通告してきたことだった。
当初5400万円の補助金が予定されていながら、2600万円程度で支援が打ち切られそうになったため、小松医師が抗議をメールマガジン(http://medg.jp/mt/?p=3953)に複数回にわたって投稿したところ、これが千葉県及び厚労省担当者の逆鱗に触れた。同担当者が亀田の経営陣に対して、県から病院に対する補助金の配分についてもほのめかして、行政への批判をやめるように連絡。亀田の経営陣がこれを受けて、小松医師に対して行政への非難をやめるように「命令」した。というのが小松医師の主張である。

小松医師が9月18日付けで厚生労働大臣宛に提出した申入書(https://drive.google.com/file/d/0B7HwWjvjN_PLTGJpWEk1X190X00/view)によれば、亀田の経営陣は
「行政の批判を今後も書かせるようなことがあると、K(亀田)の責任とみなす。そうなれば補助金が配分されなくなるとほのめかされた。K(亀田)の病院は私立病院であって、公立病院のように守られていない。4000 人の従業員の雇用を守らないといけない。以後、千葉県の批判を止めてもらえないだろうか。」(伏字については筆者が補った。)と小松医師に対して言ったらしい。

以上はあくまで小松医師の主張であるため、ここでは真実性の検討は行わない。
亀田は以前から私立病院として、行政とは違った立場で東日本大震災の被災地支援を含めた、意欲的な取り組みを行ってきた病院である。看護師不足が深刻化する千葉県において、県が養成数を減らす中、自前で看護師養成数を増やすなど涙ぐましい努力も続けている。
このように革新的で、時には行政と対立することもいとわなかった亀田が、なぜ冒頭のような行政の言うがままの、権能も無ければ効果も無い強烈な言論封殺を発するようになってしまったのであろうか。

そもそも、医療業界は信じられないほど、厚生労働省や自治体の支配下におかれている。
医師個人としては、医師免許や保険医の指定(これがないと健康保険に基づく診療ができない)が握られており、病院としては各種の許認可や、レセプトと呼ばれる健康保険支払い(患者3割負担の残り7割の請求)の審査、などで常にお上の顔色を伺う必要が有る。
中でも決定的なのは補助金への依存である。

今回の処分者である亀田が以前に作成した資料によると、自治体病院で15%程度、私立病院でも1%程度の収入を補助金が占めている。
わずかな差のように見えるが、そもそも価格競争を許していない日本の保険診療制度においては、診療報酬は病院がぎりぎり赤字にならない程度の価格に国が統制している。したがって収入の1%は病院の黒字赤字を左右する値なのである。

ただ、こうした許認可権や補助金依存については以前からあったことといえる。
決定打となったのが2014年4月から始まった消費税増税だ。
消費税は本来消費者に転嫁されるべき税金である。
例えば「100円(税抜)で物を仕入れて、200円(税抜)で販売している会社」の場合を考えてみよう。消費税が5%の時には、実際には105円を支払って仕入れ、210円を受取って売っている、この会社は受取消費税10円と支払消費税5円の差額である、5円を後で国に納税することになる、つまり100円の利益が上がる。これが8%になったときは108円を支払い、216円を受け取り、8円を納税する、100円の利益は維持される。つまり消費税は本来企業の負担増をもたらさない税金である。
ところが診療報酬には消費税がかけられないのである。
消費税が5%時代に、100円(税抜)の商品を105円で仕入れ205円で売り100円の利益が上がっていたとすると、8%時代になり100円の商品を108円で仕入れても205円でしか売れないのである、利益は97円になる。つまり増税分がそのまま利益減少につながってしまう。

実際には病院の売上原価に占める人件費の割合が高いので、3%がそのまま減るわけではないが、それでも1%~2%の利益減少が生じている。
そもそも先述のとおり、病院経営はほとんど黒字が出ないように診療報酬が設定されている中で、この利益減少はそのまま赤字転落を意味している。
このことは当然国も理解していたのだが、これへの対応がまずかった。消費税増税で得た資金を利用して基金を設立、都道府県の政策目標に合致して配分するという姿勢になったのだ。
病院にしてみれば突然、売上の1%~2%を国に取り上げられて、都道府県の言うことを聞かなければその分を失ってしまう、ということになったのである。その額が黒字か赤字かの差をもたらすものであれば、なおさら行政が突きつける条件を飲まざるを得なくなってしまったのだ。

実際に亀田の決算(http://www.kameda.com/about/report/index.html)を見てみると、
2012年には医業と医業以外を合わせた収入が約436億円であるのに対して経常利益は約6億3749万円と収入に対する利益率が1.46%
2013年には約450億円に対して約5億1143万円と1.13%
2014年には約459億円に対して約3702万円と0.08%
と消費税増税が確実に経営に影響していることがわかる。
小松医師の申入書の中では、亀田の経営陣が経営状況の悪化する中で、補助金の獲得を行っていかなければならないという姿勢になっていた、とされている。上述の亀田が公開している経営概況を見るに、その通りの発言があったかはともかくとして、亀田がそのような姿勢をとらざるを得ない状況に追い込まれていったことは、状況証拠からも明らかと言ってよいのではないだろうか。
まさに「貧すれば鈍する」のである。

こうしてみると日本の場合、医師は私立病院の場合ですら、半「公務員的」な扱いをされていることがわかる。
他方で医師は医療という、患者=国民のために働くという「公的」な性格も持っている。医師は行政や法律の専門家ではないが、医療現場での問題点を一番把握できる立場にある。
現に医療法人の理事長は原則として医師でなければならないのであるから、医療問題において医師以外に声を上げる役割を期待できる存在はいないのである。
お決まりのフレーズであるが、高齢化の進展とともにわが国における医療のプレゼンスは今後増大する一方である。医療が巨大な問題となっている中で、医師の自由な発言が妨げられるような風潮は断固として批判されなければならないと考える。

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