医療ガバナンス学会 (2016年2月24日 06:00)
この原稿はJBpressからの転載です。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45925
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2016年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●専門医になるにはどれだけの年月がかかるのか
医師の所属学会は、申請すればほぼ誰でも入会できます。なので、技量を推し量る資格としては、「認定医」と「専門医」が主なものとなります。その区別は以下のようになります。
【学会認定医】高度な知識や技量、経験を持つ医師として学会が認定した医師
【学会専門医】日本専門医性評価認定機構が定める基準(5年以上の研修の受講と適正な試験)により認定された医師
認定医は、学会によっては学会と講義・認定試験がセットになっています。1~2日、学会に参加して講義を受ければ、講義の内容に沿った試験をそのまま受けて取得できるという学会も多くあります。
一方、専門医となると、医師免許取得に6年間、研修医2年間、さらに専門医取得に5~7年と合計15年近くの年月がかかるわけですから、あるレベルの技量を持っているという担保になるはずです。
●専門医の数が多すぎる?
実際の専門医取得者数の具体例を見てみましょう。
小児科医総数2万1200人に対して、小児科専門医数は1万4800人。眼科医総数1万4500人に対して眼科専門医数は1万600人。このように7~8割の医師が専門医を取得しています。
他の科目もほぼ似たような割合です。私の専門である消化器内視鏡はやや専門医のハードルが上がるものの、消化器内視鏡学会の会員数は3万2000人で専門医は1万6000名ほど。つまり半数近くの方が専門医という状況になります。
これほど多くの医師が専門研修を受けて、専門医更新維持のための研修も継続して受講しているのです。専門医認定と学会活動が全体のレベルアップに貢献していることは間違いありません。
しかし、利用者から見ると困った点もあります。大半の先生が専門医ということになると、医療機関を選ぶ際に専門医がいるかどうかが判断の基準にならなくなります。そのため口コミなどの情報が重視されることになってしまうのです。
専門医の数が多いのは決して悪いことではありません。けれども、それを生かしきれていないのが実状です。
●専門医取得後の研修実績をチェックすべき
世間一般の専門医への評価がそれほど高くない理由は、専門医取得後の研修レベルが十分に担保されていないことが大きな理由ではないかと、私は考えます。
専門医は更新制度が導入されていますので、5年ごとに研修実績を提出しないと更新することができません。ところが多くの学会で、この更新に必要な研修は年1回の学会や5年に一度の講習会の参加だけです。
「専門医を取得してからが本当の専門医の勉強である」と私は教えられましたが、更新に必要な研修は、専門医取得に必要な研修に比べるとかなり緩いものなのです。
●効果的な「eラーニング」「相互チェック」の導入
とはいえ、現場の最前線で働く専門医たちを集めて、これまで以上に研修を受ける時間を確保するように制度を変えてしまうのは非現実的です。都市部 や他のスタッフがいて休みが取りやすい大規模病院で働く医師以外は、専門医の更新が困難になってしまいます。結果として、専門医が都市部や大規模病院に偏 在する状況を加速させてしまうでしょう。
では、十分な質の専門研修を行う現実的な方法、なおかつ患者にもメリットがある方法はあるのでしょうか。
いくつか具体例を考えてみます。
まず、「eラーニング」の導入です。ネットを通じて好きな時間に必要な講義を受けられるようにすれば、主に東京・大阪・福岡など大都市でしか開催されない学会での研修に相当する研修を、これまで以上に数多く行えるようになるでしょう。
また、クリニックや小規模病院の専門医同士で、実際の診療症例を相互チェックし合う仕組みを構築すれば、診療の質を一層担保できるようになるはず です。消化器内視鏡で言えば内視鏡画像の相互チェック、手術動画の共有などが考えられます。その際もネットの利用は効果的ですし、近隣の医療機関の連携を 促すことも必要でしょう。
さらには、「専門医取得後に研修をどれだけ受けているか」「専門医同士の相互チェックを行っているか」といった情報も公開するようにすれば、専門医制度が患者側から一層の信頼を得られるようになるのではないでしょうか。
新専門医制度が運用面の工夫でより充実した制度となることを期待します。