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臨時 vol 300 杞憂であればよいが、欠品問題は続発しないか?

医療ガバナンス学会 (2009年10月21日 11:18)


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(財)化学技術戦略推進機構(JCII)
研究員
日吉和彦


日頃、日本の新規医療機器開発の活性化を念じて微力ながら活動をしておりますが、米国を主とする輸入医療機器の欠品問題に対して、心配が募るこの頃です。このところMRICメルマガではインフルエンザ対策の議論が大勢ですが、欠品問題不安感を共有していただければと思います。

まず、先般の骨髄フィルター騒動については我が国の医療行政の不備の解析は進んでいますが、なぜ欠品になったのかについての米国の事情についてももう少し立ち入っておいた方が良いのはないかと思って振り返って見ます。
米国の業界内では周知のことでしたが、バクスター社の血液フィルター関連事業は長らく低収益に苦しんできて、一昨年ついに手放すこととなりました。血液フィルター事業をよく知る競合会社に事業買収してもらえれば良かったのですが、買手は医療機器産業に日の浅いいわばベンチャーファンドに近いもので、大企業ではできなかったコストカッティングを行えばそれなりに儲かるであろうとの読みでした。早速生産拠点を米国内からカリブ海の島国に移しました。FDAから見れば、国産品から輸入品に変わるわけで、所定の申請と審査の手続きが必要です。とは云っても新規のものではありませんから、我が国の審査とは異なり、取るべきデータとそれに要する費用と時間はきっちり見積もることができます。つまり生産供給など事業計画がきちんと立てられます。しかし、この新人経営者は、不幸にして薬事規制への対応にどれだけの時間がかかるものか考慮が及ばなかった様です。現場の技術者の尻をピシピシ叩けば如何様にも時間短縮可能と思っていたのかもしれません。それから後は、既にMRICで詳しく報道済みの欠品騒ぎが日本で起きることとなりました。

以上それほど立ち入った話ではないのですが、ここで押さえておきたいポイントのためには十分と思われます。つまり米国では医療機器はれっきとした産業です。大まかに年間総売上年800億ドル、簡単のため1ドル=100円として、8兆円の産業領域です。他の産業分野と同様に厳しい競争の元で優勝劣敗の変遷はダイナミックであり、それこそが米国が医療機器で世界を圧倒する競争力を持ついわれです。そこでは不採算部門が容赦なく切り売りされます。今日大手と云われる企業も10年前には驚くほど小さな会社で、主にM&Aによる急成長ぶりには目を見張るものがあります。しかし、その様な成功会社は、有望な新規医療機器を開発したベンチャーなどを熱心に買収するのであり、商品として老齢化し低収益のものなどには目もくれません。成熟低成長事業を買おうと云う者は、それによってなおかつ収益が上げられると思うものだけです。つまり、今回の骨髄フィルターと同様なことが起こりうる可能性が、米国医療機器ビジネスの社会では、いくらでもあるということです。

そこで米国医療機器ビジネスの最近の様子を見ましょう。昨年秋の国際金融危機に端を発する大きな不況の影響を、当初はあまり受けませんでした。今年の初めにはGEの社長が初めて自らメディカル部門を訪問し、GEの希望の星と云ったことがメディアに大きく取り上げられました。しかしその後、日を追うに従って、いのちに直接関わるハイリスク治療器はさておき、高額大型の診断機器類の更新需要は見事に止まってしまいました。血液フィルターやシャントの様に一回切りの使用で捨てられる(シングルユース・ディスポーザブル)医療機器は他にも多様なものがありますが、同程度の製品ならより安価なものへと指向する医療施設の購買姿勢は、どんどん強化されています。総じて医療機器も例外ではなく長引く不況の影響が深刻となってきています。

そこについにやってきたのが民主党の医療保険制度改革です。このためにはとてつもなく大きな財源を必要とします。オバマ大統領は医療産業に対する特別課税を打ち出しました。医療機器産業界に対しては10年間に渡り総額4000億円という巨額です。単純に割って年400億円の時限課税です。先ほど年8兆円の売り上げと述べました。医療機器産業は利益率の高い業種ですが、あらっぽく25%として年2000億円の利益です。その20%を税金として求められている訳です。これは企業経営者にとって正に死活問題と云ってよいインパクトであり、業界は一丸となって反対運動キャンペーンを展開しています。
ここで話を日本に持ってきます。日本の医療機器は60%が輸入品です。中でも米国が半分以上を占めて年6000億円となります。ところでご存知の通りのドル安です。昨年、国際経済危機の前には1ドル110円だったものが、このところ90円のあたりをふらついています。また乱暴な計算をしますが、1年前に1ドル110円で製品を仕入れて、1年がかりで販売コスト平均1ドル100円をかけて売って、得た利益は1ドル90円で米国本社に納めるとして、売上高利益率が円ベースで25%とすると、コストの75%はドル高デメリット25%の利益だけがドル安メリットを受けられるということになります。勿論ほんとうの商売はそれほど単純ではありませんが、このドル安の影響は間違いなく不利なものとして影響しています。

以上で、米国医療機器産業がこれまで経験したことのないような苦しい事業環境におかれていることをみました。ところで日本ではこの度明治維新以来とも云われる大きな政権交代が起こりました。医療行政に関する様々の問題がもう臨界点に達し、これから大きな改革が断行されるであろうことは歴史的必然の様に思えますが、だからといって、医療機器の保険償還価格が値上げの方に改訂されるとは、誰も期待しておりません。結論はもはや明確ですが、米国医療機器企業にとって日本市場はもはや高収益を期待できる市場ではない、ましてや本国で今後予想される大幅な利益低下を補うことなど期待のしようもない、そこで米国内で不採算製品をカットするように、国際市場において日本市場を低収益地域としてカットしよう、という経営判断があっても何の不思議もない状況のように思われます。

バクスター社から血液フィルター事業を買収した人たちは例外として、なんと言っても医療機器はヒトのいのちに関わる製品ですから、供給継続の社会的責任が大きいことは云うまでもありません。儲からないからと云う理由で供給を止めることはおいそれとはできません。しかし、採算悪化のために生産現場の設備や生産環境を維持できず、品質が低下し、生産が継続できなくなったと、ある日突然云われたら、止めるな、供給せよと云ったところで直ぐにどうなるものでもありません。

国民の安全・安心にとって重要な食糧やエネルギーの海外依存度の高さは誰も

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