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Vol.260 医療事故調の狙い ~医療安全管理体制の基盤充実に向けて事故調スタート~

医療ガバナンス学会 (2015年12月17日 06:00)


井上法律事務所 弁護士 井上清成 2015年12月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.医療事故発生報告の件数 平成27年10月1日から医療事故調査制度がスタートした。最初の1ヶ月間の医療事故発生報告の件数は、20件だったらしい。ほぼ当初からの予想通りであり、報告内容はともかく、おおむね妥当な件数である。この程度のトレンドが持続することが望ましい。ただ、報告件数が少な過ぎるという論評もあるらしいが、それはこの制度を誤って理解しているためであろう。 そもそも今般の医療事故調査制度は、旧来型の構想のような医療過誤や管理ミスに着目して件数を大量に挙げてそれらを調査して原因究明しようという制度とは、全く考え方が異なる。旧来型からパラダイムシフトした今般の医療事故調査制度は、「過誤」という要素は全く切り離した。しかも、特に「予期」という要素に着目して、全国津々浦々の各々の医療現場において実際に医療安全管理の向上につながる環境作りをしようとしたものである。 現場の医療安全管理体制の基盤を充実させることこそが主眼なので、実際に事故調査結果報告を多く出すことは二の次と言ってよい。むしろ、今般の法令上の定義に基づく「医療事故」を出さないように、現場で医療安全管理の環境整備が向上することが望まれている。だからこそ、報告件数が少なくてもよいのであり、もっと正確に言えば、件数の多い少ないにはこだわらなくてよい。 2.基盤充実の体系の構築へ 今般の医療事故調査制度では、先ず、すべての死亡症例が管理者の下で一元的にチェックされる院内の流れを構築することが、肝要である。一つ一つの死亡症例をすべて担当の医療従事者からレクチャーを受けるのでは、負担も時間も要し過ぎよう。そこで、個々の死亡症例のすべての医療記録が一式として、管理者の下に遅滞なく流れるようにすればよい。管理者の下では、カルテ等の記載のみをチェックするのである。 チェックする最重要ポイントは、厚生労働省令にのっとって、「当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産が予期されることを当該医療の提供を受ける者に係る診療録その他の文書等に記録していた」かどうかにほかならない(医療法施行規則第1条の10の2第1項第2号)。つまり、カルテ等の記載の充実が求められているのである。 もしもカルテ等の記載から「予期していた死亡」かどうかが判然としなければ、口頭で「当該医療が提供される前に当該医療従事者が当該医療の提供を受ける者又はその家族に対して当該死亡又は死産が予期されることを説明していた」(医療法施行規則第1条の10の2第1項第1号)かどうかを、管理者が当該医療従事者を特に個別に呼び出して事情聴取してチェックしなければならない。 このような流れが構築されることによって、自然と、カルテ等の記載の充実やインフォームドコンセント等の事前説明の充実が、余り無理なく図られていく。これこそが、医療安全管理体制の基盤充実の体系の構築への第一歩であろう。 今般の医療事故調査制度では、たとえば特定機能病院に対してのみならず、広く約18万近くの全国津々浦々の医療機関すべてに対して、このような体系の構築への第一歩を踏み出すことが望まれているのである。 3.医療安全管理のための分類 管理者はすべての死亡症例の一元的チェックによって、医療安全管理のために有益な症例をチェックしピックアップしていくこととなろう。 レジリエンス・エンジニアリングにおいて強調されているように今後の院内での普及に有益な「適切な医療・管理」の症例、直ちには事故でも過誤でもないけれども精査する必要が感じられる「不適切な医療・管理(の疑いも含む。)」の症例、従前からの医療安全管理の課題として努力が続けられている療養・転倒転落・誤嚥・患者の隔離身体的拘束身体抑制に関連するいわば管理事故、危険な外科手術の手抜ミスのように死亡を予期してはいたものの過失的なものが含まれていた医療過誤による死亡などが、ピックアップの対象となりうる。そして、必要と実情に応じ、医療安全管理委員会において検討されねばならない。 これらのような諸々の観点からの総合的な医療安全管理体制の基盤充実が、先ずもって最も重要と言えよう。 こうして見ると、医療事故調査制度に言う「医療事故」をピックアップすることは、それ自体としては必ずしも重要なことではなく、むしろ総合的な医療安全管理体制の中で相対的な位置を占めるに留まる。「医療事故」は、疾患や医療機関における医療安全管理体制も含むところの医療提供体制の特性・専門性によってその範囲が異なるものと言えよう。つまり、医療機関によって相対的であると共に、医療安全管理体制の現状との間でも相対的であると評しえよう。 たとえば、疾患の見逃しが、原病の進行や併発症(提供した医療に関連のない、偶発的に生じた疾患)とされて、「医療事故」からは除外されているのも、このゆえんである。また、単純誤薬などのいわゆる単純ミスが、時に「熟練度の低い者が適切な指導なく行った医療行為による事故」としていわゆる「管理事故」に分類され、「医療事故」からは除外されることがあるのも、このゆえんにほかならない。 4.改善策の医療安全管理委員会による一元化 「医療事故」が発生したならば、法令にのっとり、院内医療事故調査委員会その他の方法により院内で事故調査を行う。そして、その調査結果を管理者には無論のこと、医療安全管理委員会にも報告しなければならない。すると、医療安全管理委員会は、当該医療機関の人・物・金そして従事者皆の労働時間配分の具合いなどを総合的に考慮し、他方、「医療事故」以外の分類からピックアップされた症例の状況も総合的に考慮し、その上で、それら実情をさらにトータルに勘案して、再発防止策またはその他の改善策を講じることもしくは講じないことになる。 つまり、原則として、医療事故調査委員会は再発防止策を策定しない。医療安全管理委員会がトータルな見地から、一元的に再発防止策その他の改善策を決めていくのである。 以上のような体制整備こそが、今般の医療事故調査制度の狙いだと言えよう。 http://expres.umin.jp/mric/mric260.pdf

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