医療ガバナンス学会 (2015年12月24日 06:00)
福島県相双地区縦断
福島県立ふたば未来学園高等学校音楽教諭
今野貴文
2015年12月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
我が相双地区(相馬地域と双葉地域)は東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の被災地となり、現在も災害が継続している。
昨年「ふたば未来学園高等学校」の開校の話がちらほらと出始めた時期に、どのような先生方がふたば未来学園へ赴任されるのだろうかと興味津々であった。まさかその後の人事異動発表で自分が赴任することになるとは思いもせずに過ごし、言い渡されたその日は本当に呆然としてしまった。
しかし自分はこの福島県相双地区の人間である。「地元出身者の自分が地元のために尽くすべき」と相馬高校勤務時代から10年以上自分に言い聞かせてきた私は、ふたば未来学園への異動命令を受け入れた。本音を言えば、前任校・原町高校でやり残したことが沢山あって、生徒や保護者、先生方にご迷惑だけおかけして離任してしまったことは未だに心残りである。
問題は通勤・・・広野にアパート借りるか相馬市の自宅からの片道72キロの自家用車通勤にするか・・・放射能汚染地域を毎日、往復縦断で通勤する覚悟を決めるまでの心の葛藤に苦しんだ。運よく高速が3月1日に開通し、一瞬の高線量地域の通過とはいえ、やはりまだ独身者の私にとっては近い将来に縁談をいただいた場合の障害になるのではないかと真面目に悩んだ。それでも自分の力を双葉郡の子供たちのために尽くせればと、覚悟をもって高速通勤を決めた。加えてこれまであった「福島県吹奏楽連盟副理事長・相双支部理事長」「福島県高等学校音楽連盟副理事長・吹奏楽専門部委員長」の肩書を譲り、いよいよふたば未来学園に専念する準備は整った。
さて、本校生はほとんどが被災時に小学5年生だった双葉地区の生徒であり、いわきからの長距離電車通学、もしくは寮に入って通学している。様々に事情を抱えているにせよ、福島県の未来への希望である子供たちである。時々、失敗や問題行動もあるかもしれない。いや、ひょっとしたら明日にも状況が変わってしまっているかもしれない。でもこのような状況にいても自分の未来に夢を持ち続けて頑張っている子たちである。毎日毎日、本当に様々に困難なことが山積している。外部からの来校者が毎日2・3件、多いときは5件あって、その対応でも精一杯であるが、それでも教員が一致団結して頑張っている。本校教員は本当に研究熱心でレベルの高い教員が勢ぞろいしていて、私も流れに乗れるように必死で勉強している。
そのような中、先日の「現場からの医療改革推進協議会第10回シンポジウム」に参加させていただく機会をいただいた。医療関係者でもなんでもない「ド田舎ふぐすまの一人の音楽教師」の私であったが、専門的な用語や話題はさておき、本当に刺激を受ける機会となった二日間であった。こうやって見ると医療の世界も行き着くところは「教育」なのだと・・・。
それにしても、医療関係者は私から見れば「なぜそこまで!!」というくらいにアクティブな人種であり、「どんどんいい方向へ変えていく」というアクティブさが自分、加えて教育界にももっと広がるべきであると痛感し、各先生方から沢山のエネルギーを頂き心から感謝している。平成28年度に改訂される次の学習指導要領の目玉は「21世紀型スキル」「アクティブラーニング」であり、戦後最も大きな改革となるようである。学校教育界にも大きな変革が迫られている状況であり、私も医師や看護師、各先生方のようにこれからもアクティブに勉強していこうと心に決めた。
まだスタートしたばかりの県立ふたば未来学園、5年後には純粋に双葉郡内にある小学校の本校舎に通学した経験が全くない生徒ばかりとなる。しかし過去を懐かしがって現在に留まっていたのでは、未来に願いを持ちながら震災で命を落とした方々に申し訳ない。新たな地域の創造、新しい学校の創造にあたって、有能でレベルの高い同僚の先生方と力を合わせ、私自身、少しでも役に立てるようさらに邁進していきたい。