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臨時 vol 249 「『新型インフルエンザ』ワクチン接種の優先順位、決められますか?」

医療ガバナンス学会 (2009年9月16日 08:44)


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有限会社 T&Jメディカル・ソリューションズ
代表取締役
木村 知(きむら とも)
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
私の頭が悪いのか、それとも優柔不断な性格のためなのか、はたまたその両方のためなのか、いくら考えてもわからないし決められません。
「新型インフルエンザワクチン」接種の優先順位のことです。
 厚労省は9月4日付けで「新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について(素案)」を公表しました。
 それには、優先接種対象者として医療従事者(救急隊員を含む)の次に、妊婦および基礎疾患を有する者が挙げられています。ワクチンの供給量が不十分で、接種されるべき人たちに十分供給できないのであれば、この優先順位は決めておかざるを得ません。そして国内外の重症者の報告から、この順位付けは妥当なものであると考えますが、一概に「基礎疾患を有する者」と言っても、実際の臨床現場でこれらの人たちを、「接種対象者」と「非対象者」に「選別」することなどできるのでしょうか?
 素案では、この基礎疾患として、呼吸器疾患(喘息を含む。)、心疾患(高血圧を除く。)、腎疾患、 肝疾患、神経疾患、神経筋疾患、血液疾患、代謝性疾患(糖尿病を含む。)、 免疫抑制状態(HIV、悪性腫瘍を含む。) などと挙げられていますが、あまりに漠然としすぎています。
 揚げ足取りだ、屁理屈だと言われてしまうかもしれませんが、基礎疾患としてこれらの病名、病態を列挙してしまうと、けっこうな人数の人たちが該当してしまうのではないでしょうか。
 糖尿病ひとつとってみても、インスリン導入されている人もあれば、食事療法でコントロールしている人もいます。治療効果が十分現れている人もいれば、頑張っているのになかなかデータが改善しない人もいます。そうかと思えば、ほとんど通院もせず、会社の健診でひっかけられて仕方なく来院するHbA1cが2ケタの、年に1度の「常連さん」もいます。
 でも、これらの人はみなさん「糖尿病」です。
 コントロール良好の人は対象外で、不良の人が対象だ、と考えれば、ある程度HbA1cの数値などで、区切ってしまえばいいでしょう。
 しかし、実際の臨床現場では、そのように簡単にできないのではないか、というのが私の危惧しているところです。
 「新型インフルエンザ」について、世間ではもはやパニックに近い不安と恐怖が「蔓延」しています。そういった中で、「インフルエンザワクチン」に対する世間の期待と希望が日ごとに高まってきています。
 このような状況で、品薄なワクチンの争奪戦がはじまり、優先順位がつけられるわけです。しかも輸入製剤についての不安も現場ではよく耳にするようになってきました。使ったことがないわけですから、医者ですら、わからないとしか言いようがありません。牛肉ではないですが、アメリカ産より松坂牛のほうが、なんとなく安全で安心かも、という感覚で、国産ワクチンを希望する人も多い印象です。
 そうなってくると、「私も優先接種対象者になって国産ワクチンを打ってもらいたい!」というのが人間の当たり前の感情となります。
 優先順位を決めるのは、基本的に「かかりつけ医」です。
 ふだん顔をあわせている患者さんを「対象者」と「非対象者」に、その「かかりつけ医」の裁量で選別するのです。
 もちろん「対象者」に選ばれず、ワクチンを打てなかった、からと言って、その患者さんが「新型インフルエンザ」で死んでしまうわけではないのですが、おそらくそんなことは、その患者さんには関係ないでしょう。かかりつけ医が「選別」することで、「信頼していた『いつもの先生』に『対象者』に選んでもらえなかった」という不満や失望感を生じさせたり、そのことが信頼関係にも影響してしまうのではないかと危惧されます。
 糖尿病患者さんについて、「努力せずにコントロールが不良であるのなら、そんな患者など『非対象者』にすべきだ!」という医療従事者の意見もあるようですが、コントロールできないのか、するつもりがないのかの線引きも困難です。「健康自己責任」で、「ふだん努力しない人には大切なワクチンはやらない!」と言ってしまうと、某首相の「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」の理屈と同じになってしまいます。
 そんなことを、いつも顔をあわせている患者さんに言えるのでしょうか?
 メタボ健診によって、自分のデータについて興味をもつ人が増え、これはこれで大変よいことではあるのですが、なんせその基準値が「辛め」なので、HbA1c
ひとつ見てみても、5.4を超えると「H」マークが付いてしまいます。そんな通知表を持って「とうとう私も糖尿病ですか」とかなり落ち込んで来院される患者さんもおられるのですが、そのような患者さんは新型インフルエンザワクチンの話になれば「優先順位対象者」に該当すると考えてしまうかもしれません。
 このように、実際の臨床現場では、多種多様の患者さんがおられるわけです。今後、患者さんの選別を丸投げされてしまったわれわれ現場の医師たちは、これらの患者さんひとりひとりに、多くの時間と多大な精神的負担を背負いながら、効果も副作用もわからないワクチン接種について説明し、常連患者さんの「選別」を行っていくのです。
 その光景は、映画「タイタニック」で沈み行くタイタニック号から、数の限られた救命ボートに、助かるか助からないかわからないまま、乗せる人を「選別」するシーンになんとなく似ています。
木村 知(きむら とも)
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
1968年カナダ国オタワ生まれ。大学病院で一般消化器外科医として診療しつつクリニカルパスなど医療現場でのクオリティマネージメントにつき研究中、2004年大学側の意向を受け退職。以後、「総合臨床医」として「年中無休クリニック」を中心に地域医療に携わるかたわら、看護師向け書籍の監修など執筆活動を行う。AFP認定者として医療現場でのミクロな視点から医療経済についても研究中。著書に「医者とラーメン屋-『本当に満足できる病院』の新常識」(文芸社)。
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