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臨時 vol 299 「日出る国の昇らぬ産業  「再生医療ビジネスの暗い未来」 (2)」(事業化を失敗した元経営者の繰言)

医療ガバナンス学会 (2009年10月19日 17:41)


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株式会社ビーシーエス
元代表取締役
稲見雅晴


4:我国のバイオ・再生医療研究環境

【プアな研究環境】

基礎研究といいながら、極めて短期間で成果を求めたり、我が国有数の研究機
関でもほとんどがプロジェクト毎の臨時雇用で研究者を雇っています。生活基盤
の確立なくして優れた成果を生むことはありません。
研究へのケアは、研究費を出すだけではなくその研究当事者へのケアも重要です。

【研究のための研究(論文主義)】

我国の基礎研究は、論文発表を持って帰結するのが主流です。このため、研究
のための研究に終始し、自分の研究が臨床的にどのような意味を持つか、明確な
ビジョンを持っている基礎研究者は少ないように思います。対して、欧米の基礎
研究者は自分の研究のEXITについて、ほとんどの基礎研究者が明確なビジョンを
持っています。欧米では臨床における自身の研究の意義を熱く語る基礎研究者に
沢山出会うことができます。

論文発表で終わると言う事は、患者治療に責任を持たないことを意味します。
こういう研究や研究者にいくら研究費を渡しても身になる成果は絶対に出て来こ
ないと思います。私は基礎研究をすべて否定するものではありません。成果ばか
りを求める事は、行き過ぎた成果主義となり、結果的に基礎研究の可能性を否定
する事になりかねないからです。

しかし、今のわが国の基礎研究(国の研究支援を受けているリストを見て)は、
本当にすべて基礎研究であるかはなはだ疑問です。特に特定の研究者に集中して
いることを考えると恣意的なものを感じます。このような基礎研究者ほど結果が
出なくても基礎研究だと言い募っているように思えます。

【古い体質】

大規模な共同研究(プロジェクト)は組織されますが、ボスが割り振った一部
を分担研究するケースが多く、若手に研究のマネージメント経験が出来るような
体制になっていません。これでは大局を見た研究組織の構築は出来ませんし訓練
もできません。又、最も重要なパートナーである臨床医とのコラボを拒む体質も
大きな成果や直ぐに臨床応用できるような研究が進まない大きな原因になってい
ます。

以上のような古い体質や年功序列が幅をきかしていることが若手の台頭を阻ん
でいる原因でもあります。官庁が組織する検討会には現役を退いた古手の研究者
だけでなく現役の研究者も招聘すべきでしょう。

医療機器等は、明らかに工学系技術者等とチームを組まないと研究開発はでき
ませんが、再生医療は研究者自身である程度の成果を出す事ができます。このた
め、他の専門領域(特に権利化や製品化)のプロから適切な助言が無いまま進ん
だ研究が多く、このような研究成果を産業化るにはさらに時間と資金が必要にな
り、ケースによっては産業化が難しいケースもでてきます。

我国の大部分の研究者・医師は、常に主導権を取りたがり、工学系研究者や技
術者、メーカを下に見る傾向があります。このため、優秀な工学系の人材ほど離
れてしまうのではないでしょうか。(人は金だけのために仕事をしていない。名
誉も重要な要素である。)

【TLOは機能しているか】

権利化(特許)するなら、それだけで研究開発が帰結できる製造特許を目指すべ
きです。結果的に周辺特許や部分特許になるならしかたないのだが、TLOで紹介
される特許のほとんどは最初から自分の研究範囲だけで申請された部分特許が多
く、請求範囲が狭いためほとんど単独で利用できないものになっています。これ
では初期の段階から弁理士やビジネスに精通している人材とチームを組んで特許
化にあたる欧米のチーム研究の敵ではありません。

5:審査制度への疑問(改善はされつつあるがスピードは遅い)

【産業構造を理解していない】

特定生物由来のようなリスクの高い医療機器をベンチャー企業が扱うことを嫌っ
ているのでは?

リスクの高い医療機器を既存の大企業が扱うケースは世界でも少なく、ベンチャー
企業がそれを担っている事を認めたくないのでは?

新しい申請者(ベンチャー企業)の性格、能力を理解し、それにあわせた審査
受け入れ態勢を構築しておけば、お互いにストレスにならないと思うのですが。
(仲間内に通じる符丁を強要する事は非関税障壁と同じではないか。)

【科学的な審査と言いながら】

書類の書き方が悪い、なっていないと言われるのは納得できません。

数値化を要求されるが、数値目標や根拠が示されないケースが多く、突っ込ん
だ議論になると申請者が決めるものだとなります。

審査ではなく、テストのようです。審査者が何を意図して審査するのか、審査
に必要な項目等を示さずに申請者が悪いというのは全く納得できるものではあり
ません。

【審査システムへの疑問】

審査基準を予め用意して事に当ると思っていたが、実際は一から勉強しながら
の審査のようでした。(私の印象)

同様に審査基準が明確でない。何をどのように審査するかを先に明示すべきで
す。検査方法等も審査側が事前に研究しておき、申請者に指示するくらいであっ
てほしい。

臨床試験実施に関する対面助言(有料)の場で、助言を受ける前に企業側の医
師がPMDAの職員(16名)に対し、熱傷治療についての説明をしなければならなかっ
た。金を取り、専門的な助言を受ける場で最も基礎的な説明を申請者に求める事
がどういうことなのか理解できないのでしょうか。

申請品目に関する種々のデータは申請者側に豊富にあると思います。しかし、
それについて質問されたり情報開示を求められた事はありません。(民は官より
常に下?)

審査側の幹部と実務者の意識に隔たりがあるように思います。

時間感覚が世俗とは決定的に乖離しています。「時は金なり」「効率化」「サー
ビス」に関してまったく世の中と異なる思考体系です。

昔は、患者に優れた医療機器を迅速に提供するためという審査側と申請者側の
共通認識がありましたが、現在は患者の姿がどこにも感じられない。(申請者は
敵?)

審査進捗状況がわからないので精度の高い経営計画等が立てられません。この
ため、企業はVCからいい加減と思われています。

6: ベンチャー企業自身の問題

自戒と共に(BCSは愚
直に全く審査側に逆らわず求められる通りに審査資料を
出した結果資金が続かず破綻したが)計画が杜撰。(マーケット、技術レベル、
目的達成のための予算計画等々)順法意識が低い。(法、通達等の勝手な解釈、
GMP,GCP,GLP,QMSに対する考え)申請経験が少ない、無い。(薬事申請に対する最
低の知識は必要)専門集団で会社組織となっていない。(薬事等の業として必要
な部門は持つべき)何をすべきかのプライオリティが明確にできない。(資金調
達に追われて)

7: 資金調達(ベンチャーキャピタル)

先行投資型事業である再生医療ビジネスでは、初期投資費用をベンチャーキャ
ピタル(VC)等の資本市場に頼らざるを得ません。

わが国のVCは銀行系が多く横並び体質であり、自身で判断せずリードベンチャー
に判断を委ねそれに便乗して投資する傾向があります。自分で投資判断ができる
VCは我が国にはほとんど存在しません。(少なくともバイオ(創薬)と再生医療
は全く異なるビジネスモデルである事くらいは理解しておいて欲しいのですが)

極めて初期段階の研究や話題になった案件(よくわからない案件)への投資は
簡単にするようだが、努力によりビジネスの方向が見えてきたような案件は評価
しないようで、投資検討する場合もマーケットがあるかとか自分の知識の範囲で
難癖をつけたり、文句を言い出す。私の経験した米国のVCは、投資しない理由を
詳細に説明してくれた。それは視点が違うし、評価にも不満に思える箇所はあっ
たが、概ね納得せざるを得ない説明だった。事業の問題点を指摘することはベン
チャー企業に反省の機会を与え、より精緻な事業計画を立案するためのトレーニ
ングとなり、例えその投資が不調でもベンチャー企業を育てる事になる。

ただでさえ分かりにくいといわれている医療技術や法規制について、積極的に
情報収集を行っている様子がありません。ほとんどが報道資料に頼っているよう
で自分で勉強する人は非常に少ない。

欧米との比較も大事であるが、各々の国で基礎的な条件は異なることを理解し
て議論できるアナリストはほとんどいません。プアな情報提供環境にも問題があ
る。

医療ビジネスは、研究成果を製品化しそれにより利潤を得て会社を運営するも
のが基本と思います。再生医療とは言っても医療ビジネスの一つであり原則は変
わりません。ビジネスサイズは患者数に依存する事は周知の事実です。創薬のよ
うに夢のような数字を提示することはできません。

例え患者数が少なくても、国民医療に有用であり、世界マーケットまで俯瞰す
れば大きなマーケットを構成するものもあります。基礎技術として有用なものは
その先で大きなマーケットを構成する可能性もあります。これらを見極める目利
きは我が国のマスコミや金融界にはほとんどいません。欧米の受け売りや安易な
比較は研究者や企業家をも混乱させます。

許認可は恣意的にできるものではありません。種々の理由で許認可が遅れ、上
市化が遅れることがあることを理解できていません。(当社はこのため、出資検
討をしていただいたVC、260社以上に直接お会いしこのリスクを説明してきた。)

間接金融制度のわが国で、脆弱な経営基盤のベンチャービジネスに直接金融で
の資金調達を強いる事自体酷な話です。再生医療の産業を基幹産業のひとつと考
えるなら、公的支援(下支えをするような公的ファンド等)との組み合わせは必
須です。

例えば、レートステージに入ると資金に困窮するケースが大変多く発生します。
これは、先に述べたようにEXITが見えたものには色々と口出しをして追加投資を
拒むケースが出てくるからです。公的支援は個々の企業を支援するものではない
と言うお役人(経産省)もいますが、中小企業対策と称して政策投資銀行等を通
じての支援は存在します。将来の有力な産業といわれているのに支援することが
できないのはおかしい。

莫大な資金を投じて製品化を進めてきたものが産業化し我が国に根付かせるこ
とも公的支援の究極の目的ではないのでしょうか。

科研費、研究補助の支出は申請者、審査者が同じであることとろくな支出の評
価システムがないことが問題であると思います。又、いわゆるボス連に支出も集
中していると思わざるをえません。1992年の吉里再生医療プロジェクト、ミレニ
アムプロジェクトどれも実用化という面での成果はほとんどありませんでした。
今も同じ方法で科研費や研究補助が支出されているようですからこれではどこか
の省庁のばら撒きと同じです。

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