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臨時 vol 249 「医療事故調の対案」

医療ガバナンス学会 (2009年9月15日 11:58)


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済生会宇都宮病院・医療制度研究会     中澤 堅次
井上法律事務所弁護士             井上 清成

事故調の議論の中で対案は無いのかとよく言われる。確かに今のままでは医療を受ける
側も提供する側も満足は出来ない。大綱案に替わる代案を検討することは重要である。
■ 民主党案を基本に解決策を探る
厚生労働省案の対案に民主党案がある。民主党案はWHOの原則に即して作られたと思
うが、医療事故死と犯罪死を区別して取り扱い、院内調査に重点を置き、当事者同士の問
題解決を基本にしている。第三者機関は責任追及ではなく、対立する当事者間の問題解
決の手助けという形で介入するなど、大綱案のような無理を現場に強いることは無い。
事故により崩れた信頼関係を修復し、再発防止により医療事故の問題解決を図ると、何
処の病院でもこのような形になると思う。すでに多くの病院ではこのような対応をしており、
被害者の納得につながらない訴訟による解決を避けようとしている。
事故調の議論では真相解明と同時に、医師の倫理性の欠如がいつも問題になる。医の
倫理が関係する問題は、事故の隠蔽と、カルテの改ざんで、本来事故の発生とは別次元の
ものである。民主党案はこの倫理違反を医療過誤や事故と分けて扱い、医療法・医師法を
改正し禁止条項を盛り込むことで医の倫理性を確保しようとしている。隠蔽改ざんと医療事
故を同列にとり扱う大綱案が多くの矛盾を生んだのと異なり、一つの見識と評価できる。
■ 医の倫理に関する世界の趨勢は病人権利を基本に置いている。
世界医師会は改訂リスボン宣言で病人権利(Patients’ Rights)を宣言し、医療を受ける人
が自分の医療情報をコントロールする権利と、インフォームドコンセントにより治療を受ける
かどうかを自分で決定する権利を持つとしており、これが今世界の趨勢になっている。つま
りカルテの改ざんは、自己情報コントロール権の侵害であり、インフォームドコンセント、つ
まり十分な情報を得て自らが受けることを決定した診療で、思いがけない結果が出れば、
詳しい内容について説明を受ける権利が発生する。不祥事をいちいち条文で規制するより
は、病人権利として他に掲げられているいくつかの権利とともに法制化するほうが良いと思う。
■ 医師法改訂による効果の限界
医師法の改正は対象が医師に限定され、多くの職種が関わる近代医療では職種ごとに
いちいち定義しなおさなければならない。医療を受ける人の権利、つまり病人権利を基準に
考えれば、医療に関わる人全てが病者の持つ権利を推進する立場として定義される。
隠蔽や改ざんは被害との関係がはっきりしないこともあり、当事者から訴え出ることは難し
く、医師側も最低限法律に違反しなければそれ以上精進する必要がない。法律違反として
追及されたとしても、罪は当事者限定であり教訓は他の医師には及ばない。医師法の改
正で医の倫理を追求することには限界があると感じる。
■ 病人権利を法制化することの利点
病人権利が法制化されることにより得られる大きな利点は教育にある。医学教育に於い
て医の倫理は重要なポイントであるが、実情は技術教育の量に押され、病人権利が医師
の頭の中に焼きつくことは無い。法制化されれば熱の入れ方が変わるから、医師の教育に
大きな効果を発揮でき、すでに医師になった人にも同様な効果が期待される。
また病人権利は基本的人権に基づくものであるから、国民教育にも反映されるだろうし、
過剰な権利の要求にも一定の水準を示すことが出来るかもしれない。当然病人の権利に
反する政策にはチェックが掛かかりやすくなるだろう。法律は医師を取り締まるためではなく、
病者が人間として生きるための支えという医療・介護本来の意味を再確認することになる。
日本医師会を中心とした医師の団体はいままで、病人権利を認めることに抵抗を示してき
た。時代は進んだので、速やかに方針を変えるべきである。日本でもインフォームドコンセン
トは、すでに司法判断の基準に使われており、当然現場も意識している。法制化したとして
も診療になんら差しつかえることは無い。
■ まとめ
医療事故死に関するシステムを作るのであれば、民主党案を基本に議論するべきである。
民主党案は少なくとも病者の権利擁護に基本を置き、医の倫理の問題を、医療事故と切り
離し、医療法・医師法を改正することにより問題を解決しようとしている。
病人権利の法制化はすでに世界の趨勢になっているが、実現すれば世界的水準に近い
制度が始めて検討の課題に登る。デンマークなどではさらに進んで、被害者の救済に無過
失補償制度が施行され医療訴訟が明らかに減ったという。日本も一歩踏み込んで医療事
故の本質を議論し、問題が明らかになれば無過失保障制度は検討する価値があろう。
医師の団体である日本医師会は、世界医師会の宣言を受け入れ、病人権利の法制化を
基本方針とするべきである。いずれにしても医療事故にまつわる問題は、医の倫理の向上
が問題解決の前提となることを医師は自覚するべきであり、この一歩を踏み出すことにより、
永遠の課題である医療事故防止と信頼回復に大きな力を得ることが出来ると思う。

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