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Vol.096 キッチンカーに載せる市民の思い

医療ガバナンス学会 (2016年4月20日 06:00)


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相馬市長
立谷秀清

2016年4月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

5日前の4月14日の夜に発生した熊本県熊本地方を震源地とするマグニチュード6.5の大地震は、5年前の東日本大震災の記憶を甦らせる衝撃的なニュースだった。我々の他地方の震災の際のルールとして、被災地の中に5年前にお世話になった自治体が無いかどうか調べたところ、熊本県玉名市と山都町から被災直後に支援物資を戴いていることが分かり、14日の夜のうちに両自治体にペットボトルの水を発送することを指示した。九州は余りにも遠いので運送業者に頼らざるを得なかったが、市民にもあの時の義理返しの趣旨を伝えるために新聞各社に連絡し、防災倉庫からのペットボトルの積み出しを報道してもらった。ところが、最初のマグニチュード6.5の揺れから28時間後の16日の未明に、本震と目されるマグニチュード7.3のさらに大きな揺れが熊本地方を襲うことになる。

東日本大震災との大きな相違点だが、二つの大きな揺れが夜間に起きて、しかも余震となる中規模な地震が一時間に数度の頻度で断続的に住民を襲うという事態に見舞われたのだ。災害の規模や死者の数では東日本大震災との比ではないが、震度5ないし6の大きな揺れが断続的にしかも夜間に住民を襲うとなると、その恐怖心は相当なものに違いない。5年前の震災の時も情け容赦のない余震に、ずいぶんと苦しめられた記憶が甦ってきた。16日は土曜日だったが、市役所の災害対策チームに議会を含めた熊本地震対策会議を招集し、予め集めておいた現地の情報と、相馬市と少しでも関係のある自治体の震度情報を突き合わせる作業に入った。震度5以上で活断層の近傍とみられる対象エリア内の関連市町村は全部で12自治体。関連市町村とは、私が相馬市長として入会している団体、「社会資本整備を考える首長の会」「地方を守る会」の会員が合わせて9自治体、それに相馬市の誘致企業である「ハクゾウメディカル」の姉妹工場がある菊池市と、震災時に支援を頂いた玉名市の合計12自治体を支援の対象とした。

相馬市が次の震災に備えて2013年に整備した防災備蓄倉庫には2リットルのペットボトルの水が27000本、毛布が約7000枚在庫してある。水は、もしもの原発事故悪化に備えて毎年買い足しているが、毛布は震災の時に他の自治体から戴いたものである。在庫のそれぞれ1割程度を九州の支援に廻しても市が困ることはないし、5年前に支援を受けた自治体は相馬市と交流のあった自治体の数をはるかに超えていたことを考えれば、この支援は手始めと思わなければならない。12の関連自治体の被害の状況を詳細に把握することは出来なかったが、不要なら使いまわしすれば良いだけの事と考え、16日のうちに水と毛布セットにして運送業者に託した。同時に市民への義援金募金の呼びかけを、2度の支援物資発送の報告を兼ねて市政だよりの号外版でお知らせした。

しかし、その後も被害は拡大の一途をたどり、18日の報道によれば現地では水と食料と毛布が足りないらしい。また住宅で夜を過ごすことを怖れる熊本地方の住民が避難所に入りきれず軒先にまであふれかえり、自衛隊のオニギリを待つのに1時間も並ばなければならないという。さらに道路寸断による物流の停滞に加え、災害が大きいばかりに支援物資の仕分けと搬送が困難らしい。

勿論、相馬市が出来ることと言えば必要な支援活動のほんの一部でしかないのだが、願う事ならば効率的な被災者支援で役に立ちたいし、我々と同じように復旧復興の長い道のりが待っていることを考えれば、中長期的な視点も必要になる。そのことを18日の2回目の支援会議で議論したところ、5年前の震災の時にシダックス社から戴いたキッチンカーと、防災倉庫に全部で12器も整備したガス炉付きの大鍋を貸し出すことが中長期的には効果があるのではないかとの案が出た。
そこで私は交流のある菊池市の県議会議員の前川収氏と電話で話し、キッチンカーと大鍋をどこに送れば効果的かを相談させてもらった。前川氏はキッチンカーとか大鍋という考えにびっくりしておられたが、キッチンカーなどは今すぐにでも有難いし、避難所生活の長期化を考えれば大鍋も役に立つと思うので被災市町村に聞きあたり、相馬市長に連絡すると言われた。

その数時間後、さっそく熊本県高森町長からファックスが入り、キッチンカーと大鍋を借りたいとの要望が寄せられた。大鍋は12器のうち相馬の不測の事態に備えて2器は残すとして、10器の運用を現地である高森町と広域的には熊本県議会にお願いして有効活用してもらうことにした。

前川氏は車を取りに行けないのが済まないと言っておられたが、あの震災の時に我われに「取りに来てくれ」と言った支援者はゼロだった。あの時の全ての支援者は全国的なガソリン不足のなか、必死の思いで相馬市に届けてくれたのである。だから今回も当然のことながら、水の入ったペットボトルを満載したキッチンカーをこちらで運転して行かなければならない。

職員たちに募ったところ、大型免許を持つ情報政策課長の遠藤君と市長運転手の森君、それに議会運転手の坂本君が手を挙げてくれた。3人には本当に済まないが、今日一日だけ義援金ボックスを待って、中間集計の義援金を玉名市と山都町に届けながら、相馬市民の気持ちをキッチンカーに積み込んで走ってもらいたい。

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