医療ガバナンス学会 (2009年3月16日 14:16)
2008年1月、
国と原告・弁護団が基本合意に至った。これを機に、
「
発足。現在までに10回開催され、薬害肝炎事件の検証、
や医療機関等が取り組むべき安全対策、
多岐にわたる内容が議題となってきている。
いる会議でもあり、来年度も継続の方向性が示されている。
薬害肝炎の悲劇を繰り返してはならない。過去の例を検証し、
との重要性については誰しも異論ないだろう。ただ、
の反省を基に改善を重ねて来た結果、
のあり方、特に厚生労働省医薬食品局と医薬品医療機器総合機構(
の体制が大きく異なることだ。
は対応できる問題点と、過去の薬害からは想定できないため、
応し得ない問題点とに分け、冷静に議論する必要があるだろう。
加えて、将来薬害を繰り返さないためには、
薬害防止体制の構築が必要である。今、
応できているリスク管理をより良いものにするにはどうするか、
制でも対応し得ないような未知の薬害・
くかである。その際、明暗を分けると思われるのが、
タベースや薬剤疫学的手法等の科学的なツールの活用である。
る人材の採用・育成および環境形成においては、
異分野の専門家の融合がカギを握るものと考える。
私は2003年7月から2007年12月まで、
の医薬品医療機器総合機構(PMDA)
会の委員を務めている。今回は、医療現場と審査の現場、
場から、薬事行政の現状報告とともに、
これにより医療者や患者はもちろん、
るものである。
※「薬害」とは明確な定義がなく、
こでは、安全性上の問題を早期に発見、対応、情報公開できずに、
て拡大し、社会問題化することを「薬害」と表現する。
【 1 】 PMDAによる安全対策 ≪現状と課題≫
最初に、PMDAが実践している安全対策と今後の課題、
たい。
(1) 安全性は大丈夫? 治験中の医薬品
治験中は、厳密な副作用報告が義務付けられており、
てこれらの副作用報告をタイムリーに把握する工夫・
治験実施中に、
製薬企業と話し合い、
が可能となっている。
(2) 審査部門と安全対策部門の連携強化を!
現在でも、PMDAの審査部門と安全対策部門は連携・
力がなされているが、
のために注目すべきは、
みだろう。実際、PMDAでは、
一貫してみる立場の職員を置くなどの試みが始まっている。
PMDAでは企業に対し、審査段階、
準(ICH)に基づき、すでに特定されたリスクを明示し、
を考え、リスクを最小化するための計画を練ることを求めている。
査において、市販後に注意すべき副作用(リスク)
らかにされていくので、
だが、よりわかりやすく、
う。これまでに、
作る試みや、
てそのような方法が実際に有効な手段であったか、
くことが重要である。
また、PMDAが、市販後の(製造販売後の)
1、目的とする内容を正確に検討できるために、
2、企業に指示した内容と、そのような指示をする根拠について、
すい形で情報公開する必要があると考える(現行では、
調査・試験を行う企業に公開を依頼する形になっている)。
こうした工夫により医療者や患者は、
するのか、知ることができる。そうなれば、
て協力できるようになると期待される。また、
て、PMDAの判断・
ドバック)も期待できる。企業に対しても、
なると考えられる。
(3) 「市販後の安全対策」が全世界的なテーマ
情報のグローバル化を受け、
され、どの国にとっても重要なテーマとなっている。
うわけではない。例えば米国でも、COX2阻害剤(鎮痛薬、
薬)と心血管系リスク、あるいはSSRI(抗うつ薬)
会問題となった。現在、FDA再生法(FDAAA)により、
様々な改革が行われようとしている。とはいえ、
での安全対策を模倣しても機能しない。日本の社会・文化・
た最良の安全対策について、前向きに、
勿論、すでに現在までにも、
今後は、<1>徹底した情報公開の促進、<2>
行できる体制、<3>
ための国家レベルでのデータベース構築、さらに<4>
が必要と考える。
<1> 徹底した情報公開
市販開始に向けて行う現行の情報公開については、【1】(2)
市販後は、調査・試験の実施状況について、
ど、より積極的な開示が求められる。また、
販後に行われた場合の経緯や判断根拠なども、
様、開示されるべきと考える。
<2> 講じた安全対策の評価、フォローアップ
PMDAは審査終了後、市販後の安全確保を目的とした情報提供(
い、必要な場合には、調査・
が承認条件の場合には、
しかし、現在ではPMDAの人員不足の問題から、
て系統だった評価ができていない。今後、
を作る必要があるだろう。
◆ 市販前に予想していた安全性上のリスクと、
いがあったか?
◆ 企業は、確実に安全対策(調査や試験を含む)を実施していたか?
◆ PMDAの、
特に、医療現場に対する情報開示が十分であったかは、
して、何が不足か、不足しているとすればボトルネックは何か、
開示方法は何かなどを情報収集し、
この場合、決して監視・取締りといった姿勢ではなくて、
ればならない。現場のサポートこそが、
<3> 大規模データベースの必要性と課題
承認を受けて市販されると、
限られた人数の治験データからは分からなかった副作用(
かになってくる可能性がある。また、遅発性の副作用も、
可能性が高い。
現在でも、承認時点において、
された場合や、その医薬品の使用者の把握が必要な場合には、
調査を課すという方法をとっている。全例調査は、
るため、特定の医療機関で行う調査や副作用自発報告とは異なり、
副作用情報を得ることができ、
もある。
欠点としては、(ア)
の医薬品を使っていない患者と比べてどのようなリスクがあるのか
困難、(イ)市販後に行う全例調査は、
トがないため、多忙な医療機関に全面的に業務が委ねられており、
負担は非常に大きい、(ウ)
医薬品の納品が行われるため、
ということが挙げられるだろう。(ウ)については、
に厳格な流通管理が必要な場合には有意義だが、
からすると欠点となる恐れがある。
したがって、
「全例調査」とは別の枠組みのもと、
必要があると考える。
特に、次のような点が求められるだろう。
・ 当該医薬品を使用している全体の人数(
握しておき、何かあった場合に、
発現頻度がわかる
・ 誰が使用しているかわかる
・ ある集団において医薬品を使用している人としていない人を把握し
使用による影響を調べることができ、
る
具体的には、多数の病院および診療所の処方、検査結果、
大規模データベースが必要である。日本で最も考えやすい例は、
ベースを活用することだが、これにはいくつかの課題がある。
◆ 厚労省保険局が出した「
活用に関する検討会」報告書(平成20年2月7日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/
人が識別できないよう、国がデータを収集する際には、
を削除する」としている。このため、
(使ったか)わからず、
生じる。勿論、個人情報保護の観点から匿名化は必須だが、
いざという時のために連結可能性を残す工夫が必要だろう。
◆ レセプトデータベースからは、生死などの転帰や、
名が正確に把握できない可能性が指摘されている。
険病名を上手に使うためには、
必要なデータに限って可能として、
原データと見比べて検証し、「信頼できる保険病名」と「
を区別することが必要となる。
◆ 現状では、
る。上述の厚労省保険局による報告書でも、
保、目的、計画、分析方法、データの使用・
査を受けなければならないとされている。
のルールが必要だが、
期防止するという国民の利益を損ねないような運用方法が求められ
<4> 新たな手法へのチャレンジ
すでに、データマイニング(
マコゲノミクス(副作用の「予測」「予防」が目的)
とおりである。PMDAでも取り組みが始まっているようだ。
(4) 未承認医薬品の安全対策を!
情報のグローバル化を受け、
知ることができるようになった。
ることも多いのが現実である。
ところが現状では、未承認薬を使用する患者は、
中の医薬品に対する安全対策の枠組みの外にあって、
大の問題といえる。未承認薬をやむなく使用する場合の使用件数(
用件数(分子)も明らかにされておらず、
患者のために未承認薬をやむなく使用した場合の副作用報告につい
認薬だからという理由で無視するのではなく、積極的に収集、
要がある(これを行う組織としては、
するPMDAが行うのが妥当であろう)。そのためには、
が設置され、薬監証明のデータから、
用頻度を知るための分母)が把握されるべきと考える。
また、
未承認薬の使用による安全管理を徹底する必要もあるだろう。
情報は、未承認薬の場合であっても、
である。
【 2 】 「適応外使用」はほんとうに悪なのか?
第9回委員会(平成21年1月15日)において、「
的な医療行為については、
べき」という議論が出た。しかし、
応外使用をなくそうという発想は国民の不利益を招くことになるた
考えてみたい。
(1) 適応外使用とは?
<1> 一口にいっても、ピンからキリまで
適応外使用とは、すでに国内で承認されている医薬品を、
効能・効果、用法・用量の範囲外で使用することである。
の治療行為として使用すべきではない研究的なものから、
サスが得られていても使用方法としては国内で承認されていないも
なものが含まれる。
適応外使用のうち、研究的な医療行為については、現状でも、
として実施し、事前に倫理審査委員会に諮っており、
ていく方向にある。一方、医学的・倫理的に不適切な使用や、
ような違法行為は、もちろん許されるべきではない。
応外使用のあり方をチェックする仕組みを作ることに反対する人は
また、薬害肝炎では、適応外使用により、
必要性がない患者にまで投与されて使用患者数が増加し、
るとされている。こうした事例から「適応外使用は悪だ」
方がいることも理解できる。
しかしながら、すべての医薬品の適応外使用を問題視すると、
けられない場合が生じ、
る。
<2> 適応外使用はむしろ不可欠
例えば、シスプラチンという抗がん剤は、がん化学療法における「
グ」であり、世界中で様々ながんに対して使用されている。
調べた際、米国ではシスプラチンの添付文書に記載された効能・
極めて限られていて、
いる。しかし、これはつまり、米国でも日本と同様に、
稀ではないことを示すものに他ならない。
現在のがん化学療法では、複数の抗がん剤を併用することが多く、
いで発売されるため、最善の治療方法は次々と更新されていく。
・
の治療方法が、製薬会社による申請、
定プロセスを経て、
また、稀少疾病や小児疾患など、
医学界ではコンセンサスが得られている薬剤であっても承認されて
などもある。
すなわち臨床現場では、
外使用を行わざるを得ないのが現実である。
ここで注意していただきたいのは、適応外使用であっても、
て既に承認された医薬品であり、
療現場では、その時々の医療水準や患者の状況を踏まえ、
を受けられるよう柔軟に対応しているのが現実である。
銭的な対応は各国の医療保険システムによって異なるが、
関しては、日米の間に大きな差は見られない。
日本では金銭的な対応(保険適用)についても、
るために適応外使用をせざるを得ない場合が考慮されている。
年通知以来、
医師の裁量権の範囲であるとして、保険診療を認めてきた。
応外使用の場合も、保険会社が認めれば保険で支払われている。(
:「保険診療における医薬品の取り扱いについては、
は効果、用法及び用量によることとされているが、
た医薬品(
に基づいて処方した場合の取り扱いについては、
正化を図ること」「
て都道府県の間にアンバランスを来たすことのないようにすること
<3> 実情を踏まえた現実的議論を!
このような現状にあって、個々の医師は日々、
を踏まえ、目の前の患者に「何が最適な治療法か」
もっと言えば、
られるよう、
患者は治療を受ける機会を逸する危険があるのである。
患者の利益を最優先するのが医師であり、
使用だからできません」と言うことの方が、
そのような医療を日本の国民が選択するとは思えない。
医師の判断を尊重することなく、
るようになれば、もはや患者中心の医療とは言えなくなるだろう。
すなわち適応外使用を考える場合、
要がある。「薬害の温床になるかもしれないから規制すべき」「
べて悪」という発想ではなく、
適応外使用における薬害防止の方法について議論を別に進めるべき
例えば、適応外使用に伴う安全性のリスクとして、
に、あるいは他の医薬品との併用によって、
ある。
使用をせざるを得ない状況を認めた上で、
う議論を行う方が重要といえる。
また先に、
こと自体は反対ではないと述べたが、
が必要である。「事前」のチェックは実態にそぐわず、
現実の臨床現場では、
る。また、最善と考えられる治療の変遷スピードも、
非常に速くなっている。このような状況で、
チェックを必須とすれば、
することは明らかである。規制や取り締まりではなく、
化や、その判断根拠として情報公開を促進することが、
ろう。
(2) 注意書きは禁忌にあらず!
第9回委員会では、添付文書の注意書きに関して、「『効能・
の記載の不明確さが、
か』という観点からの検討が必要ではないか」
現行の添付文書では、効能・
対する有効性及び安全性は確立していない」
を促しつつ実際の使用を可能としている。この注意書きの意義は、
承認された場合に十分想定される使い方のうち十分なエビデンスが
いて、「
よ。そのことを知った上で使用方法を熟慮してください」
することだ。禁忌とは違う。医師と患者の間での話しあいの結果、
う決断があって何ら問題はないのである。
れば、その旨をより明確にする必要がある。
そして、もし仮に、
ような記載方式を取れば、
必要な診療行為がストップする。なぜなら、
状況と同じ集団すべてに治験を実施することは不可能だからである
添付文書の記載をより厳しくして使用対象を制限しようとする対策
を防ぐという目的を果たすことはできないどころか、
省やPMDAが説明責任を形式的に回避できるだけであって、
た制度と言えるものではない。
勿論、治験で得られた有効性・安全性に関する情報や、
しく医療現場や患者へ情報提供することが必要なことは言うまでも
に情報提供するという行為を使用制限に結び付けてしまえば、
出来なくなり、本末転倒となることに注意が必要である。