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Vol.232 現場からの医療改革推進協議会第十回シンポジウム 抄録から(2)

医療ガバナンス学会 (2015年11月18日 06:00)


*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium10.html

2015年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2015年11月28日(土曜日)
【Session 02】東北で医療者を育てる(1) 13:40-14:30

●浜通りの魅力
森田知宏

私は、学生時代から医師のキャリアパスについて幅が狭いことに疑問を持っていた。
現在も、専門医などでは画一化が進んでおり、時代のニーズとは逆行しているように感じる。医局のカリキュラムに沿って専門分野を探求するのは選択肢としてはありだろうが、それ以外の可能性を排除するのはいただけない。
共感した方には、浜通りで働くことをおすすめしたい。浜通りと聞くと、原発事故を連想される方が多いだろう。確かに2011年から現在に至るまで、原発事故の影響は残っているし、被害も甚大だ。しかし、私が相馬市、南相馬市に来たのは、原発事故に対して被災地支援のためだけではない。
浜通りでの勤務が魅力的だったからだ。実際、私は現在も恵まれた環境にあると実感している。
浜通りの魅力、それは以下の3点である。
・世界でリードできる課題の先進地域であること
・信頼できる「仲間」がいること
・自分で主体的にできる範囲が広いこと
例えば、私が興味を持っているのは高齢化問題である。日本は世界一の高齢化国家である。なかでも浜通りは、急激に高齢化が進んだ地域である。この状況は高齢化が急速に進行するアジア諸国と似ている。浜通りで具体的な経験を積んで課題を明らかにすることは、世界で進行する高齢化問題への示唆に富む。
研究活動を進めるうえでの仲間も充実している。東京の指導者、共同研究者とはもちろんのこと、海外の研究者ともやり取り可能である。浜通りには課題はごまんとあるため、少しでも改善できることは多い。
課題が多い一方で、まだ人は少ない。結果的に、自分で主体的にできることが多くなる。今年は英国や中国でプレゼンをする機会も得た。自分のキャパシティを超えたタスクを抱えているのが現状だが、それは幸せな状況でもある。
今後も浜通りの魅力を正しく伝えることができれば、少なくとも5年程度は若手医師・研究者が集まるだろう。結果的に、それが地域の復興につながるはずだ。

●地域に学ぶ
尾崎章彦

私は、現在、南相馬に勤務する6年目の外科医である。もともと東北に縁はなかったが、東日本大震災を契機に、この3年半は福島県で勤務している。
とは言え、最初の2年半は、母校が主催する後期研修プログラムの一環で、会津地区において一般的な外科研修に勤しんでいた。この期間、一度も浜通りを訪れたことはなく、放射能被ばくといった健康問題に関して、真剣に考えたことはなかった。
日々の臨床に打ち込みながら、将来は大学に戻って、大学院に進学して、ハイボリュームセンターで修行して…というような、外科医としての一般的なキャリアパスを漠然と思い描いていた。
そのような自分が、なぜ大学とのつながりを絶って、1年前にこの地に移住したのか。
最も大きな動機は、将来への不安である。
会津で過ごした数年間、日々のステップアップや患者との関わりは喜びの連続だった。
その一方で、ブラックジャックを目指すほどの外科的な素養がないことには、気付き始めていた。自分の能力を見定めた際に、目の前に敷かれたレールの上を盲目的に進んでも、世の中から必要とされる存在にはならないことは、容易に想像できた。これは、多くの若手医師に共通する悩みだろう。
その価値観の多様化に対して、医療の体制の変化は相対的に乏しく、受け皿はあまりに少ないように見える。
森田医師の発表にあるように、浜通りには、若者が地域で活躍できる環境が整っている。私の現在の主な興味は、一方で、震災後の社会的孤立による癌患者への影響であり、他方では、農地や土地の荒廃による蜂や蛇などの害獣被害への影響である。必ずしも一貫性はないが、重要な点は、これらの問題の解決が、地域にとってニーズがあることである。地域医療は決まった形を押し付けるのではなく、住民のニーズに応えていく作業である。この1年間で学んだのは、そのようなことかも知れない。同様に、医師のあり方というのも、一つでなくてもよいはずだ。

●福島から世界へ
Claire Leppold

2011年3月日本の東北地方を震災が襲った時、私はアメリカの自宅で、打ち震えるような気持ちでテレビに釘付けになっていた。それから4年が経過し、私はその場所で研究者としての第一歩を踏み出した。その事実に、自分自身が最も驚いている。
転機となったのは、今年の2月、坪倉正治医師が、私が在籍するエディンバラ大学で講義を行ったことだ。直接耳にした日本の被災地の現状は、テレビやインターネットで知り得たものとは大きく異なっていた。
また、坪倉医師らの活動は住民の生活に根ざしており、私もその一員に加わりたいと強く思わせるものだった。そこからの展開は目まぐるしかった。今年の春には3ヶ月間にわたり南相馬に留学。多くの方の助けを得ながら、震災が糖尿病患者に与えた影響を、まとめることができた。
この経験は、私に大きな印象を残した。強く感じたのは、南相馬は依然として多くの問題を抱えていることだ。放射能による直接的な被害以上に、震災がもたらした心理社会的な影響は、地域コミュニティーに大きな傷跡を残している。加えて、生活習慣病の悪化、高齢化、社会的孤立など、課題が山積している。
一方で、この地域に強い親しみを感じたのも事実だ。実際にこの地に住み、人々と交流する中で、私はもっと多くの時間を過ごしたいと考えるようになっていた。大学院を卒業した今、この地に戻ってくることができ、心から嬉しく思っている。
私が特に取り組んでいるのは、健康の社会的決定要因(Social determinants of
health)が、どのように人々の健康に影響を与えるかという点である。多くの生活習慣病や結核などの感染症は、社会的弱者により強い影響を与える。災害のような状況ではなおさらである。私は、そのような人々の助けになるような活動を行っていきたい。
この地域の実情は驚くほど世界に知られていない。信頼できる仲間と協力しながら住民の健康問題に取り組むとともに、その結果を世界に発信して、福島に対する正しい認識が広がっていくための努力を続けていきたい。

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