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Vol.259 なぜ日本の夜間休日診療は充実しないのか? ~救急病院だけではなく、軽症者受け入れの体制の充実が必要~

医療ガバナンス学会 (2015年12月16日 06:00)


なぜ日本の夜間休日診療は充実しないのか? ~救急病院だけではなく、軽症者受け入れの体制の充実が必要~

この原稿はJBPRESSからの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45136

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2015年12月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医師向け情報サイト「m3.com」とニュースキュレーションメディア 「NewsPicks」の共同企画で、医師と患者の両方に医療の問題点を答えてもらうアンケート調査が行われました。
その結果を見ると、医師が考える医療の問題点は、
1. 患者の理解不足
2. 夜間休日の診療体制が不十分
3. 医療に投入する金額が少ない
一方、患者側が考える医療の問題点は、
1. 診療の待ち時間が長い
2. 夜間休日の診療体制が不十分
3. 国家財政に対する医療費の割合が高い
となっています。

今回は、この中で医師と患者の双方が問題としている「夜間休日の診療体制が不十分」について、その状態がなぜ解消されないのかを考えてみたいと思います。
解決策としては、
(1)夜間休日料金を値上げする、
(2)夜間休日診療の拠点を集約化する
の2つの施策を行う必要があると思われます。
それぞれについて現状と課題を見ていきましょう。

●救急病院以外の医療機関で夜間休日診療が困難な理由
まず、夜間休日料金の値上げについてです。
2014年度に保険点数が改訂され、休日・深夜(夜10時以降朝6時まで)の手術や、処置に関しては、価格が平日日中に比して2.6倍になるよう に加算されました。従来の1.8倍からの大幅な加算です。時間外(18時以降と朝8時まで)に関しても、従来の1.4倍から1.8倍へ増額されています。
報酬が増額されているのだから夜間休日の診療体制が充実しても良さそうなものなのですが、現状の体制は決して十分とは言えません。
それには理由があります。この加算は、あくまで3次救急医療機関(重症、重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる医療機関)など地域の拠点病院のみが対象なのです。
どういうことかというと、現状では救急外来受診の80%近くが緊急性を要しない軽症患者です。救急車で搬送される方を見ても、約50%が入院を要 しない軽症患者です。ですから、拠点病院のみに加算を認め、そちらに患者を集中させるようにすると、重症患者をはるかに上回る軽症患者が押し寄せ、拠点病 院の救急外来がパンクしてしまうのです。
対策としては、軽症患者の受け皿となるような診療所などの医療機関にも、拠点病院同様の加算を認めることです。そうすれば、軽症者の受け皿が増え、夜間休日の医療体制が充実するのは間違いないでしょう。
しかし、今のところ、救急病院以外の医療機関に認められている時間外加算は1人500円にしかすぎません。昼間の内科診察代金(1人当たり平均 6000円程度)にたった500円が加わるだけです。これでは、夜間休日分の割り増し人件費分をまかなうことも不可能です。実際のところ私の診療所も日曜 日診療を2010年まで4年間行いましたが、とても採算が合わず継続を断念しました。
夜間休日の診療の充実を求めるのならば、救急病院以外の診療所へも夜間休日加算を手厚くして、軽症患者の受け入れ先となってもらうことが必要です。

●さいたま市は夜間休日診療の拠点を集約化
ただし、問題もあります。それは医療コストが増大することです。また、緊急の必要がない、いわゆる“コンビニ受診”を助長することにもなりかねません。
では、できるだけコストをかけず、またコンビニ受診を増やさずに、夜間休日診療を充実させる方法はあるのでしょうか。
ここで、埼玉県さいたま市の小児救急の例を見てみましょう。
さいたま市では、以下の市内4カ所の夜間休日診療所が、19時から21時30分まで診療し、夜間休日の診療をカバーしています(さいたま市大宮休日夜間急患センターでは、19時から翌日6時まで受け付け)。
・さいたま市浦和休日急患診療所
・さいたま市大宮休日夜間急患センター(さいたま北部医療センター内)
・さいたま市与野休日急患診療所
・岩槻休日夜間急患診療所
このようにさいたま市では、夜間休日の救急の場合、まず4カ所の夜間休日診療所のいずれかを受診して、そこから必要な病院へ紹介・転院する仕組み となっています。夜間休日診療の拠点を4カ所に集約化することでコストを最小限に抑え、拠点病院に負担をかけずに、市内の夜間休日の小児医療を全てカバー しているのです。

●診療所にも休日時間外加算を認めるべき
ただし、この方法にも問題点があります。それは、患者側からみると、夜間休日に救急を必要とした場合、この4カ所のうちのどこかに行かなければならないということ、そして夜中の場合は、さいたま市大宮休日夜間急患センターまで行かなければならないということです。
救急受診が必要な際に、いくらルールとはいえ近くの病院ではなく遠くの夜間休日診療所をいったん受診して、そこから病院へ紹介してもらうというのは、利用者にとって決して利便性が高いとは言えません。
コストは増えるけれども診療所に拠点病院と同様の加算を認めるべきなのか、それとも、コストを抑えて夜間休日診療の拠点を集約するべきなのか。落としどころはどこにあるのでしょうか。
先に説明したように、さいたま市の場合は夜間休日診療所の拠点を集約化しています。利用者に多少の不便を強いるものの、コストをそれほどかけずに夜間休日診療を充実させようという方策です。
私は個人的には、軽症救急患者の受け皿となりうるべき診療所に、手厚く休日時間外加算を認めるべきではないかと考えています。
それによって、現役世代の方が医療を受けやすくなりますし、私たちとしても、現在さいたま市で唯一提供している日曜日の大腸内視鏡検査を今後も続けていけるようになります。
夜間休日診療体制の構築は、来年度の診療報酬改定の大きな議題には上っていませんが、どんな形態がベストなのか、医療側・患者側の意見を取り入れて今後も検討を続けてほしいと思います。

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