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Vol.099 院内の医療安全体制の推進 医療事故調の有効活用の仕方

医療ガバナンス学会 (2016年4月25日 06:00)


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この原稿は MMJ4月15日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2016年4月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.事故調は使いにくい?
医療事故調査制度がスタートして半年余りが経過している。全国家的制度としては初めての試みなので、思わぬ制度の欠陥が露呈して各医療機関が炎上しはしないか、多少の心配はあった。しかし、幸いなことに、そのような欠陥は露呈していない。したがって、もしもに備えて改正医療法附則として挿入された「見直し」条項は、文字通りの意味では発動されずに済みそうである。
ただ、従来より医療安全に熱心に取り組んできた各医療機関の医療安全担当の方々の一部では、「この事故調は何となく使いにくい。」という感覚を抱くこともあるらしい。確かに、従来からのインシデントレポートを中心として院内の医療安全を進めてきた方々からすると、しっくりこない向きもあろう。
それはもっともなことであり、実は、同じく医療安全の推進活動をしながらも、そのやり方が異なるからである。

2.大量の事故収集システムとの違い
日本医療機能評価機構が運営する医療事故情報収集等事業や、各医療機関が運営するインシデントレポート収集は、従来からの医療安全推進活動において一定の成果を挙げてきた。もちろん、今後に向けても変わらずに重要なので継続し、かつ、さらに強化していくべきものである。
ヒヤリ・ハットの段階で捕捉することが多いので、将来の再発防止に有益であることは当然であろう。そして、大量の「事故」情報を収集するので、そこから一定の傾向性を見い出していくことができる。当然、事故予防にとって、有益かつ適切であることは言うまでもない。
ところが、今般の医療事故調査制度は、死亡症例に限局されているし、何よりもインシデントレポートにように「事故」情報が大量にはならないことは、当然である。とすると、インシデントレポート収集で成果を挙げたと同じ意味では、再発防止につながってはいかないであろう。
インシデントレポート収集から医療安全につなげていった従来の発想からすれば、同じようにはいかない。まさに「この事故調は何となく使いにくい。」と感じるのも、ある意味そのとおりであろう。

3.事故分析による事故予防の難しさ
今般の医療事故調査制度と同じではないけれども、類似したものとしては、モデル事業が挙げられる。できる限り解剖を行い、当該医療行為の分析を丁寧に行い、医学的評価もしくは医学的妥当性を検証することは、医療の質の向上それ自体にとって意義深い。しかしながら、当該医療行為自体に特殊な事情が存することも多く、直ちに普遍的・一般的なものにした事故予防には導きにくいように思う。他分野も含めた安全の専門家が英知を結集して良いアイデアを創出しない限り、結果としてはヒューマンエラーの非難可能性を精査するに留まりかねず、普遍的・一般的な再発防止にはつながらないことも多い。
もしも再発防止の良いアイデアが無いままに医学的評価や医学的妥当性を追求しても、医療の質の向上にはつながるかも知れないが、少なくとも普遍的・一般的な再発防止にはつながらないように思われる。ましてや、その追求を強めようとすると、今度は、医療行為の萎縮効果や消極効果の方向に強く反作用してしまう。すべての国民は、確かに質の高い医療や安全な医療を望むものではあるが、同時に、医療の機会の確保や積極的な医療提供も望んでいる。これらのバランスを考慮しなければならないであろう。

4.大量の事故除外システムの活用
今般の医療事故調査制度は、当然のことながら、「医療事故」と判断した後の「事故調査」それ自体に、慣れない「院内調査」への習熟を中核としつつ、「センター分析と予防策創出」と「センター調査」という大きな意義があることは言うまでもない。しかしここでは、事前および事後に院内で適切に手順を踏むことによって、大量の事故「除外」システムとしての活用も目論まれているのである。
大量の事故「収集」システムならぬ大量の事故「除外」システムというのは逆説的であるけれども、この除外システムの活用こそが院内の医療安全の体制基盤整備と推進をもたらす。
たとえば、「医療事故」判断における「予期しなかった死亡」の要件について言えば、適切に医療記録を整備したり、適切に事前説明をすれば、たとえそれが過誤に基づくものであったとしても、少なくとも「医療事故」とは扱われないこともある、という積極的効果を発する。従来からその防止が推進されてきた転倒・転落などの広義の管理事故も除外され、本来は医療の質の向上として図られるべき原因不詳の死亡や原病の進行や併発症への対処も除外された。
「除外システムの活用」とは、管理者の下でのすべての死亡症例の一元的チェック、医療記録の充実、丁寧な事前説明、医療事故の不認定における適切な精査に基づく判断、不認定事例の過誤・管理・医学的妥当性等の面での院内検証などといった医療安全管理における活用のことである。医療事故調査制度は、「収集」という面での効用と共に、実は、「除外」という面での活用も期待されていると言ってよい。

5.医療界の真摯な取組みへの期待
今般の医療事故調査制度に対しては、すべての国民から医療界の真摯な取組みが期待されている。その取組みとは、究極は、院内の医療安全管理体制の基盤整備と、これに基づく院内での医療安全の推進であると言ってよいであろう。
これは、従来型の事故「収集」システムだけによって果たせるものではなく、今般の新たに導入された事故「除外」システムも活用することによって果たせるものである。そのためには先ず、医療事故判定会議などの院内の適切な手続きによって、たとえ医療事故不認定の際にもその問題点を摘出しなければならない。次には,その問題点に即して院内での検証を行い、最後は、医療安全管理委員会で院内の実情に即した改善策を創出していくべきことであろう。
各医療機関が自主的・積極的に、事故「除外」システムを活用して、医療安全管理を充実させ、医療安全を院内の実情に応じて推進させていくことが望まれる。

http://expres.umin.jp/mric/mric_093.pdf

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