医療ガバナンス学会 (2016年6月13日 06:00)
さて、上記のシンポジウムでは、日本専門医機構はもちろんのこと、内科学会、外科学会のシンポジストともに「医師の地域偏在問題」はないと考える、との発言で一致していました。
彼らの主張の根拠は「各基幹施設の連携施設が全国津々浦々に行き渡っている」との調査結果でした。つまり、全ての二次医療圏を調査した結果、内科系、外科系ともに、連携病院を持たない二次医療圏はたったの一箇所のみであった。そして、研修期間のうち最低1年は連携施設または特別連携施設での研修が義務付けられている。従って、二次医療圏の連携施設にも医師が行き渡り、地域偏在は生じない、という論法(暴論?)です。
当然、会場からも多数の異議、質問がなされました。それらの内容は皆さんもおおむね想像できることと思いますので、一つだけ紹介します。
「臨床研修制度が始まる前も「研修病院は全国にあまねく存在するため医師偏在は起こりえない」と言っていた。現状はどうだ?」
新制度の医師偏在への影響がどれほど深刻になるのかは予測困難としか言いようがなく、新制度の運用が(万が一)始まってみないと判らないとは思います。ただし、厚労省はこの問題についてかなり敏感になっていることが今年に入ってからの動きをみると良くわかります。
当初、厚労省は新専門医制度には関与しない、という立場でした。第三者機関である「日本専門医機構」が認可するプログラムを「プロフェッショナルオートノミー」で運用する制度であるから、厚労省は無関係である、ということです。
実際、昨年の臨床研修研究会において、厚労省の担当官が「専門医機構が認定した専門医に対して、厚労省が保険診療上何らかのインセンティブを与えることは、制度上ありえない」と発言しています。
しかし、そうこうしているうちに医師会、地方自治体、病院会など各方面から反対の激しい火の手が上がり始めます。すると厚労省は「必要ならば助言、各種仲介の労(!)をとる」などと表明することになります。
ところがその程度では反対論は収まるはずがありません。そこで3月には、厚労省社会保障審議会医療部会「専門医養成の在り方に関する専門委員会」を立ち上げざるを得なくなりました。
また厚労省医事課長から、各都道府県に地域医療の確保の改善(文面のまま)を図るための地域協議会設置を要請する、との通知がなされました(3月31日)。この通知は日本医師会、日本病院協会、全国自治体病院協議会、全国医学部長病院長会議、その他関係各団体、省庁にも周知されています。この事業支援のための予算も計上されています。
さらに「医療機関に対し地域医療に配慮した養成プログラムの作成に必要な経費などを補助」する予算も計上されました。両者を合わせると2億円以上の規模です。
その一環として、5月2日には厚労省医事課長名で、19の基本診療科全ての卒後3~5年目医師の在籍状況調査を行え、との通知がなされました。専攻医が都市部に集中することを避けるため、各都道府県の定数を設定する資料とする、とのことです。
つまり、新専門医制度は事実上、厚労省主導の事業に移行しつつあると考えていいでしょう。また、穿った見方をすれば、諸批判に晒された厚労省側としては、日本専門医機構なる任意団体にはもう任せてはおけない、と介入に踏み切った、とも考えられます。
そして、5月30日には第三回の「専門医養成の在り方に関する専門委員会」が開かれました。来年度はまず「試行」期間にする、といった提案がなされたとのことです。また、日本専門医機構の権限の縮小(そもそも任意団体なので、権限もなにもあったものではないと思うのですが)も提案されたとのこと。今後の動向を見守りたいと思います。
さて、医師の地域偏在問題に戻ります。個人的には、新制度が地域偏在を助長する可能性があるとすれば、「その問題を避ける」この一点だけをもっても、無期限延期で議論とシミュレーションを尽くす、あるいは全く白紙に戻すべきと考えます。しかも医師偏在問題以外にも呆れるほど多方面に問題を抱えた制度です。将来の日本医療をこれ以上悪い方向に向かわせるわけにはいきません。
次回は、第一回の質疑応答の続き、つまり、地域偏在問題以外の問題を掘り下げる予定です。今回も拙稿をお読みいただきありがとうございました。