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Vol.018 地域医療はだれのもの? 福島県双葉郡広野町・高野病院奮戦記 第2回

医療ガバナンス学会 (2016年1月19日 15:00)


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高野病院事務長
高野己保

2016年1月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

前回は、福島県広野町、高野病院における救急や死体検案の増加、除染作業員のモラルハザードなどの新たなに起きた医療問題についてお伝えしました。当院は現在、双葉郡で稼働する唯一の病院です。今回は現在直面しているスタッフ不足問題や、私達の地域医療への思いについてお伝えしたいと思います。

現在、当院のスタッフ数は非常勤勤務者を含めて96名です。しかし、この中には以前から委託していた、清掃の人員も入っています。震災直後、委託関係の業者はすべて手をひいていなくなりました。そのため当初は、医療資格職だけではなく、厨房スタッフやお掃除スタッフも確保しなければなりませんでした。現在広野町のコンビニの時給は日中勤務でも1200円。居酒屋さんのパートも1000円以上出さなくては人が集まらない地域において、資格職以外の確保も難しいのです。

常勤医は院長1名になってしまいました。非常勤医師6名が週をつなぐように東京から来てくれていますが、院長も週3~4回の当直、精神科指定医なので、精神科輪番も月に5~6回、レントゲン技師がいないので院長が救急の際にもCT操作なども行っています。

看護職は現在非常勤も含めて41名です。この数だけみると十分だと思われるかもしれませんが、元からの職員が26%、県外からの勤務者が25%、残りが震災後新規採用した方達ですが、年齢的にはほとんど55~69歳に分布しており、長期の勤務が望めません。また県外からの職員が元の地域にお帰りになった場合は、現在の入院患者さんのケアが難しくなります。またご家庭の事情で夜勤ができない、土日祝日はお休みをというスタッフも多いので、病棟で勤務を組むのがとても大変です。とにかく、人員を確保することが第一であるため、多少の条件には目をつぶらなくてはならないのが現状です。夜勤ができないからダメ、55歳を越えているからダメ、准看護師だからダメ、などなど言っていたらこの地の医療は成り立たないのです。

みなさんは、行政は?と思うかもしれません。しつこいようですが、高野病院は双葉郡でたった一つ残った民間病院です。この「たった一つ」、「民間」という言葉が、今現在においても、これほどまで私達の重荷になるとは思ってもみませんでした。二つ以上の病院の意見なら「みんなの意見」にもなるのでしょうが、一つだけだと、「高野病院の意見」になってしまいました。私達の話を聞いて、それで助けてしまっては、「公平性の観点からも不都合がある」が行政の考えでした。双葉郡においては、公平性こそが不平等である、と私達は思っています。看護協会などの協会という名のつく組織などには、ことごとく「人がいないのはあなたたちだけではない」と言われました。

私達はずっとこの地で、震災後の地域医療の変遷を見てきました。地域医療の崩壊などと言われていますが、とっくに崩壊しています。だからこそ、今のうちに私達ができる対策を打たなければ、この地の医療は終わってしまうと危惧し、要望や陳情を行いましたが、すべては高野病院の利益のためととる方もいて、公平性の壁に何度もはね返されるのでした。確かに病院は、職員にお給料を払わなければなりません。安定した医療を提供し続けるために、病院を決して赤字にしてはならないのです。それを金儲けのためと言われるならば、「はい。その通り、金儲けです」と言うしかないのでしょうか。それは、地域医療を守る最後の砦が高野病院だ!という気持ちを失わせるには十分なものです。

そんな日々を過ごし、いつしか行政のいう「地域医療」なんて、守る価値もない、私達は目の前の患者さんとご家族、広野町、双葉郡の人達、この地で医療を必要とする人達のために医療を提供し続けよう。そして私は、それを支えてくれるスタッフのために、どんなことでもしよう。そう思うようになりました。そのためには人の確保。国の制度も県の支援も、待っていられない。そして今も看護職だけではなく、他職種の人材探しの旅が続いています。

もともと当院の職員の勤務年数は長く、地元で若い人を育てながら、定年などで入れ替わるという流れでしたが、今回の事故で、すべて断ち切られ、外に人を探しに行かなくてはならなくなりました。初めての大学にも説明会にお邪魔しましたが、大学によっては、地元企業優先で、他県の病院は抽選というところもあります。うちのような小さいところは、ブースをいただけても、ほとんど人の来ない端っこであったり、別棟であったりと苦戦しています。病院のT-シャツを着て、のぼりを立てて、路上キャッチのように、呼び込まないと、誰も来ないのです。また若い学生さんは、福島県で原発がどこにあるのかを知らずにいらっしゃるので、病院を気に入っていただけても、ご両親の反対を受けてしまうということもありました。他の病院は、人事担当者と看護部長や師長が一緒に動くことが多いのですが、うちの場合は、病院がそれどころじゃないので、勤務表から看護師を抜くことはできず、いつも私1人で動くしかありません。

幸いこの5年近くで、50名ほどの資格職の方達が、北は北海道、南は九州と全国各地から高野病院のことをホームページやテレビ、新聞などで知り、力を貸してくださいました。県外からの方達は、ご家族を置いての単身赴任など、どうしても期限を決めていらっしゃる方が多いので、この人が来月帰るから、その代わりの人を探さなくちゃ…と、綱渡りの毎日は今も続いています。

国は、福島県全体のデータしか見ていないので、医療従事者が前年より何パーセント増えて良かったね、順調に戻っているね、と言います。しかし、福島県全体で見れば数値的には戻っていても、双葉郡の原発の警戒区域にはだれもいないのです。今も震災直後も大して変わらない状況で、医療を継続している私達にとっては、医者が増えた、看護師が増えた…は、別の国の夢物語に聞こえます。確かに、双葉郡の現在のデータがとれないのだから仕方がないと言われるかもしれません。だから双葉郡に病床が、高野病院の118床しかなくても、震災前のデータが生きているから、現在もこの地域は、病床の過剰地域だと言われてしまうのです。

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