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Vol.233 現場からの医療改革推進協議会第十回シンポジウム 抄録から(3)

医療ガバナンス学会 (2015年11月18日 15:00)


*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium10.html

2015年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2015年11月28日(土曜日)

【Session 03】医療費問題(パネルディスカッション)14:40-16:20

●日本の財政と医療システム再設計
~医療・健康マネージメント地域システムの提案~
松田まなぶ

アベノミクスに補うべきものがあるとすれば、それは長期的な「持続可能性」である。政府はこれまで「中長期の経済財政に関する試算」でも、現在の力づくでの金利抑制の効果の継続で公債等/対GDP比率の低下をギリギリ示せる2023年度までの推計しか提示してこなかった。問題はその先にある。団塊の世代の後期高齢者世代入りで医療と介護への財政需要が爆発的に拡大する2024年度以降を視野に入れれば、名目3%の経済成長の永続という超楽観的想定のもとでも、今後10年程度の間に50~60兆円規模での国民負担増(増税か社会保障費の削減)を行わねば、財政の長期的持続可能性は確保されない。経済成長と財政とのつじつまは既に合っておらず、これが財政の「不都合な真実」の姿である。
対応策の王道は、日本の3,300兆円の金融資産(世界ダントツ一位の367兆円の対外純資産)をフロー化し、医療システムを中心に社会保障分野に民のおカネが回る仕組みを組み立てることにある。その動きを引き出すバリューを医療サイドなどで組み立てるべく、第4回の本協議会では「三層構造の医療財源システム」を提案した。これに加えて今回は、上述の財政問題との関連のもとに、医療財源確保にもつながる政府サイドの新たなファイナンス措置の仕組みとして、政府保証債の活用と日銀基金構想にも触れてみたい。しかし、何よりも重要なのは、医療をユーザーサイドを起点にした社会システムと捉え、国民や時代のニーズに応える「地域システム」として再設計することで、効率と効果の最大化を目指すことである。それは国民負担増を回避しつつ医療費の合理化を図る上での要諦でもある。
その一つのモデルとして今回は、現在提案中の「医療・健康マネージメント地域システム特区構想」について取り上げる。これは、現在の医療システムそのものが、国民の主要な疾患は感染症というすぐに治る形態の病気だった、1961年の国民皆医療保険制度の導入当時に出来上がったものであり、主要な疾患が慢性病へと変化し、社会の高齢化がこれを促進しているこんにち、時代の変化に応えられるよう再設計が必要な局面にあるとの認識に基づく。主要な柱は、(1)総合診療医が担う地域医療体制、(2)地域内IHN(機能分化と統合)、(3)ICT化による地域内個人認証システム、(4)様々な角度から日常の健康を「マネージ」するエリアを構築し、(5)そのために多様な能力を有する医療人材と総合診療医を育成する新しいタイプの医学部を設置することである。
この構想試案を医師不足・偏在の問題とも関連させつつ、議論のたたき台として提示したい。日本が世界の課題解決センターとして先駆的なモデルを提示する国へと飛躍するよう、活発な議論を期待するものである。

http://expres.umin.jp/mric/S4_matsuda.pdf

●「保健医療2035」 ~20年後の医療ビジョン~
渋谷健司

筆者は、20年後の保健医療のあり方を検討する厚生労働省の「保健医療2035」策定懇談会の座長を務めた。既存の枠組みや制約にできるだけとらわれず、社会システムとしての保健医療のあり方の転換や求められる変革の方向性を議論した。6月9日に最終提言書を公表した。そこでは保健医療制度を規定してきたパラダイムの転換が提唱されている。
保健医療のパラダイムが大きく変わる中で、わが国がとるべき道は次の3つである。
第1に、「保健医療の価値を高める」ことである。つまり、より良い医療をより安く享受できるよう、医療の質の向上や効率化を促進し、地域主体でその特性に応じて保健医療を再編していくことだ。2つ目は、「個人の主体的選択を社会で支える」ことである。患者は基本的に受け身であり、どの医療機関にかかるべきかなどの情報を持っていない。今後は、人々が自ら健康の維持や増進に主体的に関与できるようにする。また、健康は個人の自助努力のみで維持・増進できるものではない。 個人を取り巻く職場や地域などの様々な社会環境、いわゆる「健康の社会的決定要因」を考慮することが求められる。 最後に、「日本が世界の保健医療をけん引する」ことである。 高齢化、生活習慣病のまん延や医師不足は、日本の地域医療のみならず世界共通の課題である。
こうしたビジョンに基づいた保健医療は年齢、疾病や障害にかかわらず、あらゆる人に自らの能力(アマルティア・センのいうところの「潜在能力」)を発揮できる場を与え、お互いを尊重する社会の礎となる。
所得格差の拡大や貧困層の増加などの中で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの土台が崩れないようにしながら、特に地方での雇用を支え、経済活動の基盤としての存在感を高めていくであろう。保健医療への投資は経済・社会システムの安定と発展にも寄与する。わが国は、様々な暮らし方、働き方、生き方に対応できる「健康先進国」としての地位を目指すべきだ。
●医療費問題-首都圏医学部の経済状況
上田和朗

首都圏の13大学病院の財務状況を分析して驚いたのは、このままでは、大学病院が倒産してしまうということです。定員増にも関わらず少子化や不況の影響で、「大学倒産時代」という言葉があります。これまでは、少数の高校が倒産をしている事例がある程度で、余り、身近には感じません。
しかし、大学病院が倒産をしてしまっては、治療を頼っている方々や働いている方々にとって、そんなことを言っていられなくなります。果たして、大学病院の倒産などということが起こりうるのでしょうか。
13大学病院のうち、最終的に黒字になっているのは、9大学病院です。しかし、もし寄付金や国等からの補助金がなければ、3大学病院しか黒字になりません。通常の企業であれば、売上以外に、寄付金や補助金を貰うことはほぼありません。企業の場合は、研究をする場合も補助金はほとんどなく、過去の利益の積立の剰余金から工面をして明日の売上に繋げています。しかし、大学病院の場合は、その割合が平均すると収入の7%くらいの割合で寄付金や補助金があります。勿論、研究の対価に対しての補助金等であるかとは思いますが、それでも実際には、補助金なくしては成り立たない状況です。
長い平均寿命は、国民皆保険、医療の充実によりもたらされて来たと思いますが、その中で、大学病院の状況がこれだけ厳しくなっているという認識をもっていただき、これからどうしていけばよいのかを考察するための現状を知る機会にしたいと思っています。
●日本の医療は上下水道と同じ「インフラ化」が進む
~安くて安全な水が出るのは当然。過度の品質は求めるな~
小松恒彦

診療報酬改訂の度に1%程度の増減が大騒ぎとなるが、包括医療費支払い制度(DPC)の報酬が話題になることは少ない。
しかし主に大規模病院が対象となるDPCにおいては、2年ごとの改訂で10~20%の増減(主に減)は茶飯事である。血液がん化学療法には高額の薬剤費が必要である。
DPCでは「大赤字」になるリスクが極めて高い。筆者は筑波記念病院で出来高からDPCへの転換を経験した。稼ぎ頭が大赤字科になるという衝撃であった。DPC下で如何に医療の質を保ちつつ適切な収益を確保するか。困難な命題ではあったが、DPCの点数と薬剤費を計算し、頻用される化学療法で概ね収益を保つことが可能となった。
しかし安堵もつかの間、次の改訂で全てが見直し対象となった。1~2%の変化ではない。10~20%の増減やDPC⇔出来高の変更が多数出現。樹系図も細分化し、患者への対応も複雑化。同じ「悪性リンパ腫」という疾患でも、B細胞性なら14日入院、T細胞性なら3日の入院という奇怪な事態が常態化した。医学の勉強より、人間が作った仕組みの分析の方が重要という本末転倒であった。何が目的なのか? 幸か不幸か、
これらへの対応が評価され2007~2009年、2010~2012年度に医療と介護の連携、がん医療経済をテーマとした厚生労働研究班代表を務めることとなり、各国の医療費制度の調査、がんに要する費用全体を研究する機会に恵まれた。その結果分かったことは、大雑把にいうと、米国では医療はビジネス、欧州では社会インフラ、日本はそれらの中間である。日本は医療のインフラ化を進めていることが分かれば、医療を取り巻く環境が徐々に悪化する意味が理解できる。多くの医師や医療機関は「飲める水道水」であることを求められているのであろう。エビアンやペリエは過剰、もしくは自費で。意外に知られていないが、ドイツのように10%の富裕層は民間保険、その他90%は公的保険、民間保険なら教授が往診に来てくれるという状況がゴールかもしれない。
【Session 04】上研究室10年 16:30-17:30

●上研卒業生たちの今、未来
児玉有子

東京大学医科学研究所に2005年10月に誕生した探索医療ヒューマンネットワークシステム部門設置以降、現在の先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携部門に至るまで、多くの学生や若手の医療者が研究室を訪ねてきてくれています。その数は250人を超えました。
そして、彼らと多くのプロジェクトに取り組みました。その代表はコラボクリニックであり、医師不足は看護師不足のデータ収集であり、東日本大震災発生直後の様々な支援です。
当研究室が瞬発力をもって活動できるのもこのような若者の参画があるからです。
本セッションでは、医療系以外の学部に在籍しながら医科学研究所に通い、大学卒業後も何かと関わり続けてくれている卒業生を中心とするメンバーとともに、10年を振り返り、学生時代からお世話になっている皆様へ成長のご報告と今後の決意を述べさせて頂きます。

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