最新記事一覧

Vol.213 「混合診療の禁止」は何を守るルールなのか

医療ガバナンス学会 (2015年10月26日 06:00)


■ 関連タグ

この原稿は『ロハス・メディカル』からの転載です。

内科医 梅村聡

2015年10月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ある医療機関で実施を予定している自由診療が「混合診療」として規制の対象になるか、某地方行政機関に問い合わせました。その回答が非常に興味深いものでした。なぜ規制しなければならないのかの背景を、国がきちんと理解していないように感じました。原点に返って確認した方がよいのではないでしょうか。

あらかじめお断りしておきますと、今回の問い合わせは、あくまでもある医療機関の個別事案について行ったものなので、他の医療機関の方は「自分も同じことをしていいんだな」とは解釈せず、個別に担当の行政機関にお問い合わせください。
問い合わせは、以下のようなものでした。

質問(1)
自由診療(例えば点滴)を受けにきた患者が「今日は花粉症の治療も受けたい」と訴えた場合、あるいは、「糖尿病の治療の為に受診したけれど、疲労回復の自由診療もしてほしい」と訴えた場合に自由診療を同時に行うと、「保険診療」と「保険外診療(自由診療)」の併用、いわゆる「混合診療」に該当すると解しているが、解釈を提示願います。

回答)混合診療に該当する

質問(2)
上記質問(1)が「混合診療」に該当するとした場合、次のいずれかの方法を取れば「混合診療」に該当しないと解しているが、ご見解をお教えください。
①「自由診療」が終わったあとに診察室を退室し、再度受付カウンターで別途受付をした後「保険診療」を受けてもらう。(支払に関しては請求書は分けておくが、退院時にまとめて行う)
②「自由診療」が終わったあとに診察室を退室し、「自由診療」の支払清算を行う。その流れで再度受付カウンターで受付をし「保険診療」を受け、「保険診療」の支払清算を行う。

回答)②の方法を取れば混合診療に該当しない。(中略)患者に、どこから「保険診療」で、どこから「自由診療」か、ということが明確に判断できるようにすべきという趣旨です。よって、②のように処置後、清算まですれば、今までの処置が「保険診療」であり、これからの処置は「自由診療」だと明確に判断ができるだろうということです。
(以下略)

念のため確認しておくと、「混合診療禁止」は、1人の患者へ保険診療と自由診療を同時に提供した場合は、保険診療分も自由診療扱いとなって、健康保険への請求を認めないというものです。
で、この行政機関の回答によると、手順さえ踏めば、保険診療と自由診療をほぼ同時に提供し、保険診療分は健康保険への請求を行って構わないということになります。
自由診療と保険診療の同日提供を完全に禁止した場合、現状を考えるとたしかに大混乱が起こると予測されます。しかし、それを認める理屈が、手順を踏むか踏まないかという形式論で示されたことは、ある意味大きな発見でした。私は、混合診療禁止には、もっと合理的な理由があり、そこから考えると今回のような併用を取り締まることには、あまり意味がないと考えています。

●過去の議論が神学論争
この回答の背景には、混合診療解禁を巡って賛成派と反対派の間で行われてきた神学論争が横たわっています。
解禁賛成派は、混合診療禁止によってドラッグラグやデバイスラグが発生していると主張します。しかし、それらの薬や機器を保険医療機関で自由診療として使えるようになったからといって、普通の人には手の届かない値段になるでしょうから、実質的なラグは解消しません。ラグを減らすことが主目的なら、混合診療解禁より、承認と保険適用を早く、と主張すべきなのです。
一方の解禁反対派は、混合診療を解禁すると、新しい治療法に健康保険が適用されないようになって、富裕層しか最先端の医療にアクセスできなくなると主張します。これも同じように、新しい治療法に早く保険適用を、と主張すべきなのであって、混合診療禁止とは直接関係のない話です。
このように、本来は保険適用するかしないかの方で扱うべき話を混合診療と絡めて議論してきた結果、混合診療禁止の対象となる「自由診療」は保険が適用されていないもの、保険診療への上乗せ部分、という暗黙の了解というか誤解が生じてしまったのです。
でも、そもそも保険診療との併用を禁止しなければならない「自由診療」は、それとは違うと思うのです。

●ダンピングが規制対象
国民皆保険が成立するまでは、医師または医療機関が個別に自らの医療行為の値段を決めていました。価格による競争もあったでしょう。
一方、国民皆保険の理念は、国民に等しく医療を保障するため、同一の医療行為には同一の診療報酬が支払われるというものです。診療報酬は、医療の質と供給を担保するための適正水準で設定されているという前提ですから、値引きが行われてしまっては、皆保険の理念がズタズタになります。
つまり、国民皆保険が始まった頃、保険診療で値引きさせないことには、重大な意味があったはずです。
値引きが行われるとしたら、保険適用された複数の医療行為のうち、どれかを「自由診療」扱いにするという手法が考えられました。例えば「混合診療」が一般的に認められるようになれば、「当院の胃カメラは保険適用を外して自由診療としますから100円で受けられます。ただしそれ以外の診察料や処方箋料は保険適用します」ということもできるようになります。
だから、そういうことをできないようにした(集患目的・利潤目的の恣意的な保険外しを禁止した)。それが「混合診療禁止」の最初だと思います。
保険適用されていないものの上乗せ併用を禁止するという趣旨ではなかったはずなのです。先ほども書いたように、上乗せを認めることと、医療の質や供給が損なわれることは直接関係ないからです。もちろん最近は怪しい自由診療行為も散見されますので注意が必要ですが、それは別途、保険ルール以外での取り締まりが必要だと思います。
行政当局には、国民の生命と日本の医療を守るため、本当は何を規制しなければならないのか、改めて考え、意味のある取り締まりをしていただきたいと願います。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ